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正論で相手をねじ伏せるのではなく

4年前くらい前、知人のコーチが主宰している自己啓発講座の説明会に参加した。

彼は一貫して「今だけの限定講座」「受講しないと絶対に後悔する」と熱く話し、私は結局押し切られる形で40万円する1年間の講座を受けることになった。

そのときちょうど実家が親戚の裁判に巻き込まれたり心千切れるような日々を送っていて、なんというか私は弱っていた。
40万円という高額講座の受講に躊ちょしていた私の背中を押したのは「この講座を受ければ、あなたは必ず変わります」という彼の強い言葉だった。

そろそろ1年間の講座が終わるというときに、彼は講座の半年間の延長を提案してきた。
さすがにそのころにはもう講座の必要を感じなくなってきたので断ると、彼は私の誰にも触れられたくないことを的確に突き刺してきた。

「仁美さん、そんな調子でこれからも生きていくつもりですか。いつもいつも言い訳ばかりして、結局あなたは何も変われなかったじゃないですか。今変わらないと、永遠に変われませんよ」

結局私は20万支払って講座の延長を申し込んだ。
幸い私の周りにいた心優しい友人たちが「目を覚ませ」と何度も言ってくれたこともあり、お金は戻らなかったもののそのコーチとは縁を切ることが出来た。

先日開催した文章教室で、私は「自分の考えを書くときは、言い切らないことが重要」と参加者の方にお伝えした。

例えば「りんごは身体にいいんです!」と書くよりも「りんごは身体にいいといわれています」と書いた方が、読み手はスッと言葉を受け取れる。読んだ9割くらいの人が納得する文章に、言い切りは実は必要ないのだ。

文章で一番大切なのは読み手の頭に絵が浮かぶことであり、そのために必要なのが客観的な視点だ。言い切ってしまうと主観のにおいが立って、読み手の頭に絵を立つのを邪魔させる。

・・とクラスではお伝えしたけれど、結局のところ私はもう二度と「そんな言い訳ばかりしているから、あなたは変われていないんですよ」と誰かに正論でねじ伏せられたくないだけなのかもしれない。正論をぶつけなくてもいい社会で生きたいだけなのかもしれない。

講座ビジネスに詳しい人に聞いたところ、以前はフロントセミナーに来たお客さんをいかに焚きつけて高額な本命商品を買わせるかに注力するスクールが多かったそうだ。

だが最近は人口減少もあるせいか「一人のお客さんと長く付き合う」という営業スタイルが増えており、商品購入を迷っているお客さんに強い言葉で即決を促すことは少なくなっているらしい。

ソルジャーとして強い言葉で人と関わり、利益を上げることだけが正義という空気がまだまだ社会にはある。
ガムシャラに頑張る空気は嫌いじゃないけれど、それが行き過ぎるとかつての私のように限界寸前の人の心はかんたんに壊れてしまう。

Googleが「職場に大切なのは心理的安全性」と発表して、世界中の企業が心理的安全性に注目するようになった。同じように「文章にも会話にも強い言葉は必要ない」と私が言い続けることで、世界に小さい変化を起こしたい。

そしてもっと言うなら「Googleがいうのなら間違いない」というような揺るぎない信頼が私も欲しい。
仁美さんが言うなら、強い言葉より相手に寄り添った言葉を使ってみようかなと思ってもらえる人になりたい。

壁はまだまだ高いけど皆に信頼されるような人間力を目指して、まずは会社の清掃を丁寧にする私であった。

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