見出し画像

世間では全然知られてないけど自分が愛してやまないアルバム

ちょっとコアな音楽好きなら誰しも、タイトルのような作品が1つ2つはあると思うんですが、ここでは自分にとって音楽的に刺激を受けた、完成度や世界観に大きく影響を受けた、でも一般的には知らないであろう音楽作品を紹介します。

Amazonへのリンクはアフィリエイトとか貼ってませんので、遠慮なく行ってぜひ聴いてみてください。


軟弱な奴らとは一線を画す本格派ラップメタル[LYNCH MOB / SMOKE THIS]

80年代にハードロックバンドDOKKENでその名を馳せた名ギタリスト、ジョージ・リンチがDOKKEN解散→ハードロックバンドLYNCH MOB結成して活動休止→DOKKEN再結成→脱退、という遍歴を経て1999年にリリースしたLYNCH MOBの再始動作品(ややこしい)で、それまでハードロッカーだったジョージが突然ラップメタルをやったアルバムです。

LYNCH MOBが純粋に好きな人からしたら、邪道中の邪道と言われそうな作品で有名なこの「SMOKE THIS」なんですが、邪道と言われる理由の多くは「ジョージのバンドなのに王道80’sハードロックじゃなくて当時流行りのラップメタルをやってるから(ヒップホップは嫌い派)」「なんか全体的に暗い、聴いてもスカッとしない(キャッチーなHR/HMを期待してた派)」というものだと思います。

それまでのジョージの音楽性は、サングラスと革のスキニーパンツと超盛りまくったロン毛とハーレーが似合う、王道の80年代アメリカンハードロックだったので、それを期待していたファンからはリリース当時ものすごく賛否両論(否の方が圧倒的に多い)だったのをよく覚えています。

10代の頃の僕もハードロックギター大好き人間だったので、正統派なジョージリンチ'sプレイを期待してこれを買ったんですが、いきなりドラムンベースのリズムパターンと、ノイズのようなアドリブギターが鳴り響き、2曲目の「What Do You Want?」はいきなり重いギターリフとラップボーカルでした。

でも、2曲目〜3曲目の表題曲までの流れで聴いてると「あれ、これはカッコいいんじゃないか」と思い始め、4曲目以降はのめり込んで聴いてました。

カッコいい理由.1 ボーカルがアルバムの音楽性にバッチリ

このアルバムのボーカルはカーク・ハーパーと言う人で、ジョージがどこからか見つけてきた当時無名だったボーカリストみたいなんですが、ラップが超カッコいい。黒人っぽさはないけど、いわゆるギャングスタラップ系の、捲し立てるスタイルで、彼のラップを聴いて一気にこのアルバムが好きになりました。

90年代後半はKORNとかレイジ・アゲインスト・ザ・マシーンやリンプ・ビズキッドなどの重いギターとリズムにラップスタイルのボーカル、と日本でミクスチャーと呼ばれていたロックが流行ったんですが、カークはその中でもかなりハードコアなスタイルのラップで、ミクスチャーバンドのラップボーカルというより、純粋にヒップホップのラップとメタルの融合という印象がどのバンドよりもありました。

しかもただラップしてるだけじゃなく、歌も良くて、決して上手い人ではないけど、やさぐれた感じや哀愁が声から感じられる人で、アルバム最後の「Relaxing in the land of az」という曲ではジョージの泣きのギターとともに歌い上げられる彼のボーカルから、行ったこともないのにアリゾナ州の砂漠が目に浮かぶようなイメージが湧いて、今でもたまに聴きたくなります。

カッコいい理由.2 演奏が上手い(特にギター)

ジョージ・リンチは80年代の時点でその超絶(というか人間的に不可能そうな)テクニックで有名になった人なんで、当時流行っていたミクスチャーバンドのギタリストはみんなダウンチューニングしてパワーコード中心のリフを刻む、みたいなのがほとんどの中、この「SMOKE THIS」はギターアルバムとしてもかなり熱いです。

2曲目の「What Do You Want?」では、ジョージの代名詞の1つでもあるディミニッシュ系のアルペジオフレーズや、ワーミーを絡めたインプロヴァイズソロとかDOKKENなどでは聴けないプレイも飛び出し、さっきも出た「Relaxing in the land of az」でのリードは、最初のチョーキングだけで「ああこの人ギター上手いんだな…」と思えるくらい、白玉一発に感情を乗せる系の秀逸なプレイになっています。

また、ギター以外も聴きどころで、ミクスチャー、ラップメタルというカテゴリーではあるものの、各曲でファンク、ラテン、ヒップホップ、ドラムンベースとあらゆるアレンジが入っていて、それでいながらアルバム全体のダークな世界観は決して崩れてないのが素晴らしいのです。

90年代のミクスチャー系ロックは、「ギターソロなんて時代遅れだぜ」という風潮もあって技巧的なプレイはほとんどせずエフェクターでのサウンドメイクに凝るバンドが多かったけど、ジョージはその辺の連中を余裕で超えたプレイをして、なおかつメタル的なリズムだけじゃなく色んな音楽をちゃんと消化しているという、音楽的な懐の深さや長年のキャリアに裏付けられた実力をしっかりアピールしています。

惜しむらくは「やりたいことをやりすぎて、あんまり意味のないインタールードっぽいトラックがいくつかある」「予算があまりなかったんだろうなというのが音に現れてしまっている」ところなんですが、

何よりジョージが当時本当に好きで追求したいと思っていたであろう音が入っていて、それらが単にビジネス的に流行に乗ったというような嘘や媚びのようなものがない点が素敵です。(当時、80'sで活動したハードロックバンドが本当にただ流行に乗って作ったグランジ、ヘヴィロックアルバムはいっぱいありましたが、どれもこのアルバムのようなガチさは感じられないものばかりです)

僕がヒップホップを聴けるきっかけになったアルバムの1つであり、90年代のラップメタルと呼ばれる音楽の中で、(売り上げとか知名度を抜きにして)最高傑作だと思います。

アルバム自体はガチな仕上がりなので、LYNCH MOBって名義にしなければ、文句言われることもなかったかもしれないのに…。

原曲破壊によって生まれた新しい魅力[SQUARE SOFT / PARASITE EVE REMIXES]

1998年にリリースされたRPG「パラサイト・イヴ」のゲーム中のサウンドトラックをDJやプロデューサーがリミックスした、という、作品の概要の時点でマニア度の高さが伺えるアルバムです。

このパラサイト・イヴはリアルタイムで買って遊び、かなりやり込んだので、ゲーム中の曲もよく覚えているんですが、「ストリートファイター2」や「キングダム・ハーツ」、「FF15」を手がけた下村陽子さんが作曲を担当しており、ゲームの世界観に合わせて無機質さを意識して作った、と言われています。

元々のゲームのストーリー自体が海外ドラマ風のSFホラーサスペンスみたいな雰囲気で、とにかくビジュアルが映画並みにド派手(当時、ハリウッドの制作スタッフを起用したことが宣伝では強調されてました)なので、それに沿った、無機質なリズムに耽美なメロディー、でも敵キャラのグロテスクさや日常が崩れていく狂気感のようなものが音楽でも表現されていて、リミックスもその雰囲気を引き継いでいるように感じます。

このリミックス盤は、全体的には90年代に流行ったテクノ、ハウス、ドラムンベース、トリップホップというイギリスのエレクトロが基本になっていて、今聴くと正直リズムの音色とかはノスタルジー味あるな〜と感じるんですが、ゲーム自体は当時結構売れた作品でもあるので、参加したリミキサーの何人かもゲームを遊んだ上でこの仕事に関わっているそうで、その時の熱気が音から感じられるアルバムになっています。

カッコいい理由.1 曲順が秀逸

主人公のテーマ曲を下村さんがセルフアレンジしたピアノソロ+ドラムンベース曲の「A.Y.A」でアップテンポに始まり、

通常戦闘曲を4つ打ちハウス化した「Arise within You」、

ボス戦曲のこれまた4つ打ち「Plosive Attack」、

聴かせ系のハウス「Missing Perspective」と続いて、

オペラボイスをサンプルしたインパクトのある「Influence of Deep」で雰囲気がだんだんコアな方向性へ切り替わり、

密室的な閉塞感のあるテクノ「Under the Progress」と、

サンプリングされたギターリフが印象的な「Primal Eyes」に続いて、

めちゃくちゃカッコいい高速ドラムンベースの「Across the Memories」を経て、

ダブっぽいヘヴィなスローナンバー「Urban Noise」を挟んで、

主題歌の「Somnia Memorias」でしっとりダークなまま〆る。

という感じで、キャッチーに始まり、1回静かにさせてから、だんだんマニアックな世界へ引き込んで、1回重たい曲を挟んで歌もので静かに終わる、という、この曲順がまるで1つのストーリーのような流れをしていて完璧すぎると思うのです。

カッコいい理由.2 原曲を破壊してるが、それによって別の良さが生まれている

アルバムの中で個人的に特別好きな曲は「Across the Memories」と「Somnia Memorias」です。

「Across the Memories」はゲーム中の曲の「Across the view」と「Memory」の2曲を合体させていて、出だしのピアノは「Memory」のものなんですが、すぐにドラムンベースのパターンが入り、低音が漏れるように流れて、そのあとは乱闘のようなジャングルビートが流れていきます。

このリズムの上で鳴る、「Across the view」からサンプリングしたと思われるシンセベースのラインが、ベースラインだけで全て持っていってしまうくらいものすごく良くて、原曲よりもBPMは上がっているし、リズムはうるさいのでちょっと落ち着いた雰囲気は無くなってるけど、逆にせり立てるようなリズムがアドレナリン出まくる感じですごくアガります。

こうやって、原曲をいじったことで根幹のコンセプトは同じでもその見え方、聴こえ方が違う、という結果を生むリミックスという表現方法は、すごくクリエイティブだと思っていて、批判されるかもしれないことを覚悟でこれをやるミュージシャンの挑戦的な姿勢が僕はとても好きです。

結果、僕はこの曲を聴いてドラムンベースにハマり、Squarepusherとかを聴けるようになりました。

「Somnia Memorias」は唯一の歌ものですが、このアルバムでは完全にトリップホップ化していて、でもA、B、サビというJ-POP構成なので多分ポーティスヘッドやマッシブアタックとかよりも、日本人的には聴きやすいはずです。

(多分)フレットレスで弾いてる生ベースとアコギやワウギターのバッキングと、ゲーム側の原曲バージョンでも歌っていたシャニのボーカルがものすごくエロくて、まさに90’sのトリップホップ女性ボーカル曲という仕上がりです。

この曲は、原曲だと鳥のせせらぎとか環境音から始まってスペイン語とオールドラテン語で歌われていて、その多国籍感がファンタジックで神秘的なんですが、リミックスで英語歌詞にしたことと、この低音モリモリのミックスでその神秘性みたいなものが薄れた、という人もいて、でも僕は元々トリップホップ大好きだったので、このアレンジは最高に好みなのです。

ゲームの舞台はニューヨークなので、英語の歌詞、かつ暗い楽曲、というのが、これはこれで「パラサイト・イヴ」というゲームの世界観を別の視点で表現しているようで、秀逸です。

アルバム自体がまるで群像劇の映画作品[INORAN / 想]

日本が誇る天下のロックバンド、LUNA SEAのギタリストINORANさんが1998年に初めてリリースしたソロアルバムです。

当時のLUNA SEA人気もあって数十万枚は売れたと言われる作品なので、これを「全然みんな知らない」括りにしていいのか、という疑問はありますが、意外とLUNA SEA好きというバンドマンがこの作品を知らないことが多いと感じたので、ぜひ知って欲しいと思って入れました。

これはDJ Krushを共同プロデューサーに迎えており、INORANさんが作曲、アレンジ、ギター、1曲だけ歌、という形でKrushの作ったビートと一緒に紡いだトリップホップ作品、という雰囲気です。

カッコいい理由.1 アルバム自体がまるで1つの映画のようなストーリー

自分がこの作品を特に素晴らしいと思う理由はこれです。僕はCD世代でアルバム大好き人間なので、収録されている曲順の意味や全体のコンセプトの統一感などをどうしても求めてしまう方で、その点でこの作品も素敵です。

INORANさん名義のソロアルバムなのに、本人は1曲歌うのみであとはギター(ベースも弾いてるのかな?)と作曲に徹しています。ボーカルは海外の女性ボーカルか男性ラッパー(あのThe Rootsのブラックソートも参加!)を複数人ゲストで迎えて、ほぼ曲ごとに入れ替わり立ち替わりしてます。

この、様々なボーカリスト群の人選がすごく良くて、特別有名な人はあまり参加していないんですが、色んな人種、色んな声質で歌われる各曲が、まるで世界中の色んな場所で生きる登場人物とそのワンシーンのように聴こえて、さながら1つの群像劇のような作品に仕上がっています。

歌詞が抽象的なものもあるので、はっきりとつかめませんが、アルバム全体で「想いを伝える」というテーマがあるようで、同じテーマをそれぞれのボーカリストの感性と視点で歌っているような印象です。

例えば、3曲目の「Monsoon Baby」は透明感のあるボーカルが北欧のどこかの丘を思わせるし、
4曲目の「Obscenity」や9曲目の「Rat Race」は男性のラッパーが登場するNYの路地裏、
7曲目の「Have You Read?」は「今朝の新聞読んだ?」と囁いてくる女性のラップがイギリスの古いレンガ造りの建物の中にあるカフェでの場面を思わせるようで、
INORANさんが歌う6曲目のタイトル曲と10曲目の「人魚」は日本語なので東京、の違う場所にいる男女、といった、様々な国とそれぞれの日常やその中での感情、などが歌われてる作品、のように感じます。

カッコいい理由.2 音選びが引き算の美学

元々INORANさんは、弾きまくるタイプのギタリストではなく、特に90年代のLUNA SEAでは派手な他のメンバーに比べて「INORANアルペジオ」と呼ばれる、淡々としたクリーントーンを音数少なく弾く人、という印象が強かったのですが、この作品ではそのINORANアルペジオとDJ Krushのブレイクビーツが世界最高のケミストリーを生み出しています。

くぐもった音色のスモーキーで金属質なリズムの上で、コーラスやリバーブが深くかかったINORANギターがこれまた淡々と流れていくんですが、このどちらもが主張しないようでいて、とても鮮明に頭に残ります。

主役は歌で、それを引き立てる背景や環境音であるかのように鳴る二人の音は、余計なものを一切削ぎ落とした、引き算された結果残った音のように聴こえます。使える音が少ないので、どんなタイミング(リズム)でどの音(コードトーン)を選ぶか、ということになるわけで、その点では音選びに対する感性がとにかくすごい。このバックのトラックだけを聴いていても十分、上質なBGMとして心地よさを提供してくれるような気がします。

このアルバムは1曲だけ出して聴いてもらうより、ぜひ流れで頭から聴いて欲しいと思うので、YouTubeとかは張りません。全然明るい、ハッピーな雰囲気はありませんが、聴き終わった後に、不思議とポジティブな気持ちと充実感に満ち溢れる作品で、これを聴かないでいるのはコアな音楽好きとしては損失だと思います。

ちなみに98年リリースのオリジナル盤と2011年リリースのリイシュー盤がありますが、個人的にはリイシューの方を強くお勧めします。

色々とエクストリームでシネマティックなプログメタル[Jason Richardson / I]

Born Of Osiris、Chelsea Grinなどのデスコアバンドで活動してその後ソロアーティストに転向した、ジェイソン・リチャードソンというギタリストが、クラウドファンディングで資金を集めてリリースしたソロアルバムです。

クラファンで作られた作品は僕も結構何組も出資して買ってるんですが、「聴きたい人だけがお金を出す=赤字は免れる」という仕組みからか、レコード会社の契約の縛りから解き放たれたからなのか、どのアーティストもマニアックすぎるものを出しがちで、ちょっととっつきにくいなあ…という作品も少なくないんですが、このジェイソンのアルバムは「本気で売り出すぞ!」という熱いものを感じさせる、程よくキャッチーで、でも色んなところがエクストリームなメタル作品に仕上がってます。

ジェイソンがバンドを脱退した理由は「自分はテクニカルな音楽性を目指しているけど、バンドのメンバーはそう思ってなかったという方向性の違い」というものだそうで、それが理由の全てではないんだろうなと思いつつも、この作品のプレイを聴くと、「ああ、これについて来れる人はあんまりいなさそうだな…」とも思わせるくらい、とにかく色々詰め込んでます。

カッコいい理由.1 なんでそんなに難しくするの?ってくらい技巧派

ジェイソンのギターは、テクニック的な意味でとにかくエクストリームです。多分観てもらった方が早いです。

ジェイソンはドリームシアターの「Train Of Thought」というアルバムに影響を受けてこういうプレイスタイルに行ったそうなんですが、ドリームシアターよりも複雑そうな、ポジション覚えるだけでも脳が熱暴走しそうなリックから始まります。

それでいて、結構フレーズが印象に残り、単なるテクニック音楽というイメージで終わらないところもいいです。多分単発だと複雑なリックで終わってしまうところを何度も繰り返して、バッキングやリズム、またはメインのフレーズに対するシンセなどの補強パートで展開をつけてるからなのかなと思います。

ちなみにちょいちょい後ろで聴こえる、ギターにユニゾンしてるベースもジェイソン本人が弾いていて、6弦ベースをフルに使って相当キツいことしてます。

ここまで巧いとむしろバンドやらずに自分の音楽としてやった方が動きやすいだろうなと思うので、なるべくしてソロになったんだなという気がするんですが、ジェイソン本人が本当に心から「やりたい」と思っているギタープレイや楽曲をやってるんだなあというのを感じます。

あと、このMVで一緒に出演しているルーク・ホーランドというドラマーが、アルバムでの生ドラムパートを全部手掛けており、彼もかなりエクストリームです。ルークもジェイソンと同じく、バンドをやっていたけどソロでキャリアを積みたい、ということでYouTubeなどでのいわゆる叩いてみた動画をメインに活動している人のようです。

彼らのような、専門性に超特化したミュージシャンは地道なバンド活動をするより、自分の尖った部分を集中的にアピールできるSNSで観せた方がいいんでしょうね。本当に巧くて優れた人は20世紀までなら世に出ることはチャンスがほとんどなかったんですが、そういう意味では良い時代だなあと思うし、そこで名を馳せたジェイソンとルークは「今の時代のアーティスト」という感じがします。

カッコいい理由.2 エクストリームだけど案外キャッチー

僕が初めてジェイソンを観てやられてしまったのはこの動画です。

アルバムはほとんどがさっきの「Omni」のようなヘヴィでテクニカルなインストなんですが、2曲だけ歌が入ってるもの(歌ものとは呼んでない)もあって、そのうちの1曲がこの「Fragments」です。

メタルコアバンドVeils Of Mayaのボーカルのルーカス・マグヤーとPeripheryのマーク・ホルコフがゲストでギターソロを弾いてる、という'10年代メタルコアオールスターみたいな曲で、とにかく展開が多くて壮大さを感じる曲です。

サビ、というかコーラスパートが2回出てくる以外は単純な繰り返しのパートがほとんどなく、4分30秒という尺には思えないくらい、映画のような展開を見せます。ジェイソンは映画やゲームの音楽にも影響を受けたらしく、彼の楽曲に見られるシネマティックな展開や演出は、プログレというより映像作品からの影響なのかなと思います。

ルーカスの歌も良くて、デスボイスも地の歌も声質が骨太な感じで曲に合ってるし(そういうバンドで現役で活動してる人だからなのもあるけど)、こんなにヘヴィで色々詰め込んでる曲なのにキャッチーに聴こえるのはルーカスのボーカルがあってのものだと思います。

あともう1曲の歌ものはPeripheryのスペンサー・ソテロが歌ってる「Retrograde」という曲で、こっちは楽曲的にモロにPeripheryという感じです。

'10年代のメタルコアバンドで有名になったところはみんなボーカルの声が良くて、ただがなって終わり、みたいな人って少ないですよね。

そういう、シーンの中で重要でアイコニックなボーカルを起用して、自分のギター以外でも勝負するところに、ジェイソンの「このアルバムを多くの人に聴いてもらうんや!」という熱意を感じます。

あと、このアルバムのジャケットも僕は大好きで、Animals As Leadersとかもそうですが、抽象的な、モヤっとした芸術点高いグラフィックをジャケットに使うことが多くて、僕の作品でもアートワークを作る時は参考にするくらい影響を受けてます(僕の音楽はメタルコアじゃないんだけど)

音楽とは時間芸術である [Spirit Fingers / Spirit Fingers]

ジャズピアニストのグレッグ・スペロが結成した4ピースバンドのデビューアルバムです。ベースは故チック・コリアや上原ひろみのツアーに参加したアドリアン・フェロー!

元々色んなアーティストのツアーの仕事を受けていたグレッグが個人的に書き溜めていた曲を周りに聴かせたら「アルバムとして出した方がいいよ」と促されてメンバーを探し、NYかどこかのクラブを借りて短い期間でサッと録った、というような感じの経緯がアルバムのライナーノーツに書いてあったような気がするんですが、

グレッグもアドリアンも、後のギターとドラムも全員めちゃくちゃテクニカルではあるんですが、技巧のための音楽、という印象がしなくて非常に芸術点が高い作品です。

このアルバムに感動して、僕はインスタグラムで直接グレッグに「日本に来て欲しい」とコメントしたんですが、「僕達も行きたいと思ってるから今エージェントを探してるんだ。その時のために僕達のアルバムを友達に広めまくってくれ!」と本人からレスがあり、気さくな人だなあと思ってたんですが、この情勢だと当分先になりそうだなあ…というのと、アドリアンは最近は参加していないようなのでちょっとがっかり…ですが、このアルバムが好きなことに変わりはありません。

カッコいい理由.1 表現力豊かで曲のための技巧という使い方をしてる

僕はベース弾きなのでアドリアンが参加してるというだけでこのアルバムを試聴もせずに買ったんですが、アドリアンはチックや上原ひろみが起用するだけあって、次元の違うテクニシャンで、このアルバムでもその技が存分に披露されていました。

結構何度も高速ユニゾンのパートが出てくるんですが、「ユニゾンってそんなに合う!?」ってくらいバチッと合ってて、当然そういう技術の部分でも素晴らしいんですが、その技巧がどれも曲に調和してて、「超絶リックをやってやったぜ」みたいな感じではなく、その辺をそよ風がすり抜けていったくらいの自然さ。

技術で主張しようというんではなく、音で会話するというジャズの基本の範疇で、その会話が高度すぎて素晴らしい、という類の「曲のための技巧」という状態になっています。

あともう1つ個人的にツボなのは、この「maps」という曲が分かりやすいんですが、アドリアンのボリュームペダル使いが巧みで、イントロで「ンボ〜ッ…」って鳴る低音がそれなんですが、これがまた曲にいい演出として貢献してて、自分も影響されて似たようなプレイをしたりします。

そしてボリュームペダル云々以上に、とにかく僕はアドリアンの、低音がものすごく出てて、でも繊細で丸いベースの音が好きなのです。

カッコいい理由2. 音楽は時間芸術であることを思い出させてくれる

ジャズって至極雑に言えば、テーマというパートがあって、それをひと回し演奏してから、そのテーマのコード進行を繰り返してソロを回して、その中で演者の個性を見せていく音楽なんですが(すごく雑に言いました)、

ただ同じバッキングが繰り返される、というよりも誰かのソロの内容に応じて周りも反応したりするんですが、そうやって音が音を呼び、その場限りの演奏=音楽が生まれるのがリアルタイム作曲とか言われるジャズの真骨頂で、このアルバムは本当にそんな内容になっています。

アルバム1曲目の「inside」という曲を観てもらうと、まさにその、時間の進行に合わせて音楽が発展していく様子というのが分かると思います。

絵画は平面の芸術、彫刻は立体の芸術、音楽は時間の芸術、と言われているのを何かで目にしましたが、ジャズの優れたプレイヤーはみんな音の芸術を時間軸で見せてくれる人達だなあと思います。

街中のカフェでBGM扱いされるシャレオツ音楽、というのが世間のジャズに対する理解な気がしますが、ポップスやロックは「曲を再現する=曲に演者が紐づいてる」という要素が強いのに対して、ジャズは「演者に曲が紐づいてる=やる人やタイミングによって変わる音楽」であり、本当はもっと人の個性や表現を自由にできる音楽だということをみんなに知ってもらいたい!

洗練された海外ポップスを歌う日本人ボーカル [MIZ / Dreams]

2000年代に活動していた女性ボーカルの1stアルバム(の海外版)。

この人も2000年頃にCMソングでデビューシングルが起用されて、「日本人離れした英語歌唱+爽やかで瑞々しいサウンド」という形でメディアに取り上げられたりしてたし、デビューシングルの「New Day」っていう曲は当時人気があったので、全く知られてない、とは失礼だと思うけど、僕は大好きで今でもたまに聴きます。

カッコいい理由.1 楽曲がポップスとしてクオリティ高い

スウェーデンのスタッフと制作していたり、スウェーデンの国内チャートで10位以内入りしたりしていて、デビュー当時から海外志向という側面を見せて活動していた人で、楽曲も海外の作家を招いて制作していました。

作家陣は調べてもあまり情報が出てこなかったんで詳細は分からないんですが、アブリルラヴィーンとかミシェルブランチに近い、ギターメインのポップロックという曲調が主で、個人的に大好きな曲がこの「Dreams」。

コーラスがカッコよくて、メロディーが綺麗で力強い歌声で、という歌の魅力もさることながら、サウンドも含めてアメリカのカラッと元気なポップスとは違うヨーロッパ的な哀愁があって、すごく好み。

カッコいい理由.2 海外志向の日本人アーティスト

あともう1曲、「Lay Your Love On Me」というアルバム曲があって、これがまたクールでカッコいい。

ヘヴィなギターリフ+ダンスビートで、ヴァース→コーラス、という流れは完全に洋楽のそれ。

BONNNIE PINKとかBOOM BOOM SATELITESとか、海外志向の、洋楽に色濃く影響を受けた日本人アーティストが僕は元々好きで、MIZのアルバムもその流れで聴いてハマってました。

MIZはこのアルバムの後、この海外ポップス路線でもう1枚アルバムを出して、ゲームの主題歌などもやってたんだけど、その後は急に「MIZROCK」に改名したり、なぜか突然ペッパー警部をカバーしたりと路線が少しブレて、初期の頃の爽やかなギターポップが好きだったファンが離れてしまい(その頃までは追ってないので僕はよく知らない)、2010年代はミュージカルなどで歌っていたみたいです。

で、MIZが最後のアルバムを出した頃かその少し前から、日本の音楽シーンから彼女のような「洋楽志向」な音の人が減っていき、ボカロとかアニソンバンド曲とか、今の日本独自の音楽シーンが大きくなっていったような気がしてます。

なので、今の時代でのメインストリームではないかもしれないけど、この作品は自分の中で「カッコいい歌ものメロディー」の理想の1つだったりします。

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?