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自分の勝利のために相手の行動を設計する:クアルト

 木で作られた小さな駒が16コほど並んでいる。これは「クアルト(Quarto)」というボードゲームだ。スイスの数学者によって作られたらしい。「Quarto」というのは、イタリア語やラテン語で「4」を意味する言葉らしく、このゲームは「4」がキーワードだ。対戦人数は「4」の半分である2人だ。ボードには「4」×「4」、合計16マスのマークがあり、駒の合計数も「4」の2乗である16コ。その駒をそれぞれのマークの場所に並べていく。ひとつとして同じ駒は存在せず、「4」種類の特徴がある。

 まず、色が違う。こげ茶とベージュの濃度の違う2色で、カントリーマームを見ているかのような気持ちになる。美味しそう。食べたくなる。僕はどちらの味も美味しくて好きなのだけれど、ココアの方が味が濃くて、気分的に食べたくない時もあるので、バニラ味の駒をひとつ手に取る。無意識的に口に入れそうになったところで、ふと我に返る。危ない危ない。21歳にもなって、おもちゃを食べようとするところだった。カントリーマームじみた木を喉に詰まらせ、病院に担ぎ込まれ、挙げ句の果てにネットの”おもちゃ”にされるところだった。冷や汗。ということで、ひとつめの特徴とは色の違いだ。
 2つ目の違いとは、形である。丸と四角(ここでも「4」が出てきた)の2種類。ぼくはどちらかというと、四角い駒の方が好き。ぼくは普段、このボードゲームをそのままテーブルの上においている。いつのことか、「某Casa brutus」という雑誌で、インテリアとしても使えるボードゲーム特集で紹介されていた。それでこのボードゲームを知り、それからしばらく経って購入したわけだが、ボードの上に駒を並べて置いていると、時に手が当たって駒がバラけてしまう。そんな時、丸いものはコロコロと転がってゆき、部屋の方々へ散ってしまう。だから僕は丸い駒よりも四角い駒の方が好きなのだ。
 3つ目の違いは、穴があるかないかだ。これは穴と言うよりは窪み。カルデラみたいな窪み。大衆食堂で大きなどんぶりが出てきたと思ったらどんぶりの底は外見的な高さの半分ほどの位置で、意外と容量は少なく、「これ器というより窪みじゃない?」って思う時みたいな窪み。
 4つ目の違いは、高低差。それ以上でもそれ以下でもない。それだけだ。

 このゲームのルールについて説明する。まず、先行の人が、好きな駒をひとつだけ選ぶ。そして、その駒を置……かない。置きたくなる気持ちをグッと堪え、置く権利を相手に譲る。そして、選ばれた駒を後攻のプレイヤーが好きな場所に置く。そして、2つ目の駒を選び、置きたい気持ちを堪えながら相手に駒を置いてもらう。それを繰り返し、4つの特徴のうち、どれかの特徴を縦・横・斜めいづれかで4つ並べた者が勝者だ。どのような置き方をしても、特徴のうちのいづれかは揃うようになっていて、面白いものだ。例えば、斜め列の4つは色も形も高さもバラバラだが、全てに穴(窪み)があれば、その1列の最後における1齣を置いた者が勝ちという具合だ。

 相手が置く駒を自分が選ぶ。自分の勝利のために相手の”駒を置く”という行動を設計する。すなわち、自分が勝つために、相手にどの駒を置かせるかを考える必要がある。シンプルなようで奥が深い。5対戦くらいまではけっこう盛り上がるだろう。その後は、飽きる。

 このゲームを買って、もうすぐ「4」ヶ月が経とうとしているが、この間たったの1度も出番が無い。買ってみたはいいが、来客は滅多になく、したがって対戦する相手がおらず、定期的にボードのホコリを払うのみである。あぁ。ごめんよ、クアルト。


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