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知財実務とファッションロー/IP_AC

1.はじめに

 この投稿は、知財アドベントカレンダー2020の投稿です。八女慎司 さんの投稿を受けまして、12月13日分を書かせていだきます。法務系アドベントカレンダーは、参加したことがあるのですが(今年は、一人法務について書きましたので、ご興味ありましたら、お読み頂けると嬉しいです。)、こちらのアドベントカレンダーははじめてとなります。少しだけ、自己紹介をしたいと思います。
 私は、日本のアパレル企業で、法務知財を8年程度、担当しており、いわゆるファッションローを中心に実務・研究等を行っています。知財法の分野では、知財学会などの活動もさせて頂いております。
 過去のnoteもご覧いただけると嬉しいのですが、見返してみると、甚だ雑なファッションローの紹介で止まっていますので、総論的なことは、また書いてみたいと思います。
 このファッションローという分野、『ファッションローとは、そのような名称の単一の法律があるわけではなく、ファッションデザイナーやフアッシヨン産業に関わる知的財産法、契約法、会社法、商法、不動産法、労働法、広告法、国際取引法、関税法等を含む法領域の総称である。』「ファッションロー」(角田政芳・関 真也、勁単書房、2017年) という紹介をされますが、現在の中心的な議論としては、アパレル製品の知財権による保護が挙げられるところです。そこで、今日は、知財実務とファッションローということで書いてみたいと思います。(過去のnoteと多少重複するかもしれません)
 今回は、日本のいわゆるトレンドマーケットと呼ばれるような、ラグジュアリーでも、マス向けでもないマーケットのアパレルのケースとしてお読み頂けると嬉しいです。以下を引用させていただきます(縮小しているいわれてますが。。笑)(アパレル産業の未来 -国内アパレル企業の課題と進むべき道-/Satoko Nishino)

ローランドベルガー

2.実務上の関わり方

 まず、アパレル企業においては、「ブランド」が出発点です。そこで、ブランドが生まれ、展開していくにあたっての関わり方を説明していきたいと思います。以下の表は、その流れと法務や知財を担当する方のかかわり方を簡単にまとめたものです。(黄色でマーカーをした部分は、知財担当が行う部分ということです)

法務部知財部の役割

(1)事業企画段階(ブランドのはじまり)

 ブランドのはじまりは、どういった層に向けて、どういうコンセプトで、どう売っていくか、どんなペルソナを設定するかといったところから始まります。ここから導き出されるイメージから、中心となるデザイナーやプロデューサーがブランド名を決めていくことになりますので、この段階の知財担当者の行うことは、指定商品区分⇒ブランド名の確定ということになります。
 一般的には、18類の鞄関係、25類の被服(靴)関係をおさえるのがミニマムかなと思います。ここから、展開に合わせて、3類の化粧品類、14類アクセサリー類等を抑えていくことになるかと思います。最近は、ライフスタイル提案型といえるような、かなり広い商品ラインアップを好む傾向があり、このあたりは事業展開をよくヒアリングする必要があると思います。
 また、アパレル業界は、店舗内装をVMD(visual merchandising ビジュアルマーチャンダイジング)として重視しており、VMDの一環として(=売上目的ではなく)例えば、食器を商品として置いておきたいといった、本業からはずれたニーズがあることもあり留意しています。
 調査にあたっては、えてしてこういったコストに厳しいアパレル業界ですので、ある程度の、絞り込みは社内で行い、最終的な調査を弁理士に依頼するという形が理想ではないかと思います(スピード感的にも)。最終的な調査は、弁理士さんにお願いすべきと考えています。①基本的に、ブランドが企画されビジネス開始までに、ほぼ猶予がなく、商標取得前にビジネスが開始されることがほとんどであるということ、②それに比して、アパレルは店舗ビジネスが中心であり、仮に商標取得ができなかった場合に、出店している店舗の名称・ロゴの変更には大きなコストがかかりリスクが大きいこと、③イメージが非常に重要である業種でありブランド名称が変わるということは絶対に避けなければいけないとう点から、調査結果には高い信頼性が求められるからです。なお、出店する商業施設では商標の取得を保証条項として契約書で定めていることが多いという認識です。

(2)商品企画・生産

 次に、商品企画の段階です。商品企画に関しては、まさに、どのようなマーケットにいるブランドかによって、どのような商品展開になるか決まってくるところです。マーケットを見、それにそった商品展開が決まれば、知財担当の仕事とすれば、どのような商品を守ることができるか、もしくは、他社の権利を侵害しなよいようにするのかに着目することになろうと思います。今回、取り上げるトレンド市場においては、知財の視点では、以下のようになると考えています。

知財的にアパレル市場の視点

 イメージ図にすぎませんが、商品単価が決して高くなく、かつ、ライフサイクルも長くないため権利化する要請が高くなく、一方で、マスボリューム(や、ファストファッション)のように、短いライフサイクルで、手ごろな商品を次々と打ち出すという手法も取れず、それなりにクリアランスにも気を配らなければならないというマーケットと整理できると考えています。実際に、このマーケットで意匠登録を積極的にしている企業は、あまりないと思います。なお、個人的には、グレースピリオドが伸びたことをきっかけに、もう一度、意匠登録の利用については、再検討してみたいと思っています。
 権利化をしないということで、ウエイトとしては、侵害回避を適切に行うということが中心になります。不正競争防止法(特に、2条1項3号)の回避や、意匠登録、立体商標登録からの回避ということになりますが、トレンドマーケットは、当然ながら、今、流行っている商品にブランドのオリジナリティやテイストを加味するというモノづくりになりますので、広義には「模倣」が大前提としてあるものづくりです。このモノづくりの中で、侵害回避を検討することは、何年経験を積んでも、悩みながら対応しているところです。このあたりは、まさに、自社のブランドコンセプトをしっかりと理解し、併せて、流行をしっかり把握する姿勢が大切だと考えています。
 流行をしっかりと把握するという点でいえば、トレンチコートという極めてスタンダードなデザインでほぼ知財法上の保護が無いような商品であったとしても、近時、異素材とのドッキングでさまざまなバリエーションが発生しており、このような流行の派生をしっつかりと押さえて判断してくことが求められるのかなと考えています。

トレンチコート

 特に、不正競争防止法2条1項3号(以下、単に3号とします)に関しては、近時、判例もでてきたり、ファッションローを中心に担当される弁護士さんがでてきてることなども背景にあり、議論が深まっているところがあります(過去のnoteをご参照ください)。こういった知見を学び、実際の流行などを含め、複合的に検討しています。アパレル系の被服判決の資料を整理したもの(以下に抜粋しました)などを使い、非侵害の理論的な説明が文章化できそうであれば進行するような形でチェックをしています。特にこの分野で現場と非侵害の検討をしている場合、「なんとなくちがう」というな感覚知の判断になりがちであり、文書化しておくということを大事にしています。このあたり、仮に警告が来ても反論にたる文章を残しておくという意味でも重要視しています。
 アイランド事件

グレースコンチネンタル事件

ベルーナ・RYURYU事件

ベルーナ事件

 こういった、検討にあたっては、事業部からの情報を得ることが、非常に重要ですが、知財担当も目を養う必要性は高いと感じています。例えば、過去3年分のファッション誌のストックやサブスクリプションを用いたり、ファッションショーのアーカイブなどを確認し、確認の精度を高めるようにする必要があるかと思います。

(3)販売(模倣品対応)

 模倣品対応に関しては、トレンドマーケットにおいては、意匠登録をするということが少ないため、基本的に、デザインについては、不正競争防止法に基づいて対応するということになります。この意匠登録を取得するインセンティヴが低いという話は、まさに、この場面で顕在化します。
 トレンドマーケットの商品の開発過程は、以下のようになっており(AW:秋冬、SS春夏)企画生産販売のサイクルに、意匠の権利化のサイクルがまったくはまらないことになります。この点で、による対応をせざるを得ない場面が多いことになります。

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 また、現実的な問題として、権利化されたものではないということから、ECプラットフォーマーへの削除要請の根拠になっていなかったり、仮に訴訟に発展した場合、結局、訴訟継続中に3年が経過してしまうリスクもあり、実効性に欠け悩ましいです。なお、近時、そのような判断はないと思いまっていますが、私が業界にはいってすぐに担当した訴訟で、春先の商品をデザインを、夏の入りに模倣されたケースがあり、その際、長袖の商品が、半袖になった形で模倣され、裁判官が現物をみた瞬間に、「袖がちがいますねー」といわれたことは、(裁判官に強い意図があったとは思いませんが)、ファッションローという分野を探求したいというモチベーションになった原因の一つになっています(夏に長袖の商品なんて出すわけないでしょ。。。)

3.さいごに

 ファッションローの知財実務ということで書かせていただきましたが、企画段階のところでは、ほかにも著作権、商標関連の侵害回避、SNSを用いたPRなども知財担当が力を発揮できる場面もあり、このあたりも、いつかnoteの書いてみたいと思っています。次の知財アドベントカレンダーは、Uchida @ 知財ライター/こち亀好きの主夫 さんですー!

※告知

 ちょうど、このnoteは、知財情報・特許情報を活用する動画を配信されているイーパテントさんのYOUTUBE配信を見ながら、書いていたのですが、このnoteを公開する12月13日の22時から、こちらのチャンネルでファッションローとブランドというテーマでお話させていただきます。ファッションローに興味をお持ちの方は、ぜひ、ご視聴頂けると嬉しいです。チャットでの質問も受け付ける形なると思います!
 そういえば、イーパテントさんのチャンネルで見ていたUchidaさんが、バトンを渡す相手だと今、気づきました。。。

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