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壁からネコ〜後編〜


プロデストロイヤー大工



家族が一致団結し、迎えた夜。

私たちはまだ見ぬ子猫のために賃貸の壁を勝手にぶち破る決心をしたのである。

母が知り合いの大工を呼び、壁をぶち壊す準備を始めた。もちろん、大家さんには内緒で。
この日はひどい大雨で、壁をぶち壊す音が外には聞こえにくい絶好のチャンスだった。天気も子猫の味方をしてくれた。

オンボロハウスのため、壁はプロの手によって虚しくも秒で破壊された。

ここで不安が。とりあえず壁は破壊したものの、果たして本当に壁の中に子猫はいるのだろうか。
恐る恐る大工が壁の中に手を突っ込むと、元気に鳴くめちゃくちゃ可愛い子猫が出てきた。この時は可愛いという感情より、もっと早く助けてあげれば良かったという申し訳なさで涙が溢れてきた。

君の名は。


すぐに段ボールに入れ、毛布や水、コンビニで買ってきた猫の餌をあげた。ミャーミャー大声で鳴いていた。
壁の中で3〜4日飲まず食わずでも必死に生きていた。すごい生命力だ。無人島に何かひとつだけ持っていくなら?の質問にひとつしかあかんねやったら諦めて死ぬ、と答える私とは大違いである。

名前どうしようと友人に相談すると世界の色々な「壁」を送ってくれた。
ウォール、ミュール、ムーロ。
そこからこの子には韓国語で“壁”の「ピョク(벽)」という名前をあげた。
こんな経験誰しもがすることではない。この子は選ばれし特別な猫でこの名を手に入れたのだ。

そのあと動物病院に行き、軽い脱水症状ではあったもののちゃんと元気だった。きっと屋根裏で産まれて、なんらかの拍子に壁の隙間に落ちてしまったのだろう。

こうして私たちは必然的に猫を飼わなければいけなくなった。もうあの頃みたいに迷いなんてなかった。

ウチの家の、それも壁の中に落ちて来てくれてありがとう。
実家に帰った時、ピョクが家の中に転がってるだけで幸せで、家族の会話も増えたし、人生が豊かになった気がする。たまに喧嘩するけどピョクには感謝しかない。

そして私はなんの治療もしていないのに猫アレルギーが治っていたし、猫を飼うことに大反対していた兄は腹にピョクを乗せ、こたつで爆睡している。




おしまい。



オマケ

壁に頭めりこんでる
無防備すぎるやろ
しあわせそう
憂いを帯びた顔
開く指先がかわいい

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