「境界知能」が差別的な言葉として流行っている件について
境界知能とはIQ70~84の者を指す言葉で、日本人の約14%(1700万人ほど)を占めるとされている。
最近はSNSなどを中心にこの言葉を目にする機会が多くなった。
それもほとんどが対象を侮辱する文脈で使われているのである。
境界知能という言葉はいつから使われるようになったのか?
はじめに境界知能という言葉が広く知れ渡ったのは『ケーキの切れない非行少年たち』が話題になったときだろう。
この本では、児童精神科医の著者が少年院で目にした非行少年の実態について語られている。
僕もだいぶ前に読んだことがあるが、正直あまり良い印象は持たなかった。
というのも境界知能への「理解」ではなく「差別」を広めているように思えたからだ(もちろん著者にその意図はないと思うが)。
この本で著者は、反省能力を持たない非行少年の実例を6章にわたって延々と列挙する。
そして非行少年の多くが境界知能であることを何度も強調する。
ここで勘違いしてはいけないのが、
「非行少年の多くが境界知能=境界知能の多くが非行少年」
ではないことだ。
だが世の中にはこのような誤読をしてしまう人間が驚くほど多い。
Amazonのレビューを見ても、少なからぬ読者が著者の意図とは違う読み方をしているのが見て取れる。
この本を読んだことで、あるいは内容の一部をどこかで見聞きしたことで、境界知能に対する差別意識が生まれた人も多いのではないだろうか。
それを裏付けるように、SNSではこの本がベストセラーになったあと「ケーキ」という境界知能の人を揶揄するスラングも広まった。
スティグマ化する「境界知能」
とはいえ『ケーキの切れない非行少年たち』を読んだことのある人間はそこまで多くない。
それに元々この本は差別を生むためではなく、(実際に与えた影響はどうあれ)理解を広める目的で書かれたものだ。
なので境界知能という言葉を差別的文脈で使用する者は、ネットのごく一部に過ぎなかった。
ここ1,2年で境界知能という言葉をもっとも世に広めたのは、おそらくホリエモンだろう。
しかも前述の本とは違い、明らかに差別的な用法でそれを広めている。
彼が「境界知能」という言葉をどんな文脈で使用しているか少し見てみよう。
侮辱的な文脈で使用しているのが一目瞭然である。
恐ろしいのはこんなあからさまな差別発言に大量のいいねがついていることだ。
(Youtubeでも境界知能という言葉を多用しているが、どの動画だったか思い出せないのでとりあえずツイートだけ紹介した)
ところで僕がこの記事を書いている途中に、脳科学者の茂木健一郎氏も似たような問題提起をしていた。
これに対するホリエモンの反応はこうだ。
どうもホリエモンは「クソリプ(的外れの非難)」を境界知能の人の仕業と断定している節がある。
だが本当にそうだろうか?
ネット民観察家の僕からすると、その認識は誤っているように思える。
『まともな人はなぜ不快なのか』という記事でも語ったが、誹謗中傷や低質なコメントをしている人間の多くは「ごく普通の人間」だ。
その中には社会的地位が高い者や、立派な学歴を持つ者も多く含まれている。
これは僕の感想ではなく、社会学的な調査でもそれを示す統計が山ほどある。
実際ちょっとTwitterを見ただけでも、立派な経歴を持ちながら「クソリプ」をしている人間がそこら中にいるのは明らかだ。
さすがに彼らを境界知能とするのは無理があるのではないか?
境界知能という言葉を乱用しているのはどんな人間なのか
また、ホリエモンは境界知能の人たちが持つ固有の人格を無視している。
IQの高い人間でも人格は千差万別であるように、境界知能の人たちもまた千差万別の人格を持つ。
日頃から「クソリプ」を書き込んでいる境界知能の人もいれば、そうでない境界知能の人もたくさんいるだろう。
僕も発信者なので、的外れなコメントに腹が立つ気持ちはよくわかる。
だがそれをすべて境界知能の人たちの仕業と断定するのは、あまりに弁別が雑すぎるように感じる。
そしてもうひとつ言いたいのは、そもそも分別のある人間はこの言葉を安易に乱用しないということだ。
つまり人の知能をどうこう言えるような立場にない者ほど、境界知能という言葉を乱用しているのが現状なのである。
これはホリエモンの差別ツイートを称賛している者たちのコメントの質を見れば一目瞭然だろう。
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