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あらゆる看板 〜逆さ看板〜

 町を歩けば、人とすれ違った人の素敵な装いが気になったり、道路を走っている車の愛らしさに振り向いていたり、知らないお店の前を横切ろうとしたりふと入ってみたりする。「書を捨て、町へ出よ」という言葉があるように、町にはいつでも発見がある。

 『路上観察学入門』という本の中で、赤瀬川原平が論じている「超芸術トマソン」が気になり、『超芸術トマソン』という本を読んだ。「超芸術トマソン」というのは、不動産に付随しており、十分に整備がなされた無用の長物のことである。今すぐに「超芸術トマソン」と調べていただくのが一番わかりやすいと思うが、例えば建物のただの壁に取り付けられたドアだとか、上がった先になにもなくただ降りるだけの階段だとか、なにもない場所にただ立っているだけの煙突など、町にはいろんな超芸術トマソンがあるらしい。

 「標しくぃ」というものもある。というのは、標識を支える房の部分がクィッと曲がった標識のことで、この「標しくぃ」と集めたZINEを見つけ、僕も町で「標しくぃ」を探すようになった。そうやって意識してみると、意外と標しくぃは多くあるものだ。

 町を見ながら歩いていると、当然看板というものが目に入る。お店の存在を示し、またお店の個性や業種も表す看板はよく見てみると面白い。大体の看板は似通っていて目にも止まらぬが、ユニークでかわいらしく、ちょっと立ち止まって見惚れたくなる看板も少なくない。

中華処楊

  例えば、京都は市場堀川から東に100mほど歩いた場所に「楊」という中華処がある。僕は昨年の秋、京都シネマで映画をみる前の腹ごしらえでここを訪れた。緊急事態宣言が発令されている中、個人の中華屋ならもしかすると……というかすかな希望を持って、「ビールはありますか?」と聞いてみたが、「イマハノンアルコールダケネ」という言葉を返され、仕方なく僕は中華丼を注文した思い出がある中華屋である。そんな中華処楊の看板は逆さだ。

洋食工房

  逆さ看板で言うと、新大宮通りのさらに南、大宮温泉がある通りを歩いていると、逆さ看板を取り付けた洋食工房がある。あくまで「洋食工房」であり、それ以下でもそれ以上でもないような屋号は愛らしい。ネコにネコと名付けるようなものである。レストランと喫茶店を足してなにでも割っていないようなこのお店は間違いなく僕の趣味のど真ん中をついてくるのだろうけれど、僕はこのお店に入ったことがない。看板をみるだけでお腹一杯になって満足をしてしまうのだ。看板だけでは満足ができないくらいお腹が減っているときにでもフラっと入ってみようかしらん。

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