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旅する日本語

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「旅する日本語」投稿キャンペーンhttps://note.mu/info/n/ndba45f9d066a に参加しています。対象になっている全ての言葉について書きました。
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2018年8月の記事一覧

昧爽(まいそう)

旅館に泊まると、興奮して早く起きてしまうことがある。 朝焼けをまじまじと見たのは初めてだったけれど、夕焼けとほとんど一緒だった。 違いのわからない人間だとわかってがっかりだったけど、同じに見えることに安心感を覚えた。 日が昇ることに望みを託し、日が沈むことに哀愁を感じる。毎日がそんな感じだったら気持ちのアップダウンが激しすぎて大変だ。 地球のルーティーン活動と捉えてしまった方が、むしろ楽なのではないかと思う。 始まりは希望で、終わりは絶望と考えたとしても、交互に入れ

礼遇(れいぐう)

豪華な料理とか、広い温泉とか、美しく整えられた庭園とか、非日常のものを提示することが「もてなす」ということなのだろうか。 確かに、旅館の部屋でシワのないシーツが被せてある布団に入る時はとてもも心地良い。 けれども、寒い日に柄違いの毛布や掛け布団を重ねて作られていた実家の寝床にも旅館の布団と同じものを感じた。 質素に暮らしている男が食通の男をもてなすという話がある。アワビとか伊勢海老とか高級な食材は買えないが、料理を食べてもらった後に食通を感動させる。 質素な男が出した

碧空(へきくう)

晴れ渡った空は、こちらは山です。私は空です。というように、景色をはっきり見せてくれる。 平成という元号が終わる年に、「忖度」という言葉は良い意味では使われていない。 「私は本意ではないけれど、あなたの気持ちを優先しました。」という感じで使われることが多い。 柔らかな文句なのかもしれないけれど裏を返してみれば、「あなたの気持ちを優先したわけだから、あなたのせい。」と言っているようでたちが悪い。 言葉の表面をなぞるのではなく、その奥にあるものを読み取ることは乙なものだけれ

炎節(えんせつ)

コンクリートジャングルを歩いた後に食べるかき氷は美味しい。 でも涼しい日に食べると、価値の半減どころではなく必要のないものに感じてしまう。 高級なものを美味しいと感じるには、毎日食べていたらわからないように、夏の暑さがあるから感じられる氷の美味しさというのがあるのだと思う。 ただ、季節を感じることは難しくなっている。 暑い日に食べるそうめんや、かき氷は美味しいけれど、クーラーなしでは過ごせない。冷え切った体では、涼しい美味しさを堪能することはできない。 だから旅に出