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ハイブリッドセミナーは次のステージへ-第18回麻酔科学サマーセミナーの配信技術-

そんなこんなで、いざ本番を迎える

胸を張ってV-160HDで良かったと言える設営

SDI入力をフル活用

今回、初日で最終的な配線を終えたV-160HDの背面がこちら

V-160HD背面

V-160HDには、HDMI 8,SDI 8と計16の入力をさせることができる。今回、混乱を避けるように1つもナンバリングにはHDMIかSDIのどちらかしか接続しないようにした(HDMI 1とSDI 1とするのではなく、HDMI 1につないだら次のSDIはSDI 2に入れる)。

これは、V-160HDは16の入力系統があるがそのうちボタンに割り振りをできるのは10個までとなっている。

V-160HDのINPUT CONTROL

実際の運用は、MENUのINPUT ASSIGNのところから「INPUT 1→HDMI 1」「INPUT 2→SDI 2」のように設定することで、盤面の1を押すことでHDMI 1、2を押すことでSDI 2に切り替えられる。

そうして、8つの入力が一通りすべて埋まることになった。

今回、SDI入力したのは演者PC×2と演者卓上の演者カメラ。SDIケーブル1本は持ち込み(大分→沖縄)、もう2本はレンタルしていただいた。20Mのケーブルの取り扱いを一体どうして良いものか戸惑いながらも最終的には会場スタッフの方に助けていただいた。

プログラム表示用PCのHDMI接続

今回も、プログラム(進行表)のスライドを別途作成した。
それを表示するPCだが、前の記事で述べたようにプログラム用PCのHDMI OUTをそのままビデオキャプチャーで受けて、Zoomのビデオ設定をキャプチャーボードにすればできる。

ところが、プログラムスライドはV-160HDにも欲しかったりする・・・。何かあったときに演題を切り替えて出せるようにしたい。

不幸中の幸い・・・。今回用いたビデオキャプチャーボードはElgatoのHD60 S+。

様々な機材との相性を考えて今回はこの機材を持ち込んだのだが、これにHDMI OUTもついていた。まぁ、だいたいこの手のキャプチャーボードにはHDMI OUTもついている。おそらくは、ゲーム実況などでゲーム画面を配信しながらも自分はOUTからモニターに出してその画面を見ながらプレイをするという用途だろう。このHDMI OUTをプロジェクターに出せば最小構成でパワポプレゼンの配信もハイブリッドでできる(Zoom受けなどは一切できないが)。

そのHDMI OUTをV-160HDにもらうことで自分の悩みは解決できた。

いや〜、これは便利だ。

うまく行かなかったSEETEC ATEM156

今回実現しなかった幻の配線案がある。それがこの、SEETEC ATEM156を持ちた配線案。

これは、自分が持っていたわけではないが別の配信スタッフが持っていた。

やはりどうしても、演者PCにSDIケーブルを2本取られており、それで切り替えないといけないのでpreset memoryを倍使うというのが本当に悩みのタネだった。演者PCからの信号をSEETECにもらい、そこでセレクションしたやつをV-160HDにもらえばpresetは一種類で事足りる。

ところが、このSEETECからの出力をV-160HDにうまくもらえなかった。おそらくは映像の設定なのだろうけど、そのへんの勉強がまだ足りていない(麻酔科医に必要か?)

演者カメラが死んだ話

ここまで苦労して組み上げた配線だったが、もちろん演者PC SDIも難しさの要因だったが、本番で難渋したのが実は演者カメラだった。

講演に慣れた演者ほど、動く

むしろ今までこの問題がなかったのが不思議(振り返るとね)。

今までは、演者カメラは演者卓の上に置き、イマジナリーラインを意識したアングルで配置していた。演者卓の左手側に置き、映像では演者は左側を向く。これが、SPLIT組んだときに演者・座長とちょうど向かい合う感じで配置できる。

イマジナリーラインを意識したSPLIT

まぁこんな感じで組むので、両者の立ち位置がじつは重要になる。

座長は基本的に座っているので良い。会場カメラも、こちらでカメラを操作できるので良い。問題は演者カメラ。演者カメラはステージ上の演者卓の上にあるので、アングルを調整できない。バミるわけにもいかないので、そこは”マイクの位置”で調整をいつもしているのだが、今回卓上には固定のグースネックマイクと自由なワイヤレスマイクと2種類が置かれていた。そしてことごとく、みんなワイヤレスマイクを使って話す・・・。

バトルオンセミナーのときはそれは覚悟していたが、通常の講演のときの演者カメラもこうとなると、一気に予定が狂った。

試行錯誤集

とにかく、演者カメラを捨てざるを得なくなった。ここで、細かい試行錯誤とトラブルシューティングを示します。

  • 演者カメラを捨てる

もう思い切って、講演中に演者カメラを映さないようにした。最初の演者紹介のシーンでは座長・会場カメラで演者を映す。なお、座長・会場カメラは配信席に配置していた。この位置だと別にMARSで繋ぐ必要はなかったのだが、ケーブル本数の都合で無線接続となった。

だが、この案は程なくして却下。「演者の顔は(PinPで)ないんですか?」という意見があった。やはり、ハイブリッド配信で、現地の様子を届けるには講演中のPinPは有意義であるというのが改めてわかった。

  • 配信席と真逆の位置からMARSで飛ばす

イマジナリーライン的にも、配信席から演者を映すのは不適切だった。まぁ、V-160HDのカメラ入力で左右反転もできるっちゃできるのだが。

というわけで、配信席とは反対側に演者カメラを配置。映像はMARSで飛ばすというのを考えた。問題は、配信スタッフ。カメラマンが別途必要になる。

そこで注目したのが、V-160HD Remote control(iPadアプリ)のBluetooth接続。

ところが、このBluetoothが会場の反対側だと届かなかった。

会場である万国津梁館の寸法図

配信席から、少なく見積もっても約15mはあり、この距離のBluetooth接続は無理だったか・・・。

いつものアカデミーで使っている部屋レベルの広さでは問題とならなかったV-160HDのウリが一つ、、、。。。消えた。

  • 日麻をヒントに、カメラを会場後ろへ

演者カメラ操作者を限られたスタッフ人数でまかなう(=移動距離を最短にする)ために、無線接続演者カメラを会場後方に配置した。

まさに、土壇場で日本麻酔科学会第69回学術大会の配信にヒントをもらった形になった。これが、意外や意外にHITすることとなった。
(残念ながら会場後方でもV-160HD Remote controlのBluetoothは届かなかった)

演者カメラを会場後方に置くという大革命

これが、今回の経験の大きな成果のうちの一つ。

会場後方の演者カメラ

MARS 400S Proで映像を無線伝送

改めて解説するが、Hollyland MARS 400S Proで会場後方からの映像を無線伝送する。

もうSDIケーブルはなかったし、会場後方になるとケーブルの取り回しも気がかり(参加者に踏まれたり引っかかったりされると困る)。伝送遅延は公証最短0.08秒〜0.1秒程度。とりあえず、批判的な目で見さえしなければ気にならない程度。最初はバッテリー駆動で考えていたが、準備していたバッテリーでは恐ろしいほど持たなかった。

途中でバッテリーが切れたのはV-160HDのマルチビューのおかげで気づき、結局直接AC電源を持ってくることにした。Feelworld(サブモニター)用のACアダプターを流用したので、おかげで今回はFeelworldのサブモニターがただのお荷物になった。もともとバックアップ録画機器用に準備していたのだが、直前でこの機材のSDカードスロットは本体アップデート用で残念ながら録画用には使えないらしい事が判明した。

より自然な演者カメラViewが実現した

この、会場後方からの演者カメラだが、演者卓上のカメラよりもより自然な演者Viewを実現することができた。

演者カメラの違い

SDI 1が演者卓上のカメラ映像。HDMI 2が会場後方からズームして映したカメラ映像。過剰にアップになることもなく、背景の映り込みなどもあり、何よりこの画角は現地参加者が演者を見た画角と一致する。つまり、より自然な演者カメラの映像になる。

この、演者カメラの配置転換は、自分の中で大きな革命となった。

アカデミー等で配信をやっていても、演者によって身長が違うのでカメラの調整が必要になったり、非常に近い位置で演者を捉える。さらに、どうしても下から見上げる形で演者の顔を捉えるので、映像的には上から見下されたような形になってしまう。

この、会場後方からの演者カメラは、MARS 400S Proのおかげもあって記事執筆時点でのその後の配信の機材配置のデフォとなる。

Clubhouseインカムを実現

会場後方にカメラマンとしてスタッフを配置したため、お互いのコミュニケーションを取る手段が必要になった。

そこで、以前から考えてはいたもののなかなか実現しなかったClubhouseを会場インカムで使うという技術を実現した。アカデミーのような広さの会議室だと、スタッフ同士声を出してのコミュニケーションが難しいが、今回のような広さだと声も出せる。

iPhone端末でClubhouseを使ってやり取り。音声はAir Pods Maxを使った。

この、ノイズキャンセリングと外部音取り込み機能が配信オペレーションではとても重宝される有能機能なのだ。オーバーイヤーヘッドホンなので、その中に配信モニタリング用のイヤフォンを装着することができる。

preset頼りのスイッチングからdirect switching、さらにpreview/program out式のスイッチングへ

そもそものSDI切り替えからpreset memoryの数が限界を迎えていた。

AUX出力を使うことの取り回しの不便さ

preset memoryベースで配信オペレーションをするには、進行表通りのオペレーションであれば問題ないのだが、アドリブを要求された時に後手に回ることになる。

特に、最近のハイブリッド配信では現地出力はAUX出力を割り当てていて極力現地カメラを現地スクリーンに出さないようにしていた。

V-8もそうだが、V-160HDの盤面で、AUXとpreset memory(とマクロ)は同じ物理ボタンを使う。

MODEで切り替える

このように、AUXとMEMORY、MACROを左のMODEボタンで切り替えて使う。つまり、preset memoryを呼び出してアドリブでAUXを帰る場合はタイミングが遅れてしまう。しかもMODEボタンを2回押さないといけない。

preset memory機能は便利だが、AUX(現地出力)との切り替えのときに不便になる。

そこで編み出したのが、preset memoryの呼び出しをiPadアプリで行い、MODEはAUXに合わせておいてオペレーションするという手法。

アプリとハードウェアを使い分ける

これで、preset memoryをベースとしたスイッチングから、presetは補助的に使うけど、現地と配信の映像切替を直接ボタンを押すことで行うdirect switching方式に方向転換することにした。

AUXは現地出力、ボタン1列目が配信映像、2列目はSPLITを組んだときのもう一つの映像。補助的にpresetを使うときはiPadアプリで切り替えをして、本体のMODEはずっとAUXに合わせておく。

direct switchingからpreview/program out式のオペレーションへ

少し機材の使い方の基礎的な話になるが、スイッチングには直接映像を切り替えるdirect switchingとpreview/program outの2種類がある。

ハードウェアスイッチャーの多くは、program outとpreview outという2種類の映像系統がある。要は、preview画面でPinPやキー合成などの映像合成を準備して、準備ができたらprogram outでいざ配信にのせる。

この、2種類の出力系統を、本来の使い方ではなく「2種類の出力ができる」というのを活用して、現地とオンラインにそれぞれ別の映像を届けるという手法を、V-8HD時代から活用していた。

つまり、preview outは現地、program outは配信用という使い方をしていた

iPadアプリを併用し、現地と配信の映像切替を直接切り替えるdirect switching方式へと方針転換した。その分、配信に使うエネルギーは劇的に上がる。

その、direct switchingから、PinPを合成するときにpreview/program out式のスイッチング方式に方針転換した。

現地映像をAUXで固定することにより、実はスイッチャーのpreview outは有効活用できる(SPLITを除く)。PinPの位置や大きさの調整を、Liveで流しながら調整するのではなく、preview画面でパワポスライドごとに位置調整をして配信映像で出すというのをした。PinPの窓が動いていくのは一見すると「わー動いてる、すごいな〜」となるかもしれないが、見方によってはみすぼらしさすら感じる。

演者のスライドに合わせてPinPの大きさやクロッピング(左右切り出し)をするのは大変だったが、非常にやりがいを感じることができた。

実現できたテロップ合成

preview/program out式のオペレーションに変えたことで、もう一つ実現できた技術がLIVE配信でのキー合成によるテロップ作成。

これは、第27回大分県麻酔科学アカデミーで初めて導入したハイブリッドセミナーでのKEY合成技術。

preview画面で十分準備ができるので、いろいろなパターンでのKEY合成によるテロップ配信ができるようになった。

バトルオンセミナーでのキー合成

これは、プログラムスライドをそのままKEY合成したもの。少し文字が小さくて、有効なテロップかというと疑問だが、アドリブにしてはいい方じゃない?

PinPのKEY合成

スライドを左右クロッピングして、サイズ調整をして適切な位置にテロップを表示させる。

これをLIVE配信でpresetなしでやるのはものすごく大変・・・。だがやりがいもある。

昨年のサマーセミナーの大きな配信技術の成果がSPLIT画面であるなら、今年のそれはこのテロップ合成かもしれない。

日頃のアカデミーの経験がこうして生きている。

今後の展望

もちろん、いいことばかりではない。現に、3日目の配信は自分の中でも最低な配信オペレーションだった。疲弊した中、沖縄から大分への帰路は振り返り、反省、今後の計画をたてるのに十分な時間があった。

何でもできるV-160HDだからこそのデメリット

今回、V-160HDでありながら音に関しては会場PAに任せるという昨年と同じ形をとった。

いつものアカデミーでは音の調整も自分でしているが、それは配信が画面をすべてpresetでまかなえるから、画像に注意を払う必要がない分音に集中できるというもの。今回、これまで書いてきたようにpresetが当てにならないスイッチングになったのでその分配信映像にものすごく集中する必要がでてきた。
だから、最初から音をPAに任せていたというのは結果としてよかった。

その分、PAさんには迷惑をかけた。

今回の大きな音トラブルの一つが、演者スライドに音声ファイルが含まれている場合の音の出が問題となった。演者PCのステレオOUTから音をもらうようにしていたが、そちらでははなくHDMIの方に音が取られてしまうとPA側に音が出ていかない。

アカデミーでしているように、スイッチャー側で音の制御もするか・・・?結果はわかっていた。演者PCの音の制御は、現地と配信の両方の音量に気を使うのはとっても難しいんです。

3日目、やろうとしたけどやっぱ無理でした。

自分で無理って思ってるものはやっぱり無理なんだなと、限界を感じた。
まぁある意味自分の危機察知能力は正しく、麻酔科医としてはむしろ安心できることであった。

まだまだ、技術を身に着けないといけません。

V-160HDは、Rolandがハイブリッドセミナー向けにリリースしたビデオスイッチャーであり、それ一台で事足りる便利な製品だが、それは逆に音と画像両方オペレーションしないといけないということでもあった。

演者カメラマンにマルチビューが欲しい

会場後方に演者カメラを配置し、それ用にスタッフを配置した。お互いにClubhouseでやり取りしながら必要な映像にカメラを調整してもらっていたが、できれば後ろにもV-160HDのマルチビューがほしい。

実はいろいろ試行錯誤した。ベッドその画面用にZoomを立ち上げたり、iPhoneのFaceTimeを使うか、カメラで映してApple Watchのカメラアプリを使うか・・・など。

これは、今後の展望だが、マルチビューも無線で飛ばすという方法が良いだろう。そこで候補となる機材が、MARS 300 Pro。

『ん?300なんだ』と思うかもしれません。

その理由は、MARS 300 ProにはHDMIスルーアウトがついているんです。

マルチビューのHDMI OUTを無線で飛ばすようにMARSにつなぐと、配信席でサブディスプレイでマルチビューを確認できなくなる。

300 PROであれば、スルー出力がついているのでそこから配信席のサブディスプレイにつなぐこともできる。

これは、このチームで次回配信を担当する機会で実用していきたい。

V-160HD Remote controlのLAN接続化

配信席を離れてもオペレーションできるということで、V-160HD Remote controlのBluetooth接続機能は、普段のアカデミーでは重宝する機能だったが、広い会場では使えなかった。

機材マニュアルを読み込むと、このRemote controlアプリはBluetooth接続と他にLAN接続ができる機能があるようだ。

V-160HDに無線LANルーターをつないで、iPadと接続する。

この機能は、この翌週の配信イベントで早速実用できた。

ハイブリッドであるという意思統一の必要性

AUXを使うことで、より自然なハイブリッドセミナーのオペレーションができるようになった反面、演者にとってはただのリアルセミナーであるかのような印象を与える。それは、こちらとしてはうれしうことなのだが、オンライン参加者にも配慮したプレゼンテーションが必要になってくる。

スライド内音声・動画ファイル問題や、今回手が回りきれなかったポインター問題など、ハイブリッドセミナーでプレゼンテーションをする場合の留意事項を、演者や座長などセミナーに関わる多くのスタッフ間で情報共有・統一をしておく必要を感じた。

まとめ

以上。

配信スタッフの仕事としてはしっくり来るようで来ないタスクではあった。しかし、そんな中でも自分のスイッチング方式がpresetに頼らないdirect switchingからもう一周回ってpreview/program out式に大きく方針転換した。

演者カメラを会場後方から映すというのは、自分の中でも大きな学びだった
そのために、MARSの機能をフル活用することになったし、カメラのズーム機能を使うことからより高画質のカメラが必要になる・・・かもしれない?という新しい課題が出てきた。

この、大きく分けて2点の学びが、その後のハイブリッドセミナーのオペレーションを大きく変えることになった。

note執筆現在(2022/08/07 15:00)、まだまだ道の途中です。

よりこの技術を高めて、コロナ禍が届けてくれたハイブリッドセミナーの可能性をもっと多くの人に感じてほしいし、多くの人の教えを世に広く普及させる活動を続けていきたい。

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