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嘘をついてごまかすか、正直に言って相手を傷つけるか、それとも。

私の元コーチが、知人(以下Aさん)から「来週プロコーチ認定試験を受けるので、コーチングセッションの練習を受けてもらえないか」と頼まれた時のお話です。

元コーチは「いいよー」と気楽に引き受け、当日。

セッションが始まって元コーチはすぐに愕然とします。というのもAさんセッションのレベルがあまりに低く、とても試験直前のレベルとは思えない出来だったのです。

セッションを受けながら元コーチの心の中には「え、これでプロ試験受けるの??今まで一体何をしてたの??」と疑問が渦巻きます。

セッションが終わり、フィードバックの時間。元コーチは困り果てます。彼の頭の中には2つの選択肢が思い浮かびました。

1つ目は「嘘をつく」という選択。

「いや~まあいいんじゃない、頑張ってるよ、ははは・・」と適当に逃げて終わらせる。こうすればお互い傷つかないで済みます。しかし彼もプロコーチの端くれ、嘘をつくことに抵抗がありました。

2つ目の選択が「正直に、厳しい意見を伝える」というもの。

「ひどい出来だね。正直このレベルじゃとてもプロになんてなれないよ」と、忖度なしに伝える。こうすれば自分は嘘をつかないで済みます。しかし自分の言葉が刃となり、Aさんを深く傷つけてしまう可能性も。自分の言葉がきっかけで来週の試験どころかコーチングそのものをやめてしまったら。。そんな不安がよぎります。

嘘をついてごまかすか、相手を傷つけてでも正直に話すか。

元コーチは迷いに迷った挙句、そのどちらでもない「Aさんの素晴らしいところを本気で伝える」という選択に、一か八かで出たそうです。

Aさんってさ、本当に人のことを想ってるよね。ぶっきらぼうとかいう人もいるけどさ、話し方とか声からは、すごく相手のことを想っていることが俺には伝わってくるよ。人の可能性を本当に信じてる人なんだね。

セッション自体はひどかったものの、元コーチはAさんの光るところを一瞬で、全力で探し出し、本気で伝えてみました。するとその話を聞いていたAさんは泣き出してしまったのです。

驚いた元コーチはじっとその様子を見ていると、Aさんは泣きながら「本当は自分のセッションがひどい出来なのはわかっていた。でもどうしたらいいかわからなくて、ずっと苦しんでいた」と言うのです。

その後Aさんは自分のコーチやコーチングスクールのスタッフにヘルプを出し、試験を延期してもらって練習に励んだそうです。

「正直に伝えたら、きっと相手は傷つくだろうな」。
そう思って言葉をつぐんだことが、私は何度もあります。逆に言い争いの中でカッとなって、相手の欠点や短所を指摘したこともあります。

でも「今この瞬間、相手のために自分ができる100%のことは何だろう?」
その問いを持つと、自分が取るべき行動は嘘をつくことでも、相手を責めることでもないような気がしてきます。

もちろん人と人との関わりに正解なんてありません。時には事実をオブラートに包んだり、厳しいことを伝えなければならない時はあるでしょう。
ただ「嘘をつくか、正直に話すか」という2択の他にも、人と人との関わり方は無限にある。それを思い出すだけで人との関わりはもっと自由に、豊かになれる。

そんなことを元コーチの話を思い出しながら、感じました。





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