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寒気を感じに東京に来た。

イントルーダークラシック400。卒検を受ける前にフライングしてレッドバロン練馬で購入したはじめてのバイク。「とにかくでけえバイクに乗りてぇんだ」という希望を叶えてくれたバイク。買って4日目に野方から木更津まで行って事故ったバイク。住んでいた野方の1DKには駐車場どころか駐輪場もなくて、徒歩7分の場所に毎月8020円の駐輪場を借りた。駐輪で8000円て。東京を感じた。俺は東京にいるんだ。そう感じさせてくれたバイク。イントルーダークラシック400。



「intruder」には侵略者という意味があるらしい。侵略者に跨って走る東京の街は楽しかった。靖国通りから眺める新宿が好きだった。今はもう生産していないらしい、国産アメリカンで最も大きなサイズの侵略者。なんだか自分のことを言われている気がした。自分にぴったりなバイク。買って1ヶ月足らずで日本一周にも出かけた。



「東京という街の地面はね、夢破れたやつのしかばねでできてる」と歌ったMOROHAの言葉の意味は、東京に出てきて半年くらいたってから思い出した。羽田行きのピーチとリムジンバスを乗り継いで降り立った新宿は拍子抜けするくらい田舎者に優しく、夢を叶えにきたことを誰も笑わなかった。東京の怖さを感じたのは、2ヶ月目のおわりくらいだったかな。



当時所属していたコミュニティの中で仲の良かった子が急にいなくなった。「アポブッチしていなくなったらしいよ」とまた別の友人は言っていたけれど、アポって何の?と聞き返すと「アポはまあ…アポだよ」と口を濁された。その場ではふ〜んと思ったけれど、それ以降彼の話が話題に出ることはなかった。


人一人が消えてんだぞ、田舎だったら大騒ぎだ。「いなくなったらしいよ」は大オーケストラの指揮者が指揮棒を一振りはじめたみたいなもんで、ここからでっかいバイオリンやラッパだかトランペットだか素人にはよくわからない金色のリコーダーをかきならして、勘ぐりと噂話と空気入れと根回しともう何が何だかごっちゃごちゃの大演奏会が始まるところなのに、東京の人は「スン…」とステージを立ち去ってしまった。え、このイベント、ここで終わりすか???


あ、やばいとこに来ちゃったんかも。北九州生まれ北九州育ち、親が製鉄マンのやつ大体トモダチ、県外で地元のことを話すと99%「成人式が荒れるあの街??!」と聞き返される成人式が荒れるあの街で育った僕は、自分が生きてきた環境と今いる大都会のカルチャーの違いに、身震いがした。「東京という街の地面はねェ!!!」と汗を飛ばしながら歌うオッチャンが脳裏によぎった。次は自分がしかばねになるかもしれない。


その出来事の渦中、大好きなUVERworldが新宿スワンの映画とタイアップしたことを西武新宿駅前のユニカビジョンで知った。東京にいるんだ。もしこの出来事がなかったら、「すごい!新宿で新宿スワン!!」なんて思ったのかもしれないけれど、その時の心境は違っていた。TAKUYA∞が歌って叫んでいる『目すら会わない人たちの街』はここの話なんだと。


ぞぞぞぞぞっとした。東京にいるんだ。東京にいるんだ。新宿。中野。渋谷。恵比寿。六本木。中目黒。品川。名前は聞いたことがあるけれど、心のどこかでフィクションだと思っていた街。舌打ちが街に響いているのを、北九州でぬくぬく育った僕は知らなかった。ぞく。ぞく。ぞくり。


あの時感じた寒気は、きっと一生忘れないだろう。侵略したのか、侵略されたのかわからない。イントルーダーは2年乗って売った。その後CX-5を買って衣装ダンスと布団をトランクに乗せて僕は東京を出た。僕は夢を見て東京に行き、寒気を感じて東京を出た。きっと僕も「あいつはいなくなった」と言われているだろう。いなくなったあいつも、遠くで人生を続けているのだろう。楽しくやってるだろうか。



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