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本番はあるのかな?

3月初めのこと、豊田市美術館の企画展、久門 剛史「らせんの練習」を見てきた。前回の岡崎乾二郎展に続き、ガチガチの現代アート展示なので嬉しくて、自分でも心配になるくらい期待値高めで出かけた。見慣れないもの、刺激的なものに出会うのは楽しい。

いつものように1Fのメイン展示室に入ろうとしたら、そこは「開館25周年記念コレクション展 VISION Part 1 光について / 光をともして」だった。企画展である「らせんの練習」は2Fと3Fで展開されているとのこと。どちらも興味を引くが、まずはお目当ての「らせんの練習」から。

2Fの展示室は天井が高くて巨大な立方体とでもいえる箱。そこにはスケールの大きな作品《Force》が展示されていた。↓

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3Fに上がって最初に入る小さな展示室は遮光されて真っ暗。中には光と反射で構成される作品があって、宇宙に浮いている感覚になる。最初はミラーボールとその反射が綺麗だな、ぐらいに感じていたのだが、あとから解説を読むと、小さな時計が集まったミラーボールとのこと。暗闇の中に無数の時が散りばめられている《after that》

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下の作品群は《丁寧に生きる》。ガラスと木材で作られた筐体はシンプルなようでいて意外性に満ちた作り。見ていて飽きない。ちなみに展覧会のタイトルともなっている《らせんの練習》は左下の作品。機械仕掛けのコンパスがスロープを登って円を描いてゆくが、一周するとストンと下に落ちて、らせんに成り切れない。可愛らしい動きだけども、シーシュポスの神話を思い出してしまって切ない。折しも新型ウイルス大流行の中、何百年たっても同じ過ちを繰り返してしまう人類の比喩にも見える。

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他の作品も印象的だったが、全体的にとても整然として静謐な作品たちだった。例えば真っ白な室内に時計を模したオブジェがぽつんと展示されている《crossfades #1》、あるいは光に照らし出されただけに見える、真っ白な紙の前に佇むとようやく作品が立ち現れる《crossfades -Touch-》。静謐であると同時に、大きな時間の流れや世界の存在を感じさせるスケール感もある。

扇風機の風でゆれるカーテンやしずくの音に合わせて点滅する電球などが組み合わさった作品《Quantize #7》を見たとき、久門氏の作品を見るのは初めてではないことに気がついた。炎上する前の回のあいちトリエンナーレ、あいトリ2016「虹のキャラバンサライ」にて、豊橋会場内の開発ビルで出会っている。あの時は窓枠とカーテンが広いフロアに幾つも並び、それらが風を受け、ただひらひらとたなびく様が不思議で、マグリットの絵画を思い出したのだった。豊田での《Quantize #7》は、あいトリで出品された作品と同じシリーズらしい。

こういったタイプの作品はどれも大変好みで、可能なら時間をかけてその作品世界に浸りたかった。どうにも監視員さんの視線が気になって長居はできなかったのだが。

同時開催のコレクション展も、企画展に合わせて関連テーマで固めてあり、すべて鑑賞するといっそう理解が深まる仕掛けになっている。コレクション展はふたつあり、ひとつは1Fで大規模に展開されている「光について / 光をともして」であり、美術館がこれまで集めてきた現代作家の作品のうち、光にまつわるものたちが贅沢に空間をたっぷり使って展示されている。初めて見る作品も多く、とても見応えがあった。嬉しかったのは、開館25周年を記念するこのコレクションについて、解説やインタビューの載った小冊子が用意され配布されていたこと。現代アートは理屈、いや、思想とワンセットだから、解説は理解のための補助線。

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もうひとつのコレクション展は「電気の時代」。光から電気へとテーマを絞り、電気に関係する作品が展示されていた。世界初の電化製品のデザインだとか、霧の街ロンドンをおぼろに照らし出す照明をテーマにした作品だとか、ヤノベケンジ(かつて福島で物議を醸した)のアトムスーツ、福島の帰宅困難区域からカラスを率いて東京に乗り込む様子をビデオ撮影したChim↑Pomの《Black of Death》など、これまた前のめりな展示。

一通り見終わって、豊田市美術館さん、よくぞこれだけの作品を集めてくれたと感動すらおぼえた。私達が今、どんな世界にいるのか。アートという切り口を通すことで、新しい視点が開けてくる。視覚だけでなく五感が刺激を受ける。

最後に恒例行事として「見るだけ」のつもりで立ち寄ったショップ。案の定興味を引く貴重なブツを見つけてしまい、また過去のカタログが大幅値引きされているのにもかどわかされ、迷った末に2冊をお迎えせずにはいられなかった。

願わくば、会期内に美術館が再開できる日が来ますように。そしてより多くの人に体験してほしい。

※タイトル画像は《crossfades #4》の一部。さまざまなデザインが施されているるが、実はすべての画に共通して螺旋状に打ち出さた円周率がプリントされている。

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