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テーブルウェアから世相が見える

今年最初の美術館は、愛知県陶磁美術館。「昭和レトロモダン~洋食器とデザイン画」に足を運んだ。

しばらくぶりに訪れた陶磁美術館の庭。見慣れないオブジェが増えている。

戦後の日本を代表する洋食器メーカーといえばノリタケが有名だけれども、戦後から高度経済成長期にかけては中小規模の製陶所も活躍した。この美術展では、愛知を拠点に活躍した鳴海製陶や三郷陶器、岐阜のヤマカ製陶所などが手掛けた独自のデザインを特集しており、昭和30~40年代の洋食器が紹介されている。

洋食器といえば、もともとは欧米向けの輸出品として生産されてきた歴史があり、デザインも欧米で人気がでるようなものを目指していた。太平洋戦争を経て日本の経済が上向きになり、人々の生活が豊かになると国内向けの需要が生まれた。ホテルやレストラン向けはもちろん、一般家庭にまで洋食器のセットが普及しはじめたのだ。

すると日本人が使いやすいデザインが必要になる。その一方で、もちろん海外向けの輸出は続いているどころかますます盛んになり、人気デザインの品をより安価に提供することに心血が注がれたようだ。海外にも国内にも通用するデザインを、ということで海外で学んだデザイナーたちが日本に戻ってきて創意工夫を凝らし、さまざまな洋食器が生まれた。

また、興味深いのが頒布会制度。今でも千趣会とかディアゴスティーニとかで毎月少しずつシリーズやパーツを揃えるタイプの販売形態があるけれども、すでに昭和の30年代に食器で行われていたのだ。今月は茶碗蒸しセット、来月はコーヒーカップ、みたいな感じで少しずつそろえ、コンプリートすると家電が抽選で当たるという…。こうして、お高い食器セットも一般家庭へと普及していったわけだ。

デザインは、欧米向けのものと比べるとシンプルだがセンスの良いものが多い。また、使い勝手の良さも考慮されているし(たとえば、カップ&ソーサーでは受け皿がケーキ皿としても使えるデザインになっている)、食器セットの中に湯呑や徳利が入っていたりして、日本人の生活に合うような工夫がなされている。かと思えば丸いはずの皿をあえて四角形でデザインしたカドリールシリーズや、世界各地の民族模様をモチーフにしたワン・ワールドシリーズなど(いずれも三郷陶器)、大胆な試みもあって面白い。レトロと言うには一巡してむしろ新鮮だし、良いデザインは古びない。

洋食器の名札ともいえるのが、カップの底や皿の裏に記されているマーク。裏印と呼ばれているが、これはメーカーや年代によって特徴があり、その食器の出自を示す大きな手がかりとなるもので、洋食器に限らず陶器にも刻印されたものがある。三郷陶器の歴代の裏印を見ていたら、見覚えのあるものが混じっている。帰宅してから我が家の大皿をひっくり返してみたら、そのうちの一枚に同じものがあった。昭和28年頃から40年頃にかけて使われていた裏印だ。ということは、その皿は下手すると家族の誰よりも長い年月を生きて(?)いることになる。もっとも、陶磁器は腐らないし化学変化にも強いので物によっては1000年以上生き延びていたりするので、歴史の生き証人としてはぴったりなのだろう。

西館から本館ロビーへ引っ越してきた狛犬たち。彼らもまた長らく人々を見守ってきたわけで。


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