#ブックカバーチャレンジ 4日目 Day4 #BookCoverChallenge
#ブックカバーチャレンジ #BookCoverChallenge 【自分ルール10日間】
4日目 Day4
『BEAST COMPLEX』 板垣巴留 秋田書店
幼少期に『月刊コロコロコミック』、小学校高学年から『週刊少年ジャンプ』という王道コースを購読していた自分ではあるが、その他の漫画雑誌に触れていなかったわけではもちろん無い。それぞれの漫画雑誌には一般雑誌と同様に特色があり、そこには他誌では連載されないような作品が数多く掲載されていた。そうした中、もしジャンプ、マガジン、サンデー、チャンピオンという「4大週刊少年漫画誌」の中で最も面白いと思うのはどれか、と問われることがあれば、自分の場合は悩んだ末に『週刊少年チャンピオン』と答えるかもしれない、と思うことがある。これは現在に限って、というわけではなく、これまで何となく目を通してきた、個人的かつ総合的な「印象」の話であることを補足しておく。
他の3誌はそれぞれ雑誌の色がしっかりと確立しており、言葉で表すのは難しいが、雑誌としてのキャラクターをイメージしやすい。しかし、チャンピオンの場合はそれが難しい気がする、というのがその理由である。自分の世代では『グラップラー刃牙』と『浦安鉄筋家族』の漫画誌、という印象があるかもしれない。しかしそもそも、この2作が「看板」になっている時点で異色な少年誌であると言えないだろうか。これは発行部数が4大誌の中では最も少なく、比較的「マイナー誌」に近い立ち位置であることも関係しているかもしれない。
そうした雑誌の傾向により、連載作品も多様で個性的なものが多く感じるのである。様々な特集や連載が入り乱れるのが「雑誌」の面白さだと感じている自分としては、こうした部分に「漫画雑誌」としての魅力があると思う。またそれ故に「他ではあまり見かけないタイプの少年漫画」に出会える確率が高いのもチャンピオンだと思っている。本作の作者が現在、チャンピオンで連載しており、アニメ化もされた『BEASTERS』もそんな少年漫画の一つであった。
擬人化した動物で人間社会を比喩的に描く、ということ自体は寓話に始まり古今東西珍しい物ではなく、『BEASTERS』そしてこの『BEAST COMPLEX』もその流れの作品である。しかし、哺乳類・爬虫類・鳥類の「捕食・食肉」を含めた生態をメインテーマに取り入れながら、多くの問題が浮き上がっている現代社会の「多様性」に当てはめる手腕は他に類を見ない。これは少し塩梅が崩れると、非常に危険な方向に転びかねない世界感の構築でもある。そして擬人化された動物たちが、様々な出自と過去を経た後に、どのように生きていくか、という「選択・生き方」の多様性も十分に描かれている。それらを見事に、しかもしっかりと「少年漫画」として成立させていたのだから驚きだった。
一見すると色モノにも見える『BEASTERS』だが、主人公であるオオカミの「レゴシ」が生きていく中でぶつかる様々な問題に、正面から向き合い、悩みながら成長していく、という基本プロットは少年漫画の王道的でもある。一般的な少年漫画の主人公像とは少々異なるかもしれないが、何処か不器用かつ直向きで優しさを感じさせるレゴシの性格は、同じく近年のヒット漫画である『鬼滅の刃』の主人公である「竈門炭治郎」にも通じる部分があると感じている。こうした主人公の性格は、様々な問題が現実世界において眼の前に立ちはだかるという、現在の社会状況に求められる存在なのかもしれない。また、そうした問題を乗り越えるために求められ、広まっている「上手くやる」という価値観に対する反動・カウンター的な需要があるような気もしてしまう。
このような主人公を据えた少年漫画、としてのアプローチは、おそらく連載ではないと成立させることが難しいだろう。ここで紹介している『BEAST COMPLEX』は、作者が『BEASTERS』を連載する前に発表したデビュー作を初めとした短編集であり、基本的な世界設定は『BEASTERS』と共通だ。短編集ならではの様々な設定やキャラクターに出会うことができ、『BEASTERS』では描かれていない世界の一端を垣間見ることができる。少年漫画としてのアプローチが難しい分、若干年齢層が上の読者でも入りやすい作品集となっているので、『BEASTERS』が気になる人もそうでない人にもおすすめだ。
なお、何かとディズニーアニメ『ZOOTPIA』と比較されがちな『BEASTERS』だが、本作の巻末にて「何とも間が悪かった」と作者がコメントしている。表面的な部分以外は根本的に異なる作品であり、映画と漫画という、扱える時間を含めた媒体の違いも大きいので比較する必要もないとは思う。しかし個人的な感想で言えば、アメリカ社会の人種問題を比較的素直に反映させた『ZOOTPIA』より、『BEASTERS』そして本作の方が、より社会における「多様性」というものの本質に迫ろうとしているように感じている。『BEASTERS』を初めて読んだ時の「新しい」「現代の」少年漫画とは、こういう作品なのかもしれない、と感じた衝撃は、今でも鮮明に覚えているし、今後の展開も楽しみにしている。
https://murafake.hatenablog.com/entry/2020/06/12/002746
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