今日の私の死なせ方 タイムマシン

 さっき投稿した記事は削除しました。やっぱ自分のこと以外の話題で感情的に書いてしまうと、配慮を欠いてしまうことがよく分かったので。

 希死念慮は本当に大分薄らいできたので本当は必要ないのですが、せっかくだから今日はずっと考えてた自分の「理想だった死なせ方」を書きます。ショートショートです。
 ちゃんと実現不可能だしこんなことは現在は思っていないので安心して(?)最後まで読んでもらえるとありがたいです。





 貯金を全部はたいて何とかタイムマシンを借りることが出来た。何て便利な時代になってくれたんだろう。
 黒い帽子と黒のパーカー、黒のスキニーパンツを身につけて私は早速タイムマシンに乗り込んだ。
 タイムマシンは白い球体で中は1人分の座席しか用意されていなくて少し狭い。身を縮こませながら座って目の前の操作パネルをいじる。操作方法はラミネート加工で右側の壁に吊るされていた。飲食店のメニュー表みたいだ。
 行き先は1年前の10月。丁度夜が早まり涼しくなる季節だ。日付と時間、場所までを設定していざ実行ボタンを押すと機体が揺れ出した。
 待っててね。


 片道だけで十分だったからタイムマシンは現着してすぐに返却した。
 心臓がドクンドクンとうるさい。手袋を嵌めた指先が震えている。
 スマホで時間を確認する。もうそろそろ通りかかる頃だ。嬉しそうな顔をして、軽やかな足取りでこちらに向かってくるはずだ。
 暗がりの死角から窺いながらじっと待っているとようやくやってきた。「私」が。
 スマホの明かりに照らされた顔は案の定デートの余韻で浮かれた様子だ。両耳にイヤホンをしっかり差し込んでいるようで身体がリズムを取っている。

(ああそのまま。どうかそのまま幸せなままで)

 スマホに釘付けでこちらに気づきもしない。我ながら無用心だ。そのまま通り過ぎた瞬間、肩を引っ掴んで無防備に空いた脇腹にナイフを深く突き刺した。

「ぐっ」

 「私」は低い呻き声を漏らすと立っていられないのかゆっくりと膝をついて体勢を崩した。脇腹からナイフを引き抜くと更にくぐもった声を漏らした。血が溢れてたちまち地面が液体で汚れていく。
 「私」は何とか落としたスマホを探ろうと左手を地面に這わせている。その指先のすぐそばにあるスマホを取り上げた。「私」はそこでようやく顔を上げて犯人を確認した。私を映した目がどんどん見開かれていく。

「ごめんね。ちゃんと連絡しとくからね」

「私」の呼吸がどんどん浅くなっていく。顔を上げているのもままならないようだった。

「ごめんね。即死させてあげられなくて」

 私は「私」の両脇に腕を通して死角まで引きずった。話には聞いていたけど、力の入らない人間がこんなに重たいとは思わなかった。10月の夜だというのに汗をかいてしまった。
 まだ微かにヒューヒューと呼吸が聞こえる。私はグッタリと横たわる「私」の隣に座ってその身体を撫でた。

「ごめんね。ごめんね。せめて最期まで一緒にいるから」

 私は「私」のスマホから彼にメッセージを送った。ここまで辿り着いてももう助からない。私の存在もうっすらと消えてきているのが分かる。
 数分後、彼から着信が掛かってきた。応えることはない。何度も何度も着信でスマホが震える。
 良かったね。瞼を丁寧に撫でて見開かれた目を閉じてあげる。


 全部全部失敗ばかりの人生だった。だから今度こそ間違えちゃう前に死なせてあげたかった。1年後の私は希望を失うから。毎日泣いてばかりいるから。せめて「私」には愛されたまま、幸せなままでいてほしかった。

 
 希望を抱いたまま、愛されている記憶だけを持って。知るべき未来なんてもうないんだ。


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