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【最新作云々63】想い合うがゆえに相手を追い詰めてしまう愛の地獄... 同性同士の格差愛を通して愛の残酷さを衝く映画『エゴイスト』

 結論から言おう!!・・・・・・こんにちは。
 "エゴイスト"といえばたぶんポルノグラフィティの1stアルバム『ロマンチスト・エゴイスト』、なO次郎です。

2000年3月発売だから、自分は中2の終わりごろでしたか。
友人に借りてMDにダビングしてたのがもう行動として懐かしい…。
その数年前ぐらいまでは音声ダビングといえばカセットテープだったから、
繰り返し聴いても劣化しないダビングメディアとして画期的だったのよ。(・ω・)

 今回は最新の邦画『エゴイスト』です。
 鈴木亮平さん宮沢氷魚さんというスタイル万能の二人が官能的に愛を交わす同性愛の物語ながら、その背後で夫婦の、そして親子のどこかしら後ろめたさを伴った辛い愛の形を描いたピュアラブストーリーです。
 人目を憚る愛に限らず、社会的格差を孕んだ愛、そして与え与えられる互いの総量が不釣り合いに感じられてしまう愛……大上段でこれ見よがしにそうした障壁を語ることはせず、それがゆえに当事者たちの苦しい胸の内がストレートに此方に伝わってくるような非常に繊細な構成となっています。
 普段からどちらかと言えば恋愛映画は苦手とされている方々(かくいう僕もその層に違いないのですが…)にこそ、鑑賞是非の参考までに読んでいっていただければ之幸いでございます。
 それでは・・・・・・・・・・・"ヒトリノ夜"!!

※上記のアルバムの収録曲で特に思い出すのはコレかな。
中三の夏休みのとある日曜の夜、母は手術を伴うような病気を患ってて近くの病院に入院中で、父は地域の寄合か何かの飲み会で外出中。当時大学生でたまたま帰省していた兄と二人で出前の晩御飯を食べながら、この曲がOPでタイアップされてた『GTO』のアニメを口数少なく観ていた覚えが・・・。
まぁ、だからといって何のオチも無いんですが。(´・ω・`)



Ⅰ. 作品概要

※Wikiのページが存在しないため、公式サイトをご参照ください。

(あらすじ引用)
14歳で母を失い、田舎町でゲイである自分の姿を押し殺しながら思春期を過ごした浩輔(演:
鈴木亮平さん)。今は東京の出版社でファッション誌の編集者として働き、自由な日々を送っている。そんな彼が出会ったのは、シングルマザーである母を支えながら暮らす、パーソナルトレーナーの龍太(演:宮沢永魚さん)。惹かれ合った2人は、時に龍太の母(演:阿川佐和子さん)も交えながら満ち足りた時間を重ねていく。亡き母への想いを抱えた浩輔にとって、母に寄り添う龍太をサポートし、愛し合う時間は幸せなものだった。しかし2人でドライブに出かける約束をしていたある日、何故か龍太は姿を現さなかった。

 まず浩輔ですが、まるで不遇だった少年期の青春を取り戻すかのように人生を謳歌しています。仕事では確たるポジションに就いて現場を取り仕切りつつ、瀟洒なデザイナーズマンションに住み、オフでは同じゲイ仲間たちと集まって時に真剣に時にバカ騒ぎして楽しいひと時を過ごす。
 多感な時期に母が病死したうえに彼の性向に気付いたクラスメイト達からは陰湿な陰口を叩かれていたようで、過去の人間関係については両親以外とのそれは無かったものとして扱うことで徹底しています。
 毎年母の命日には必ず千葉の実家に帰参して線香をあげている一方で、迎えた父(演:柄本明さん)から同窓会の案内を渡された際には「忙しくて行けないから捨てといて」と即座に返していたことからもそれは明らかで、思春期に一生消えないコンプレックスを植え付けた同輩たちへの蟠りは一生捨てるつもりはなく、また同時に父には未だにカミングアウト出来ていない己の気質をもしかすると亡き母は気付いて尊重してくれたのかもしれず、それがゆえになおのこと母への愛が深いのかもしれません。
 まさに絵に描いたような"独身貴族"。冒頭で実家に戻った際には自身の身に着けるブランドもののスーツとサングラスを自らを世の好奇から守る"鎧"と評していましたが、早くに自分の気質を理解してからというもの自分に正直に生きるためにそれまでの人生で相当の努力を重ねてきたことが覗えます。

だからこそ、己の証を立てるために下積みを重ね、
なおかつ母親の世話をしつつ仲睦まじく暮らしている龍太の姿に
強く深いシンパシーを感じたわけで。

 そして龍太は現在進行形の苦労人。同じくゲイであることは周囲の他人はおろか同居する最愛の母にもひた隠しにしており、父は少年期に愛人を作って出て行ったうえに母に金を無心したりして相当困らせており、一刻も早く楽をさせてあげたいと高校を中退して働き始めた過去が有り。
 今現在はバイトの掛け持ちで生計を立てつつ、独学で専業トレーナーを目指して努力しているのでした。
 序盤に仕事にかまけて鈍っていた身体を鍛え直そうとした浩輔が友人から紹介されるのが龍太であり、そのいわば仕事上のお客様である浩輔に対して龍太の側からアプローチを重ねるのでかなり積極的というか意外な気はしました。

が、普段からより抑圧的な環境にある龍太のほうが
そうした衝動はより大きかったということなのかもしれません。
"絡み"も主に龍太が主導。
彼がマンションを去った後に愛の余韻に浸りながら
浩輔がヘアーブラシをマイクに熱唱する姿
はなんとも
いじましい限りです。(*´罒`*)

 この二人の関係性を主軸として、物語はゆっくりとしかし実に緻密に繊細に展開されていきます。


Ⅱ. 愛の煉獄の様相

 瞬く間に二人の仲は深まり、レンタルジムでのトレーニングの度に浩輔のマンションで逢瀬を重ねる関係に。
 しかしながら幾度目かの逢瀬の後、マンションの去り際に龍太は浩輔に唐突に別れを告げます。今までの扱いに何か不満があったのか狼狽して問う浩輔に対する返答は、「オレ………実はずっと売りをやってた。そうしないと金銭的に母さん養えないから。でも、浩輔さんに出会ってからオレ、どうしてもできなくなっちゃった。」と。
 お互いの愛に間違いは無かったものの、それを貫くことで巡り巡って彼の愛する母に不憫な思いをさせてしまうという相克に絶句してしまい、二人はそのままいつものお別れもせずに離縁となってしまいます。

 自ら別れを口にしたことで決心が付いたのか、その後の浩輔からの着信に一切応えない龍太に対し、浩輔はどうしても思い切れません。
 なんとしてでも彼にもう一度会いたい浩輔は時間を掛けてゲイの買春のサイトから龍太らしき人物を見つけ出し、待ち構えていたホテルの一室で戸惑う彼を抱き締めて力の限り提案します。
 「ひと月20万しか出せないけど、それでアナタをワタシの専属にしてちょうだい! それでお母さんとの生活を守りつつあなたの夢も叶えましょう」と。

 それによって彼からの自分に対する愛の強さを思い知ったのか、あるいは自分の本当の気持ちに気付いたのか、はたまたその両方か、龍太は売りをきっぱりと止めて浩輔との恋人関係に戻ります。
 しかしながらただただ浩輔から援助を受けるつもりはなく、解体や皿洗いといった昼と夜のバイトを掛け持ちして逢瀬の時間には眠そうな時もありながらも、「母親に嘘を吐かずに自分の仕事を伝えられて嬉しいんだ」とほほ笑む龍太。

"早く一人前のトレーナーになりたい"という目標に加え、
"愛するパートナーと肩を並べられる存在になりたい"という
気概も加わって毎日一生懸命な龍太。
なのですが、、、

 これまで浩輔のマンションばかりだったこともあり、龍太は母に紹介したいからと浩輔を自分たちの住むアパートでのささやかな晩餐に招待します。
 気さくな彼女は幼い頃からの龍太の姿や父親の素行不良まで包み隠さずユーモアを交えて語ってくれ、それに対して浩輔も早くに母を亡くした己の身の上を打ち明け、三人で楽しいひと時を過ごします。

せっかくだからと記念写真。
龍太が自分がゲイであることは母に伝えられていないため、
二人の本当の関係は知らせていませんが、
それは関係無しに三人家族のように仲睦まじい姿でした。

 そして遂に事件が起こります。
 自宅に居る浩輔のもとに龍太の母から連絡があり、"今朝起こそうとしたら龍太の息が無い"との、あまりにも唐突過ぎる二人の幕切れ宣告でした…。

 まず結果から書きますが、龍太の死因は作中で明言されていません。事件性は無いようなので他殺でないことは確かでしょうが、同時に遺書等が有ったそぶりも無いので自死でもなさそうであり、兼ねてから重い病気を抱えていたフシも有りませんでした。
 そこから察するに自分は、連日の早朝から深夜にまで及ぶ仕事による過労に加え、彼の生真面目な性格から来る精神面での負担が非常に大きく、その結果としての悲劇ではないかと感じました。

 まず以てですが、序盤にジムでのトレーニング後の帰りの道中で龍太が良さそうな店を見つけたものの、そこで母への土産を買って帰ろうとするも「高くて買えないわ…」と苦笑いするシーンが有りました。
 それから間もなく二人が恋人関係になると浩輔はトレーニング後にすかさず件の店で土産を買ってから遠慮する龍太に持たせ、マンションでの逢瀬の度に彼の帰り際に"お母さんへのお土産に"と、毎回恐縮させながらも気の利いたお土産を持たせています。

龍太と彼の母のアパートを訪れる際にもしっかりオシャンティーなお土産を持参。
龍太は浩輔の心尽くしをもちろん嬉しくは思いつつも、
一方で自分は彼のその恩に報いられるのかと気を揉みつつ、
誠実な彼のことゆえ、浩輔との関係が深まるにつれて段々と彼からのお土産等の
配慮を受け取ることに抵抗が薄れている自分に危機感を募らせていた
であろう事も察せられます。

 他方、龍太が無くなる直前の週末には浩輔の誘いで二人でカーディーラーのもとを訪れており、その場で試乗をしながら軽のワゴン車を契約しています。
 その際、浩輔は龍太に「お母さんのリウマチのことがあるから、これからの通院やリハビリに必要になるでしょ? もしお金のことが気になるのなら、ちょっとずつでもワタシに返してくれればいいから」と気配りを見せながら提案し、龍太も恐縮しつつも「必ず返すから」と誓いつつ、「納車の日には浩輔さんが小さい頃に家族旅行で行ったっていう海に行こう!」とはにかむのです。
 浩輔の心遣いと気配りに深謝しつつも、その一方でやはり生真面目な龍太は"自分の収入と器量ではいつまで経っても浩輔さんと肩を並べられない。母さんも自分の力だけでは幸せにできない。"という自責の念を強くしていったのではないか、と想像してしまうのです。
 
 そしてそこに結果としてではあるもののとどめを刺してしまったのが他ならぬ母の言葉。最愛の息子と力を合わせて必死に生きてきた母は「あの浩輔さんって、・・・あなたの大事な人なんでしょ?」と。
 龍太の死後にその一幕を浩輔に打ち明けた際に口にしていたように、"愛する息子に愛する相手ができたのなら、それが男性であろうと女性であろうと関係ない"というのが母の本心であり、心から祝福していたのでしょうが、対する龍太は「ごめん…ごめんね……」とただただ涙ながらに彼女に謝っていたようです。
 歳老いて弱りゆく母親に対して満足な暮らしをさせてあげられず、そのうえ自身が性的マイノリティーに属するということを受け容れてもらう…母の真意は別にしても、龍太の側からすれば自責の念に駆られる事象があまりにも重なり過ぎてしまった、ということなのかもしれません。
 あるいは、"養ってもらっている負い目から母は自分の気質を認めてくれたのかも…"という邪推まで働いてしまったかも。

 龍太の葬式で泣き濡れた後、残された彼の母の身を慮ってアパートに通う浩輔。
 「失礼ですが……僕からの、龍太君からの気持ちだと思って受け取ってください」と資金援助を続けつつ、義理の親子のように日々を重ねる二人でしたが、ほどなくして彼女が救急搬送され、入院の末に大腸癌であることが判明します(兼ねてからのリウマチもその影響)。
 病院に通い詰めて今まで以上に甲斐甲斐しく龍太の分も込めて彼女の世話をしつつ、彼女の側も恐縮しつつも最後には覚悟を決めたように彼を本当の"息子"として受け容れて、「もう少し傍にいて」と枯れ枝のようになった手で彼の手を握り、浩輔もそれに応えるところで物語は幕を閉じます。

 とどのつまり、浩輔は自分からの心尽くしが相手へのプレッシャーになってもいることを自覚しているのです。
 それが如実に且つ端的に顕れていたのが以下の後半の何気無いシーンです。

・亡き龍太の母のアパートへ彼女を訪ねて遊びに行く際に、近くの八百屋で一個千円のはっさくを一つ手に取る。
・しかししばし思案して、それを戻して代わりに一個二百円のぽんかんを数個カゴに入れる。
・でも思い直して、やはり先ほどのはっさくを、二個カゴに入れてレジへ。

 相手と自分の立場にハッキリと差が有ることを承知していて、それでもなお相手に惜しみなく与えずにはいられない・・・・・・エゴイストといえば確かにそうかもしれませんが、同時に己の愛に対してどこまでも正直で誠実な人物でしょう。
 
 また中盤、浩輔は再度帰省した際に父と晩御飯を食べるのですが、その際に父と死の間際の母との一幕の話を聞くことになります。
 大病を患ってほぼ寝たきり状態が続いた母がそれをつきっきりで世話する父に対して「別れて欲しい」と泣いて切り出すも、父は「お前が俺のことを嫌いになったのなら別れる。でも、そうでないなら別れるつもりはない」と答えた、とのことでした。
 お互いの愛が等価(という表現も適切ではないのですが)でなくなった時、それでも相手を己の愛で包み続けるのか、それとも相手を己の愛から解放してあげるのか、正解は無いのでしょうし、当人同士ですら答えが違うのですから正誤の問題にしてしまうこと自体、既に筋違いなのかもしれません。

しかしながら、浩輔と龍太のいわば"格差愛"のような関係も、
龍太亡き後の彼の母と龍太との言い表しようのない関係についても、
その悲劇の背景にある"重圧"の幾分かは、同性婚が認められていれば
防ぎ得たものではないかとつとに思います。



Ⅲ. おしまいに

 というわけで今回は最新の邦画『エゴイスト』について語りました。
 最後になってしまいましたが、主演の鈴木さんと宮沢さんのお二人の力演が本作のテーマに関する説得力を飛躍的に高めているとあらためて感じます。
 同性愛の物語、ということで共感する方にはダイレクトに、そうでない方にも、愛というものが等価交換のような確かなものであることは極めて稀で、むしろそうでない関係性の時にこそ互いの真価が試される、ということが客観的に感じ取れる繊細な作品だと思います。
 眉目秀麗でスタイル抜群なお二人なので、もちろんそういう需要にも十二分に応える一本だとは思うのですが、パートナーのみならず自分の夫婦関係や親子関係を考えるのにこれほど適したものもそうないのではないでしょうか。
 多様性に関する発言が巷間を騒がせている昨今ですが、それに対する一つの回答としても是非とも観て欲しい一本です。
 今回はこのへんにて。
 それでは・・・・・・どうぞよしなに。




          ハッピー・バレンタイン!!!c(゚∀゚∩)

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