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ウィーン工房とかバウハウスとか

あり得ない時期に梅雨が明け、燃えるような暑さに見舞われた今年の7月初頭。涼を取るには丁度よいと、豊田市美術館「交歓するモダン 機能と装飾のポリフォニー」へ足を運んだ。運良く約2年ぶりのギャラリートーク再開と同じ日だった。いつも企画展と連動する形でコレクション展も開催されているが今回は「色、いろいろ」。こちらはシンプルでわかりやすい展示だった。

「交歓するモダン 機能と装飾のポリフォニー」編

ギャラリートーク体験

日中の気温の高い時間を外してか、開始は午後3時45分から。この展覧会を企画された学芸員さんが自ら解説を行うとのことで、期待値高めで待機。感染症対策ということで、イヤフォン付きの小型無線機を使用しての解説。実際には無線がなくても声は届くのだが、学芸員さんが声を張り上げる必要がなく、また、トークの輪から少し離れて気になる展示物のそばに立ちながら解説が聞けるなど、メリットは大きい。

学芸員さんの解説は、展示のポイントがわかりやすかっただけでなく、この企画そのものへの愛が感じられて、とても良かった。一人で展示を眺め、自力でストーリーを紡いでゆくのも良いが(たいていはそうしている)、実際に企画を立てた担当者から説明を聞くと、展示全体の輪郭がはっきりして理解が早い。

展示のポイント――女性の活躍

今回の展示の目玉はというと、第一次世界大戦を挟む1910年~30年のヨーロッパで起きた「モダン」に関する動きを国境や派閥を超えて眺めてみることだ。20世紀に入ってから大衆消費社会が到来し、いわゆる消費者のニーズに応える製品(家具、衣類、食器など人々が日常生活で使用するもの)が求められるようになった結果、フランスやドイツでは大量生産向けでしかも機能美を備えた製品、というのが開発されてゆく。その過程でドイツではウィーン工房やバウハウスが、フランスではアトリエ・マルティーヌが活躍したというわけだ。彼らは独自に活動したのではなく、明らかに影響を与えあっているし、当時流行りのジャポニズムも一枚噛んでいる。日本からヨーロッパへ勉強に行き、成果を持ち帰ったデザイナーたちもいて、かなりワールドワイドな展開を見せている。この展覧会では取り上げられていないけれども、この「モダン」の流れは少し遅れてチェコなど東欧へも届いている。(参考までに拙サイトの記事を一番下に貼っておきます )

解説を聞いて強く感じたのは、女性の存在がフューチャーされていたことだった。第一次世界大戦中に男手が減り、女性が活躍の場に出たこと、また、年齢性別を問わず受け入れることになっていたバウハウスでも、女性は「女性クラス」という織物やテキスタイル専門のクラスに振り分けられ、マイスター不在の中(色彩の概論を教える先生はいても織物専門の先生がいない!)、自分たちで製品を開発していったことなどがわかるように展示されている。織物デザイン見本の作成者に「作者不詳」が少なくないのは、無名で優秀な女性たちが熱心にデザインを開発していったということだろうか。ちなみにシャネルやランバンが台頭したのはこの時代だ。

ポール・ポワレ デイドレス「カザン」
壁紙デザイン「アーティチョーク」「バラ畑」 
いずれもアトリエ・マルティーヌ
バウハウスのテキスタイルデザイン色々

一方、椅子や机、モデルルーム(今では当たり前だけども、生活空間を提案する「モデルルーム」はこの時代に生まれた!)など比較的硬派なデザインを手掛けたのは男性が多い。興味深いのは、例えばバウハウスの作品でよく売れ、会計を支えたのは、家具類ではなく織物やテキスタイルだったということだろう。

ピエール・シャロー 書架机 (手前)
ヨーゼフ・ホフマン 座るための機械

コレクション展 色、いろいろ編

単色ドーンvs柔らかな多色

全部で5つのコーナーがあり、それぞれ「モノクローム(単彩)」「ポリクローム(多彩)」「素材の色」「B/W(白黒)」「色で/を表現する」とタイトルがついている。が、基本的に、1作品1色でドーン、の作品が多い。色の圧倒的な存在感。受ける印象もシンプルでわかりやすい。

ジュゼッペ・ペノーネ 《黒鉛の皮膚―方鉛鉱の影》(奥)
若林奮 《樹皮と空地―桐の樹》(手前)

だから、というか逆に、というか「ポリクローム」コーナーのクリムト《オイゲニア・プリマフェージの肖像》や横内賢太郎《Book-CHRI 6750》の溢れる色彩が心に染みる。

そして、一番最後の小部屋に現れた色とりどりのやわらかい光。まさかのオラファー・エリアソンだった。ここで再会できるとは!

オラファー・エリアソン 《グリーンランド ランプ》

インパクトの強い作品に接してきた後で、これは癒される。これに匹敵する作品といえば……

いつも少しずつ顔ぶれが変わる常設展

常設展の部屋、一番奥に置かれた、奈良美智《Through the Break in the Rain》ですよ。こちらをまっすぐに見つめる少女の、柔らかで明るい色使い。もう、うっとりと見入ってしまう。この作品も「ポリクローム」のコーナーに置かれるべきでは、と一瞬思ったのだが、すると常設展の中の奈良美智コーナーが成り立たなくなってしまうので、やはりこの場所なのだろう。
ということで、映画はエンドロールまで見ましょう、というのと似て、展覧会は最後まで見るのがお得です。

展覧会情報

機能と装飾のポリフォニー  交歓するモダン
 2022.06.07-2022.09.04 前期:7月24日[日]まで 後期:7月26日[火]から
コレクション展 色、いろいろ
 2022.06.07-2022.09.04
いずれも豊田市美術館→ https://www.museum.toyota.aichi.jp/

おまけ:関連記事をご参考までに


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