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#ブックカバーチャレンジ 3日目 Day3 #BookCoverChallenge

#ブックカバーチャレンジ #BookCoverChallenge 【自分ルール10日間】
3日目 Day3
『新宿二丁目』 伏見憲明 新潮社

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 東京の西武新宿線と西武池袋線に囲まれた東京西側の多摩地区に生まれた自分にとって、最も身近な「都会」「繁華街」は新宿と池袋だった。記憶にある最も古い新宿の記憶は、母親に手を引かれてコマ劇前に映画を観に行く際のものだ。その時に通った歌舞伎町の普段見慣れない、猥雑とした独特の雰囲気は今でも脳裏に焼き付いている。10代に入った後も、遊びに行く繁華街として真っ先に候補に上がるのは新宿と池袋、次いで渋谷ということになる。
 そうした理由で、新宿という街は繁華街としての危険性を考慮しても、どこか他の街より気が休まる雰囲気を感じている。しかし遊びに行く場所として歌舞伎町があり、「飲み歩き」を覚え始めてゴールデン街、新宿三丁目と年齢が上がるにつれて東へと足を進めていった自分としては、本書で紹介される新宿二丁目を訪れるようになったのは比較的近年である。この「東へ」の流れはたまたまではあるが、本書で紹介されている大久保から新宿東口に移転した『夜曲』、その後に新宿三丁目・要町に開店した『イプセン』など「二丁目前史」とも呼べる新宿ゲイバーにおける伝説的名店たちの、後を追うような動きになっている。
 新宿に親しみながらも、近年まで二丁目まで足を伸ばさなかったのには特別な理由があるわけではない。シスジェンダー・ヘテロセクシャルである自分にとっては、訪れる必要がなかったとも言えるだろうし、他とは異なる礼儀やルールの存在を想像し、危惧していたこともある。しかし、最も理由らしいものとしては、性的マイノリティに属さない自分が、そうしたコミュニティに安易に踏み入って良いのだろうか、という気後れがあったと言えるかもしれない。
 本書は「二丁目」に限らず、新宿史・ゲイバー史としても読める内容であり、そんな自分にとっても親しみやすい本となっている。江戸時代に内藤新宿が高松喜兵衛らによって遊里の宿場町として開設されたことに始まり、その後の赤線・青線時代を含めた新宿という歓楽街の移り変わりの中で、二丁目がどのように出来上がっていったかが書かれている。
 自分が新宿に親しみを持っているのは、付き合いの長さやアクセスの良さに加えて、60年代アングラ文化への興味も関係している。そしてそこには、美輪明宏や三島由紀夫らの影が見え隠れする。後追いでその時代を追いかけた身としては、ゲイカルチャーとサブカルチャーは近く、そして時にカウンターカルチャーとして連動しているように感じていた。本書では実際にあったそうしたカルチャーの側面についても数多く触れられている。特に雑誌『平凡パンチ』において、現在から見れば偏見が多いものの、性的マイノリティの存在がアメリカの解放運動と合わせて取り上げられた時期と、二丁目にゲイバーが増えた時期と重なっており、おそらく無関係ではない、という著者の説明には納得した。フリーセックスなど60年代の自由を求める機運が、ゲイという存在の一般化、そしてゲイバーの進出にも作用したというわけだ。
 また二丁目にゲイバーが数多く集まった理由について、著者は文化人類学者・砂川秀樹の都市論を始めとした様々な要因を踏まえた上で、権田原など付近のハッテン場からの流入があった可能性を指摘している。加えて、出会いを求める「性的欲求」が街の成立需要となったという説は、VHSやインターネットなどメディアの普及に「エロ」が役立ったという説と類似して見ることも可能だと触れている。街という様々なモノを共有できる「場」は、メディアと近い一面を持つ、と考えられるのも興味深い。
 そうした成立背景を持つ二丁目は、その「出会いの場」が街やハッテン場からSNSやマッチングアプリに移行する現在において、ゲイタウンから多様性の街へ、と再び役割を変えようとしているという。将来的に二丁目、そして新宿がどのような街になるかは自分にはわからない。しかし、新宿という街に魅力を感じ続けている自分としては、本書の中でも引用されている社会学者・吉見俊哉による「ありとあらゆる種類のモノやヒトを無差別に受け入れ、それでいておのれの独自性を失わない強烈な消化能力を持っていた」という新宿評を信じたいと思っている。
 また、戦後ジャズバーであり日本におけるゲイバーの始祖とも言える銀座「ブランスウィック」を開いた野口清が、その後吉祥寺に移りジャズ喫茶「ファンキー」を開店したという話は興味深かった。個人的には高校時代にバンドでライブをし、CDやレコードを買った「吉祥寺」の音楽文化と、後に酒呑みとして訪れる「新宿二丁目」のゲイバー文化という、2つの文化的ルーツの一端に、同一人物が関わっていたことになる。冷静に考えれば特別不思議なことでも無いのだが、何処か感慨深く思った次第である。


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