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びおら弾きの哀愁 1

ビオラという楽器は、同じバイオリン族のバイオリンやチェロ(本名はバイオリン・チェロ)に比べると、知名度も音質もマイナーである。それを知っていてなぜビオラを弾くという選択をしたのだろう。しかも気づいたらアマチュア歴20年を超えているではないか。

その間にさまざまな作曲家、指揮者、演奏団体と関わり、もう限界だもうやめようと思いつつ、そのたびに音楽の神様に首根っこを捕まえられては引き戻されてきた。

どうしてこうなった? と謎を解き明かすべく、ビオラについて思うところを書いてみることにした。そうしたらビオラ愛があふれすぎて、思いのほか記事が長くなってしまったので、何度かに分けてお届けすることにする。もし興味を持たれたら、最後までお付き合いいただけると嬉しいし、もう充分と思われたらそっと画面を閉じてほしい。

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最初の出会いは大学のオーケストラ部。たまたま勧誘を受けたのがビオラ弾きの先輩だった。「大学生からでも弦楽器は始められる」との言葉に乗せられ、クラブハウスの練習場で初めてビオラに触れたとき、なんかいいなと思ったのが始まり。試しにバイオリンを弾いてみたら、音が高すぎて耳がどうかなりそうだった。その後先輩から「内声の美」について滔々と語られ、伴奏が中心の楽器と聞いてひどく心をひかれた。その下地にあるのは、小・中と続けてきた合唱部での経験に違いない。

私の声質はアルトに向いているらしく、小学生の時も中学生になってからも合唱ではずっとアルトを任されてきた。メロディパートの下支えをしてきたわけで、メロディを支える伴奏の重要さと面白さをその時に覚えた。たまにはソプラノで歌いたいと思ったこともなくはないが、そこまで自己主張が激しくない性格だったのアルト向きだったのだろう。

実際オーケストラの中でビオラを弾いてみると本当に伴奏ばかり。さらにビオラパートをうまくこなすには、オーケストラ全体に耳を向けていなければならなかったりして、苦労の割に報われない。逆に言えばビオラの役目がきちんと果たせるということは、オーケストラがわかっていることでもある。なかなか奧の深い楽器である。

さて、「ビオラ」とは、いったいどのような楽器だろうか。一般的には「バイオリンより一回り大きくて音が少し低い楽器」と言われる。抱え方はバイオリンと同じく左肩とあごではさむし、調弦は、低い方からC(ド)G(ソ)D(レ)A(ラ)。チェロのちょうど1オクターブ上だ。まるでバイオリンとチェロを足して2で割った中途半端な楽器、というイメージを持たれがちだが、真実は「ビオラを大きくして音を高くしたのがバイオリン」だと思っている。なぜか。

見た目からわかるように、バイオリンもビオラもご先祖様は同じで、バロック時代の「ビオラ・ダ・ブラッチオ」(腕にのせて弾く弦楽器の意)にたどりつく。これが時代とともに分化して、高音域を受け持ち、華やかな音を奏でるバイオリンと、中音域を受け持ち、アンサンブルに向いているビオラになった。名前からしてビオラが正統派である。ちなみにチェロのご先祖様は「ビオラ・ダ・ガンバ」という縦置きにして足で挟んで弾く弦楽器であり、「ビオラ・ダ・ブラッチオ」とともにヴィオール属の楽器だった。(これまたトリビアだが、現在オーケストラで使用されている弦楽器のうち、ヴィオール属の名残を残しているのは唯一コントラバスだけである)

以上はあくまで外見上の話であり、ビオラにはもうひとつ、アンサンブルの要という大事な側面がある。例えるなら上と下からの圧力に耐えなければならない3人兄弟の真ん中、というイメージだろうか。具体的には合奏中に(自己主張の強い)各パート間で生じる大小の食い違いにうまく対処しつつアンサンブルの崩壊を防ぐ役割を持っている、ということである。

こう書くと、かっこいいイメージが先行するだろうが、実際にビオラが楽曲の中で担当しているのは、メロディの補佐である。ほとんど和音を作ったり、リズムを刻んだり。そういう地味な作業をこなしながら各パートの音のすき間を埋め、バランスをとり、時にはメトロノームの代役になったりしているわけだ。が、オーケストラ全体がうまく調和して曲が進むなんてことは、アマチュアではほとんどあり得ず、たいていは複数のパートで微妙に(時に派手に)テンポが食い違ってくる。その間に立ってリズムを刻んでいるビオラはどこに合わせたらいいものか毎回悩む。メロディラインに寄り添うのが基本ではあるが、必ずしもメロディが一つとは限らず、バイオリンとチェロ&コントラバス、あるいは弦楽器と管楽器の抗争に巻き込まれて右往左往することも少なくない。時に流れ弾に当たるし。挙句の果てに「ビオラ、テンボがズレてる」 などと注意されるし。中間管理職はつらい。  

続く

※ビオラだけが他のパートに比べて著しくズレているケースもままあり、この場合、決して他パートに責を負わせるべきではないことは重々承知である。

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