「夏をあきらめて」と決別した夏の夜
8月は覚悟の月、何かしら大事なことをあきらめてきた。
サザンオールスターズの「夏をあきらめて」の歌詞に出てくる"恋人"や"彼女"をタイガース的にアレと読み替えるとしっくりくる。なんと、もう42年も前の歌ですか?
40年もの間、8月はだいたいは、そうだった。
別れたばかりの恋人のように未練は残り、CSや個人タイトルの応援に無理やり意識を方向転換するけれど、どこか虚ろだ。
I'll try to make it shine...
8月ならまだマシというベイファンもいるかもしれないが、そんなシーズンのことは僕は忘れてしまった。
日本シリーズに届いた2017年。その8月は、別れた恋人がちょっと微笑みかけてくれた。
8月22日からの首位カープとのハマスタでの3連戦。
初戦は、筒香、ロペス、宮﨑の3者連続ホームランで劇的にサヨナラで勝ち、続く2試合もサヨナラのミラクル3タテ。カープは、そのあとの残りのシーズンもやっぱり強かったが、CSの結末は、この3連戦が大きな布石になったはずだ。
結局、"彼女"との復縁は叶わなかったけれど。
2022年も9月まで持ち越したシーズンだった。スワローズが早々に独走して、あきらめの時期は7月になりかけたが、ハマスタで17連勝を達成し、8月末には6.5ゲーム差まで詰めた。
やればできるはずだ。2023年ベイスターズの頂戦が始まった。
そして、6月までは、首位争いをしていた。
しかし、夏は残酷だった。
タイガースは盤石で、連日、ゲーム差がジリジリと開いていく。ベイスターズの自力優勝の目がなくなると、8月16日にA.R.E.へのM29が点灯した。
それでも、8月20日、あきらめていない僕はハマスタへ行った。対する首位タイガースは、恒例のロード真っ最中だ。
⚾⚾⚾
「なんで、これだけバウアーが頑張っているのに、打線は援護できないのだろうか?」
5回を終わって0-2。
5回表ノイジーを三振にとると、バウアーはピンクのグラブを両腕ごと振り上げる。自分自身を鼓舞するように。
彼は8月は既に4試合目、この日も中4日での登板だ。
タイガースと1勝1敗で迎えたホームの3連戦、勝ち越さなくてはいけない。中4日でバウアーを送り出している。バウアー中心のローテ、首脳陣の意図は十分に伝わってくる。
しかし、この日、ハマスタの緑に映えるピンク色のグラブをつけたバウアーは、それまでのような調子ではなかった。毎回のようにランナーを出し、2回、4回と1点づつ献上して、前半で2点のビハインド。
4回表2死から伊藤投手に直球でタイムリーを打たれたことも、彼のフラストレーションに拍車をかけているようだ。
スタンドも徐々に重苦しくなる。伊藤投手にてこずる打者たちも、先発ががんばっても援護できない打線も、ともに見慣れた光景だけに、もどかしい。
6回表、先制タイムリーを打たれた木浪を三振に取って再びグラブを振り上げる。
今度は打線を鼓舞するように。
そして6回ウラも無得点で終わると、僕のいらだちもピークに達した。
いったい同じ失敗をなぜ繰り返すのか?
同じベンチにいてバウアーの苛立ちや怒りを跳ね返すことができないのか?
また、このままあきらめの夏で終わるのか?
7回表、ツーアウト一二塁のピンチに、今度は森下を三振に取る。両腕で2回3回とガッツポーズだ。
スタンド全体がバウアーの虜だ。
7回ウラ、初めてのチャンスが訪れる。ワンアウト一二塁、代打は得点圏の鬼、大和。
虜となった観客は、最大限の期待と声援を送る。
ショートゴロ、併殺打。
スタンドからはバウアーの表情はわからない。0-2のスコアは変わらない。
ジ・エンド?
そして、8回表、それまで110球をすでに投げていたバウアーがマウンドに上がる。
「マジか?」と小さく呟いた僕も、もう愚痴の代わりに、涙が出てきそうだ。
その日の120球目で佐藤を三振に取る。
マウンドを降りるとき、スタンドの拍手に両手を挙げて応える。そして、すぐにスタンドに向かって両手を振り上げる。ピンクのグラブを、また振り上げる。
その時、ようやく気がついた。
僕はいつの間にか、例年と同じ8月の傍観者になっていた。
バウアーが鼓舞しているのは、もう自分自身でも打線でもない。彼も誰かに応援されることでパフォーマンスを発揮するアスリートなのだ。
You'll never give up, me either!
もう、僕は達観したような傍観者にはなるまい。
あきらめていない選手たちを開幕から秋の最後の瞬間まで応援しよう。
その日、タイガースのマジックナンバーは26となった。
僕はあきらめの悪い男だ。スマホで次の試合のチケットを買った。
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今のところ、この試合はバウアーのハマスタでの最後の登板だ。MLBでの大谷や筒香との対決や今永との投げ合いを願っている。
2023年8月のバウアー【月間MVP受賞】
8/3 カープ 0-0 ベイ マツダ 10回123球 失点 0
8/9 ドラゴンズ 2-8 ベイ 横浜 7回108球 失点 0 8勝3敗
8/15 スワローズ 3‐9 ベイ 神宮 7回109球 失点 3 9勝3敗
8/20 タイガース 2-0 ベイ 横浜 8回120球 失点 2 9勝4敗
8/25 ドラゴンズ 2-18 ベイ バンテリン 8回126球 失点 2 10勝4敗
8/30 タイガース 2-4 ベイ 甲子園 3回55球 失点 1
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