スーパーソニックと感染症対策
1.はじめに
2021年9月18日(土)~19日(日)にて、千葉zozoマリンスタジアムにてスーパーソニック2021が開催された。筆者は同系列の音楽フェスティバルであるサマーソニックに参加することを毎年心より楽しみにしており、そしてこの度、18日(土)のみの参加ではあるが、本フェスに参加してきた。以前の記事でもライブハウスでの感染症対策について記述させて頂いたが、コロナ禍にある現在においてライブやフェスといった催しは、2020年初旬からずっと開催自粛を求められてきた。未知の病気に対して、万全を期すことは当然であり、また本来そうあるべきだと思ってきたが、それならば何故今回開催したのか。そして参加したのか。
それはひとえにこの騒動の中で、悪者とされてきた音楽やフェスといった催し物が本当に悪なのか、この1年半が経過した今でも対策は万全になされていないのか、知りたくなったからである。自分なりの正義を貫くことが蔓延ってる世の中で、何も知らないのにあれもダメ、これもダメでは、本当にダメなことや良いことも分かりづらくなると思うのだ。わかったつもりになっていないか。本当にダメだったのか。本記事では筆者が感じたことを率直に、読者の皆様と共有したくて掲載する。
2.背景
スーパーソニックに関する公演内容や会場の対策に触れる前に、昨今の音楽業界を取り巻く要素を非常に簡単にだが、改めてまとめておく。
・ROCK IN JAPAN中止(2021/8/7~9,14~15 中止決定発表は7/7)
・フジロック開催(2021/8/20~22 海外アーティストは招致せず)
・NAMIMONOGATARI開催(2021/8/28~29
マスク着用しない来場者多数、アルコール販売有 コロナウイルス感染者有との報告)
・千葉県がスーパーソニック来場者を減らすよう要望する(2021/9/2)
・スーパーソニックに対する千葉市の後援取り消し(2021/9/10 発表)
また今回のスーパーソニックでは2021年初の海外アーティストを招いての公演となったため、その部分に対する批判の声も大いにあったのではないかと思う。
この一連の動きから、音楽業界、ひいてはフェス業界が大変混迷を極めており、また開催に対する世間の風当たりが強かったことが理解できるかと思う。
3.前年までの実績
ここ5年間のサマーソニックの開催実績と、来場者は下記の通り。
・2017年:150,000人動員(東京・大阪合算)
・2018年:138,000人動員(東京・大阪合算)
・2019年:300,000人動員(東京・大阪合算)
・2020年:開催無し
・2021年:発表無し(開催は2日間 東京のみ)
4.場内の対策
・駅から会場まで
今回筆者は友人と二人で参加することにしたが、それでも人混みは怖く、可能な限り密を避けて入場しようとお互いに考えていたため、会場であるマリンスタジアムに一番近い海浜幕張駅ではなく幕張本郷駅からバスで海浜幕張駅まで行き、そこから歩いて行くことにした。時間も8時ごろと開場より2時間以上も前に着いたため、人混みはなく会場近くまではすんなりと行くことが出来た。
ただ入場口が近づくにつれて人も増え、若いにーちゃん3人組がマスクをせずに列に並んでいる様を見たため、その時点で少し不安を覚えた。これだけ世間の批判もあり、あらゆる人がマスクをするようにとアナウンスをしても、気の緩みかこだわりかはわからないが、マスクをしない人は一定数いるのだなと改めて思った。
・入場時の検査
会場に入場する際には荷物検査がある。これは毎年のことなのだが、今年はそこに更に
「スーパーソニック アプリ(問診票回答済かどうか)の確認」
「COCOAアプリ ダウンロード済かどうかの確認」
「手指のアルコール消毒」
「体温測定」
「オリジナル不織布マスクの配布」
上記5つの工程が増えていた。それ故に入場の列が長くなるし、検査をする人員の数も増えている。今回のフェス開催にあたって本気で対策をしていることが伺えた一場面であるし、安心材料になったことは言うまでもない。また後述するが、今回は特にスタッフの数が多かった。
・マスク配布(布マスクの禁止)、トイレの数
衛生面でも、徹底されていることがわかる一面があった。不織布のマスクが配布されていたと先述したが、会場内で布マスクを着けている人がいればスタッフよりその場で不織布のマスクに替えるように指示を受けていた。日常生活でも布マスクの危険性は問われているが、実際に替えるように言われた経験は筆者にはない。それでもより安全になるように、不織布マスク装着を徹底していたことは今回大きな衝撃だった。
またトイレの数はかなり減らされており、男女合わせても全体で20~30箇所ほどしかなかったのではないだろうか。こちらも感染症対策の一環だったと思うが、今回の動員数がかなり減らされているのは明らかであったため、開催中にトイレに行けずに困るような事態に陥ることはなかった。
・消毒用アルコールの数、バイトの数
会場内では至る所に消毒用アルコールが置かれており、事あるごとに手指の消毒が可能となっていた。それだけでもかなりの費用が掛かっていると思うが、今回特に目を引いたのはスタッフの数である。1会場における通常開催時と同じぐらい、下手したらそれ以上の数のスタッフがいるのである。単純に作業内容が多いためであったり、見逃し防止のためであったりとに数多く配置しているのはわかるが、その他に見回りのスタッフが多いように感じた。飲食する場所が間違っているとスタッフから指摘が入ったり、ちょっとマスクを鼻の下にずらしただけでも「ちゃんとつけてください」と指導が入ったりする場面を会期中何度も目にしたのには脱帽の思いであったし、またその指導に対して素直に従う来場者が多かったことも、個人的にはとてもありがたかった。マナーが良い・悪いというだけの話に留まらず、主催社と来場者の危機的意識がマッチしていると、筆者は感じることが出来た。
・スタジアム内のイスの配置、数
アリーナ内ではイスが前後ろ交互に並べられており、常に人と距離を保つことのできる会場になっていた。
本来であればアリーナ内は立ち見で、所謂フェスらしい密集をつくりながらライブを観るものだが、今回は原則イスから立ち上がる程度の動きしか許されていなかったため、密を形成することはなかった。個人的にはのんびり観ることも出来てよかったかと思ったが、やっぱり立ってひしめき合いながら観たい、とは友人談である。その気持ちも、やっぱりわかる。
ちなみにスタンド席でも一座席空けた形での着席をするように、座席に貼り紙がされていた。
5.演目・内容
・久しぶりの大音量に感動
少しだけ演奏の内容に触れたい。いや、演奏というよりは音のある環境というべきか。とにかく、久しぶりに大音量を感じられるライブに参加したため、スピーカーの前に立って音を浴びた瞬間に身体が震えたのをよく覚えている。あぁ、久しぶりだという思いと、今年はフェスに参加できているんだという実感が、その時ようやく湧いてきたのだ。今年は特に、会期が近くなっても楽しみというか、素直に喜べない状況下にあったため、正直なところスーパーソニックの存在自体がややストレスになっていたのかもしれない。周りの人にも行くとはわざわざ言わない・言えないし、もし万が一会場で感染したらどうしようとか、不安は尽きなかった。その不安が、大音量を前にして瓦解していくのがよく分かった。すべての不安が払拭されたわけではもちろん無いが、それでもこの一時だけでも音に身を任せられることに、とても大きな幸福を噛み締めることができた。そんな来場者は他にもいたのではないだろうか。
・1年半ぶりの海外アーティストの演奏と隔離期間
1日目の4番目に、ノルウェーから"aurora"という女の子の演奏があった。演奏が始まる前にMCのサッシャが「1年半ぶりの海外勢のライブです!」と言ったので、思わずハッとしてしまった。確かに、思えば海外アーティストが日本でライブをすることはずっとなかったはずだ。サマーソニックぶりの換算になるとはいえ、1年半も空白の期間があったという事実に、改めて現状のおかしさを認識した。
また隔離期間は3日間確保されていたそうだ。本来であれば2週間ほどの隔離期間を設けるのが妥当なのかもしれないが、その間の滞在費用も主催社側が負担していたのであれば、やはり海外勢を招致することは覚悟と費用が必要になるのだ。
・幕間の対応
アーティストの転換の時間では毎回来場者を着席させ、先ず会場からいったん出る人を外に出して、次に会場内の席を移動したい人を空いた席に移動させ、最後に新たに会場に人を入れていた。その対応は時間がかかるものであったが、密を形成することは無かったと思うし、人の動きが多いフェスにおいてうまくコントロールできていたと思った。
・しつこいくらいの歓声規制とマスク指導
また同じく幕間では繰り返し不織布のマスクを必ず着用するようにと、歓声などの声をあげたりしないようにアナウンスしていた。そのたび来場者は拍手で応えていたが、正直歓声をあげている人は多かったように思う。自分も思わず「おおっ」と言ってしまったりしていたし、歌うように煽ったアーティストもいたので、徹底が不足していたと思う。しかし発声を完全に規制するというのは思っていた以上に難しいのかもしれない。声を出さないようにしていくためには、そういったスタイルに慣れていくしかない。
・会場からの退場方法
最後の演奏が終わり、会場から退出する際には一番前の列の来場者から横一列ごとに退場していった。この時には雨も少し降っており、傘をさす人もいたが会場内では傘をさすのを禁止していたため、注意を受けていたことが印象的だった。この退場方法については結構時間がかかっていたが、一番密を形成しやすい出口に密集することを防ぐためには仕方がなかったとも思う。事実、会場から出た後ゲート付近では人だかりができており、少々怖い思いをしながらの退場となった。
6.懸念・課題点
・外国人向けのアナウンスが少なかった
ここからは筆者なりに、今回特に感じた懸念点や課題点を挙げていこうと思う。まず一番に感じたことは、海外からの来場者へのアナウンスが決定的に足りていなかった。恐らくこれは主催社側もあまり想定していなったのかもしれないが、海外からの来場者は少なかったが見受けられた。先に述べたように繰り返しアナウンスはされていたが、英語や他の言語でのアナウンスはほぼなかった。そのため、ライブ中に撮影する方や椅子から離れてライブを観ている人もいたため、ここは改善点だと思う(海外ではフェスの撮影はSNS等の拡散による広告効果も大きいため、禁止されていないフェスも多いと聞くが、本記事では詳細は割愛する)。準備時間も少なかったのは思うが、徹底した対応のためにもグローバルな準備はするべきであったと思う。
・どうしてもあがる歓声
またライブの始まりでは歓声が上がるタイミングも散見された。確かにどうしても声が出てしまうような時はあったし、会場内でのアナウンスでも常に「声は出さないように」としつこく言われていたが、やはり驚いた時や興奮した時には声が出てしまうのが人なのだ。この部分については本当に徹底をお願いするしかないのかもしれないが、それでも時折上がる歓声には突っ込まざるを得なかった。
・規制に対するノイズ、ふと我に返る時
ライブ中でも、警備員が導線上をしきりに動き回っており、またマスクを外した来場者に対して厳しく指導をしていたため、どうしてもその存在が気になった。また自分のマスクが外れていないかどうかが気がかりになるため、演奏に没頭できるタイミングが今回は特に少なかったように思う。開場の音に満たされていたいという気持ちと、しっかりとマスクをして人と距離を保たなくてはいけないという自我がせめぎあっており、まさに冷静と情熱を両手に持ってライブを観ているといったような、そんな気持ちになることが多かった。
7.展望
まだまだ課題は多いと感じる部分もあったが、世間の批判を押し切って開催しただけはあって、感染症対策はかなり本気で真面目に取り組んでいたというのが正直な感想だ。新しい生活様式、とは言われるがまだその様式が決まりきっておらず、人々がそのイメージを明確に共有できていないことが大きな課題なのだと思う。しかし、逆に言えばその新しい生活様式、及びその発展形であるライブ鑑賞様式とでも言おうか、その様式さえある程度線引き出来れば、ライブやフェスが大々的に開催することが出来る日々はそう遠くないように筆者は感じた。酒、大声、治安が悪いとのイメージの一面を持つ音楽業界だからこそ、本腰を入れて対策を実施し、出演者にも来場者にも感染症対策とはこういうこと、という共通したイメージを持つことが出来れば再び音楽があふれる日常が戻ってくるではないか。
そう感じさせてくれた今回のスーパーソニックには感謝しているし、今後の音楽業界を占う試金石として、非常に大きな一石を投じたという事実は間違いないだろう。恐らくイベントとしてはとてつもない赤字だったと思うが、それでも開催に漕ぎつけた精神と意欲には素直に敬意を表したい。
8.終わりに
これまで、なるべくフィルターをかけずに率直に感想を述べたつもりだが、読んで頂いた方はどういった思いを抱いただろうか。やっぱりフェスや祭りごと、ライブは悪だと感じただろうか。開催自粛を続けるべきだろうか。それとも、ポジティブな印象を抱いただろうか。主催社の努力を感じただろうか。本記事ではどちら側の立場の後押しもしないように書いたつもりだ。
どちらも正しいのだと思う。
感染症対策の為開催を自粛し、人の動きを制限するのも、対策に万全を期し、うるさいぐらいに客側に理解と協力を求めて制限を課して演目を行うことも、それで飯を食っている人がいる以上は、簡単に廃業すれば良いとは言えないし、また完璧といえる対策が編み出されていない現状では、考えうる最大限まで努力し、万全を期すしか無いのだ。勿論開催に対して思うことがあることも、筆者は理解しているつもりだ。それでもこの逆境の中、何とか安全策を講じ、開催にこぎつけた主催社の努力を「不謹慎」や「自粛すべき」の一言で片づけて欲しくないと感じたことも、また事実である。
繰り返しとなるが、この状況下において不当な評価や世間のイメージだけでフェスやライブなどの開催が延期や中止にならないように、心から願っている。
来年こそ、気兼ねなくフェスに参加できる時代になりますように。
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