35kg痩せて会いに行った推しが結婚した話


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今日は珍しく東京で雪が降っていた。
高層ビルが並ぶ中ではなかなかお目にかかれないレベルで、街のいたるところが雪化粧をしている中、

「雪といえばつい先日、昨年末に行った愛知でのライブを思い出すんですよねー。ちょうどライブ終わりに雪が降っていて。僕の推しも出ていたんですよー」

と、俺は横で寒そうにタクシーを待っていた上司に声をかけた。

「いや知らんわ、アホか」と、オタク文化に興味のない上司から想定通りの回答が返ってきたが、その声色には少しだけ気遣いを乗せてくださっていた。



表題のとおり、推しが結婚した。

期間からすると7年くらいだろうか。7年くらい推してた推し(俺の神)が、昨日夜に結婚を発表された。

このnoteでは過去に、「推しに会うために35kg痩せた」という内容を書いたことがあったが、この前35kg痩せて会いに行った推し(神)が、昨日めでたく結婚されたというわけだ。



晴天の霹靂であった。

「声優やアイドルは正月前後に結婚発表をされることが多い」という謎のジンクス(?)があったことから多少は身構えていたが、三が日を過ぎたあたりから、その懸念は完全に思考の外にいた。

仕事始めであったのだ、昨日は。なので終わっていたのだ、俺の中では正月が。

…いや、だからといって、こんなものに「こちら側の都合のよいタイミング」などというのは存在しないのだから、それに対してとやかく言うつもりはない(というか「言う筋合いなどというものは存在しない」というほうが適切か)。


とにかく、月並みな言葉を使うと「死ぬほどびっくりした」ということになるのだろうか。


昨日の夜は、無事に仕事始めを終えて、同じ担当のメンバと軽く打ち上げをしていた。
軽くといっても、最若手の自分がぎりぎり両手で数え切れないほどの杯数のハイボールをジョッキで飲まされていたのだが。

その帰り、なんとなく飲み足りない数名と一緒に先輩の家に酒の缶と一緒に転がり込み、乾杯を済ませたところで、

「君、もしかして一般の方?」
と、大学の友人(脱オタした奴)から数年ぶりのLINEがきていた。

一般というワードに覚えがなかった俺は、
「? どうした急に」
と返信をして、トイレに入る。
すぐさま既読が付き、会話のラリーが多少続きそうだと思ったからだ。


「いや、お前の推しの○○が結婚したって言うからさ」


予想は外れるから予想なのである。続く訳がないだろう。
「いっぱんのかた」か、なるほど。なるほどね。
別の意味でトイレから出られなくなってしまった。

そいつとやり取りをするはずのスマホはすぐさまアメブロを開くための機械へと変貌し、自分がフォローしているブログ一覧の一番上に、
自分の推しが数十分前に投稿した、「いつも応援してくださる皆様」に向けたご報告が鎮座していた。

その瞬間、体の内側から液体窒素をぶち込まれたのかと錯覚するほど、悪寒と火傷が噴出してきた。
トイレにあった鏡を見る。今までケラケラ笑いながら酒をベロベロしていた自分はいなかった。

記事を開き、途中まで読んでスマホを閉じた。
読み切らなくても内容は知っている、俺たち「皆様」に対するご報告は、彼女の口からではない友人から聞かされたのだから。


長めのトイレから帰還した俺の真っ青な顔を見た上司が、「お前ゲロ吐いたんか??」と煽ってきた。
違う、ただ液体窒素を注ぎ込まれただけである。

ここで、推しの結婚報告を、推しのことをろくに知らない彼らに告げた。
その場にオタクは俺しかいなかったが、「結婚報告というのがオタクに月並みのダメージを与えるらしい」という概念が存在することは皆理解していたからか、お通夜のような雰囲気が流れた。

最終的に上司から謎の蹴りをぶち込まれ(なんで??)、その場は解散となった。泣きっ面に蜂である。


家で一人だけになってから、嗚咽を垂れ流した。

同じ推しがいる界隈のTLを見た。
みんな「おめでとう!」と呟いてから地獄のような呻き声をあげていたので、俺も右に倣うことにした。


「○○さん!ご結婚おめでとうございます!!」


その間にも液体窒素のボトルからあふれ出た呻き声は口から出続けていた。

改めて、昨日俺の呻きを聞いてくれたフォロワーには感謝申し上げる。ありがとう。


思えば、オタクになってからの初めての推しの声優であった。

大学生の頃に熱狂したアニメに出てきた、主人公達が所属しているプロジェクトと(形式上)対立しているプロジェクトのリーダー。それが彼女の演じていたキャラクターであった。

好きが講じて購入したそのアニメの円盤(ブルーレイディスクの意)に付いてきたライブの先行申込券でチケットをゲットし、金がないなか夜行バスで高揚&グロッキーになりながら東京に向かった時のことは今でも忘れられない。

そうだ、そのライブの連番者は、昨日俺に死の宣告をしてきた大学のクソボケハゲタコ(友人)であったのだった。なんの因果やねんマジで。


そのコンテンツのライブは、今では休日のどこかで何かしらのコンテンツがやっている「キャラクターを投影させた声優」が歌って踊るものの先駆けであった。

実質初めて参加するそのようなライブの中で、彼女はステージ上で、当時の俺の認識では「ライバルのリーダーであるキャラクター」のソロ曲を披露して、魅せられた俺の"神"になった。


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そこから社会人になり、神が出てくるイベントに参加するために金を稼ぎ、東京に足繫く通い、そのイベントの感想をファンレターに垂れ流し、それの返信として神から年賀状をいただいた際に限界化するという、絵にかいたような推し活ライフを送っていた。

先述したように、初めて対面で会話ができる(グッズを購入したら渡してもらう際に会話ができる、握手できない握手会のようなイメージ)イベントの際には、その10秒のために体重を35kg落とした事もあった。

色んな意味で、その当時が1番オタクとして向こう見ずで、全力投球だったかもしれない。

また、仕事面でも色々と創意工夫を凝らし、現在ではコンテンツ分野にとても近いジャンルの仕事を任されるようになった。これから新しいサービスを考えて、もしかすると推しに仕事で会う時が来るかもしれないなー、なんて考えていたりもした。

最近では昨今の情勢の影響からか、対面でのイベントの開催が厳しいということもあり、各種ストリーミング配信サービス等でのイベント開催に若干の物足りなさを感じながら過ごしていたが、昨年末には久々の有観客ライブで、俺の中で神が爆誕したあのソロ曲を彼女が披露するところを現地で見ることも出来た。

一緒に行った友人(クソボケハゲタコではない別のやつ)には、そいつが出してくれた車の中で号泣しながら感情を吐露するという厄介オタクぶりを披露してしまい申し訳なかった。

それでも、ちょうど7年前に見た神との邂逅をこのような形で回収が出来たことに対し、ただただ感謝とノスタルジーと、以降のオタ活へのモチベーションに結びつけていたのだ。

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結論から言うと、推しの幸せを本当に心から願っているオタクの立場として、これ以上幸せなことは無い。
推しが幸せになること以上に幸せなことなんて無いに決まっている。これは俺の本心である。

しかも、その立ち振る舞いの節々から人間としての芯の強さ、周りへの気遣いが見えていた素晴らしい俺の神が選んだ、そんな神を選んだパートナーなのだから、きっと素晴らしい方に決まっている。

また、推しが推せなくなるあらゆる要因が控えている中で、今後の推しの進退は決まっていないが、恐らくこれからもステージに立ち続けて下さるであろうと信じている。


ただ、まだこの事実がちゃんと俺の胸に落ちていないだけなのだ。今まで声優やアイドルの方々の結婚報告の際にのたうち回っているオタク達を見てきたが、この感情、感覚は実際に液体窒素をぶち込まれないと得られないものなのだと、ぶち込まれた俺は痛感した。
初めてなのだ、こんなことは。


自分の胸に落とすことが出来るかと思い、ここまでつらつらと書いてみたが、さすがに昨日の今日では無理みたいだ。これ以上書くこともないし、ここまでにしておこうか。


最後に、俺の推しとご家族に対して今後一生の幸せと発展を、我儘を言うのであればまた元気にステージに立って頂きたいという思いを込めて。心よりお祈り申し上げます。




結婚祝いに、何かお送りしようかな。

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