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〈詩〉向こうの丘の斜面に

あかりが灯っている

坂を上りきって振り返ると
谷を挟んだ向こうの丘の
斜面に立ち並ぶ家々の窓あかり

レモンの花が咲き
ユスラウメの赤い実のなる季節だ

昼間のあたたかさを残しながらも
もうすっかり日の落ちた街に
さわやかな匂いをふくんだ空気が満ちる

そこで待っててね
先に行っちゃ、いやだよ

聞き覚えがあるのは
もちろん、ぼく自身の声だからだ
こんなふうに明るい夜だった

急がないとみんな行っちゃう

足先ばかりを見ていた

あかりが灯っていた

見覚えある通り沿いに遠くまで
ずっと等間隔で並ぶ街灯

いくらか星も出ていたような
明るく青い夜道だった
不意に見知らぬ場所に出た気がして
心臓が鳴った

あかりは灯っている

谷を挟んだ向こうの丘の家々の窓に
あかりが灯っているだけなのに
空気の中に折りたたまれていた時間は
こんなきっかけでふと展開されるから

ぼくはまだ明るく青い夜をさまよっている


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