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美術展めぐり

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実際に足を運んで見に行った美術展の感想を書き留めています。
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#豊田市美術館

具象と抽象の間で―ゲルハルト・リヒターを見てきた話―

あいち国際芸術祭の熱狂が過ぎ去り、ふと我に返ると、豊田市美術館で気になる展覧会が開かれていた。1932年にドイツで生まれ、東ドイツから西ドイツへ移動して活動を続けてきた画家、ゲルハルト・リヒターの回顧展だ。 中でも話題性が高いのが《ビルケナウ》というアウシュビッツ収容所をテーマにした作品で、リヒターは何十年にもわたってこの作品に取り組み、ようやく2014年に完成した。この作品に関する解説や画像はすでにネット上にいくつも登場しているが、それらを見るだけでは当然ながらピンと来な

ウィーン工房とかバウハウスとか

あり得ない時期に梅雨が明け、燃えるような暑さに見舞われた今年の7月初頭。涼を取るには丁度よいと、豊田市美術館「交歓するモダン 機能と装飾のポリフォニー」へ足を運んだ。運良く約2年ぶりのギャラリートーク再開と同じ日だった。いつも企画展と連動する形でコレクション展も開催されているが今回は「色、いろいろ」。こちらはシンプルでわかりやすい展示だった。 「交歓するモダン 機能と装飾のポリフォニー」編ギャラリートーク体験 日中の気温の高い時間を外してか、開始は午後3時45分から。この

マジックアワーにしか見えないもの

昼と夜の境目、夕暮れ時を表す日本語に「逢魔が時」「誰そ彼時」など、異界との遭遇を思わせる表現があるように、英語でも光と闇が入れ替わる時間帯をマジックアワーというそうだ。このマジックアワーにフォーカスをあてたのが豊田市美術館で開催中の展覧会「サンセット/サンライズ」だ。 最近、仕事で忙殺されて心身ともに余裕がなくなっていたので、リフレッシュできればいいな、くらいの心持ちで出かけてみた。 章立ては以下の通り。第1章を除いては「闇と光」から派生するテーマで統一され、それぞれのテー

闇と光のあわいで跋扈する者達

久しぶりの豊田市美術館は、ホー・ツーニェン「百鬼夜行」展。妖怪をテーマにした独自の映像作品を堪能することができた。 ホー・ツーニェンの作品に接するのは2回目。1回目の出会いは2019年の愛知トリエンナーレ豊田会場だった。豊田市内の旧旅館「喜楽亭」にて「旅館アポリア」が展示(上映)されていたのだ。かつて旅館として使われていた建物まるっと1棟が映像インスタレーションの舞台となっていた。短編映画のような作品の連作で構成され、音と映像の洪水に圧倒されたのを覚えている。あれは「鑑賞」

らせん2周目

コロナ禍の影響で中止になったり規模の縮小を強いられたりする展覧会がある中、逆に会期延長の恩恵を受ける展覧会もある。春先に出かけて感銘を受けた豊田市美術館「久門 剛史 − らせんの練習」展や「コレクション展 VISION Part 1 光について/光をともして」展ほか同時開催の展示がそれだ。最初の延長予定が6月22日まで。その後休館期間を経て、7月18日~9月22日まで再度延長するとのことで、思いがけず再び訪れることができた。夏休み(今年は短いのだが)を迎えた若い子たちが目にす

本番はあるのかな?

3月初めのこと、豊田市美術館の企画展、久門 剛史「らせんの練習」を見てきた。前回の岡崎乾二郎展に続き、ガチガチの現代アート展示なので嬉しくて、自分でも心配になるくらい期待値高めで出かけた。見慣れないもの、刺激的なものに出会うのは楽しい。 いつものように1Fのメイン展示室に入ろうとしたら、そこは「開館25周年記念コレクション展 VISION Part 1 光について / 光をともして」だった。企画展である「らせんの練習」は2Fと3Fで展開されているとのこと。どちらも興味を引く

階層/回想/快走……?

先日、豊田市美術館でランドスケープツアーに参加したと書いたが、実は同じ日に、岡崎乾二郎・視覚のカイソウ展も鑑賞した。美術館の構造をフルに活用した、大変面白い展覧会だったのだが、何がどういう風に良かったかと考え始めるとうまく説明できる言葉がでない。でも作品を見ているとなんだかワクワクしてくるし、長い長いタイトルはまるで超短編小説だ。ツイッターでつぶやいた通り「理屈抜きで好きとしか言えない」 岡崎乾二郎氏は芸術家という枠から飛び出して多彩な活動を重ねているアーティストだが、活動

クオリティ高すぎな無料エリア

展覧会を見に行くたび、佇まいの美しさに癒やされて帰ってくるのが豊田市美術館。ここは企画展も面白いけれど、建物や敷地内の空間も素敵だ。この11月には美術館の外観や庭を紹介する「ランドスケープツアー」が開催されたので、興味津々で参加してみた。案内役はボランティアのガイドさん。もともと豊田市美はボランティアによる作品解説に力を入れていて、毎日のようにギャラリーツアーが行われている。紅葉の季節に行われた今回のランドスケープツアーもその一環だと思われる。 もともとこの美術館の美しさに