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01 ワークシートは第二の頭脳

ワークシートをA4クリップボードに挟むことの限界

これまで一緒に働いてきた同僚はみな、患者さんの年齢や性別が印刷されたA4のワークシートをクリップボードに挟んで、患者さんの予定や検査の値など、その日の業務に必要な情報を書き込んでいました。またポケットに入るサイズのメモ帳に、業務のやり方や、疾患について勉強した観察ポイントなどの、何度も見返す内容をまとめてありました。

クリップボードは、情報収集やミーティングのときには下敷きとして使えるだけでなく、 業務マニュアルや検査前の処置表などを持ち歩きたいときにはバインダー代わりにもなります。そのうえ患者さんの情報を一目で見渡せるスグレモノです。

検温のときはつねにこれを携帯して、患者さんの様子や頼まれたことなどを書き入れます。それ以外のときは、清潔援助やトイレ介助などのケアで、汚れたり邪魔になったりしないように、ナースステーションに置いておきます。私も入職してすぐに、先輩を真似て購入しました。

ところが、しばらくして、クリップボードを持参していないときに、ワークシートを使う場面が多いことに気づき始めます。たとえば、処置や搬送をしているときに突然、電話がかかってきて、新たな仕事を頼まれたら、不本意でもメモ帳にその内容を書きます。紙ばんそうこうや手にメモを書くこともありました。また、担当の患者さんの情報を聞かれることがあります。そういうときは、手が離せる状況かどうかを判断したうえで、目の前の患者さんに断ってから、ナースステーションに戻ってワークシートを見て答えなければなりません。

ワークシートはメモ帳といっしょに、常に持ち歩く

こうして私は、ワークシートをつねに持ち歩き、細かいタスクもメモをするようになりました。それからは、仕事の抜けが減り、患者さんからも同僚からも少しずつ信頼されるように感じたり、目の前の仕事に集中できるようになったりして、自信が出てきました。

持ち歩きはじめたころは、紙を折りたたんでポケットに入れていましたが、立ってメモをするときに紙がたわんでしまってうまく書けませんでした。そこで小さな下敷きを使ってみたり、小さなクリップボードを使ってみたりしましたが、割れてしまったり邪魔だったりしてなかなかいいものが見つかりませんでした。

いろいろ試しているうちに、いい方法が見つかりました。

まず、A6サイズで、表紙が硬いポリプロピレン樹脂製のリング式のメモ帳を用意します。これなら、紙もたわまず、それなりにたくさんの情報を書いておけます。メモの中には、バイタルサインなど電子カルテに入力してしまえば、その場かぎりで捨てていいものもあれば、仕事のやり方など、しばらくは保管しておきたいものもあります。リング式なら、必要に応じて中身の出し入れができます。

このメモ帳に、つまみを折り返せるダブルクリップを使って、四つ折りにしたA4のワークシートを挟みます。これを使う際は、クリップの尖った部分で患者さんを傷つけないよう注意してください。ちなみに、角が丸いゼムクリップは留める力が弱く、挟んだワークシートがすぐに外れてしまいました。

頭の中のことをメモに書き出し、目の前のことに集中する

治療の主役になることはあまりなく、抗生物質の点滴や、手術で使う物品などと比べて、優先度が低く見積もられがちなものに「アイスノン」があります。もし、私がアイスノンを用意するように頼まれたら、絶対にメモしておきます。なぜならば、こういう脇役にかぎって、すぐに忘れてしまい、患者さんを待たせることになるからです。

しかも、つい失念したあとにはきまって「なんでこんなことも覚えていられないんだろう」と自分を責めたくなります。かといって、覚えておこうと頑張っていると、目の前のことに集中できなくなります。

わたしたちは、頭をフル回転させながら動き回り、患者さんの訴えには真剣に耳を傾け、その途中でかかってきた電話にも素早く応対するなど、いろいろなタスクを次々に切り替えながら仕事を進めています。

一つか二つくらいの用事ならなんとか覚えていられても、三つ四つと重なってくると、とても頭に留めておけません。ほかのことに集中していると、どれだけ大事なことでもかならず記憶から抜け落ちます。

ただ、手当たり次第にメモをすると、情報量が増えすぎて役に立たなくなります。たとえば、シャワー浴のあとに「髪を乾かす」と書いておく必要は通常はありません。自分で髪を乾かせない患者さんをそのまま放っておくことはないでしょう。

ただし、転倒のリスクが高い患者さんのときは話が違ってきます。ドライヤーを取りに行っているあいだに、患者さんが一人になると転んでしまうことがあります。日々の仕事をとおして、自分がどのような状況で何を忘れがちかを把握して、それに対処する目的に絞ってメモを有効に活用しましょう。

とはいえ、重要なものだけをメモしていても、どうしても紙面が足りなくなったり、どれが大切かわからなくなったりします。私は0.3ミリほどのペン先が細い3色ボールペンを愛用しています。小さな文字で書き込めば、四つ折りの紙面でもたくさんの情報をメモでき、色分けできるからです。

ワークシートはテレビ番組表のように整理して使う

私はワークシートをテレビの番組表のように使い、時間を意識して記入するようにしています。

受けもっている患者さんのイベントが「10時にカテ出し」の1件だけなら、誰もが問題なくこなせると思います。

では、次のように予定が立て込んでいる場合はどうでしょうか。

・採血とトイレを済ませ、10時半までに車椅子でリハビリ室に行かなければならない患者さんから「浣腸をしてほしい」と頼まれる。
・9時に始まった抗生剤の副作用症状のチェックと滴下をチェックし、ヘパロックの準備も済ませ、10時のシャワーに備えてビニールで保護してもらえるよう物品を用意したうえで、入浴の手伝いを同僚に頼んでおき、10時半のシャワーに間に合うように段取りをしておかなければならない。
・採血結果を確認し、ワルファリンカリウムの処方を医師に依頼したら15分後に電話してほしいと言われる。

私なら頭の中がごちゃごちゃになって、冷静に判断することができなくななると思います。これらの雑多な予定を、ワークシートにテレビの番組欄のように順序立てて書いておけば、頭の中も整理され、いま自分が何をすべきかがひと目でわかるようになります。

実際には、もっと多くの仕事に追われることもあります。それでも、医療の現場では優先順位を考えながら、大切なことは抜けがないように注意しなければなりません。どうしても手に負えない時は、私は躊躇せず同僚に助けを求めます。そんなときも、やるべきことが整理されたワークシートがあれば、それを見せながら素早く、行き違いもなく依頼でき、仕事を頼まれた同僚も、こちらの忙しさを理解して手伝ってくれます。

予定がきまっているときは、タイマーをかける

看護師の仕事は、目の前の仕事に集中しながら、同時に、次の予定が何時に始まるかもしっかり覚えていなければなりません。だからといって、患者さんと深刻な話をしているときに、チラチラと時計を見て時間を気にするわけにもいきません。

ワークシートを使って、やるべきことをテレビの番組表のように整理したら、次はこまめに予定を確認するクセをつけたり、タイマーをかけたりして、それを思い出すきっかけをつくります。私のまわりには、タイマーを使っている同僚はいません。私の職場には共用のiPadがあり、変わり者と思われてもまったく気にせずに、Siriを使ってタイマーをセットしています。

「11時30分になったら木村さんの血糖測定って教えて」

とお願いすると、時間になったらアラームが鳴ります。さらに、画面にも「木村さんの血糖測定」と、用件が表示されます。こうすることで、同僚がタイマーを止めても何をすればいいかがわかり、運がよければ、私の代わりに仕事をやってくれます。

手動でタイマーを設定しようとすると、iPadでアプリを探して立ち上げ、時間を合わせて用件を入力するなどの手間がかかります。いくつもの予定があるときはなおさらです。スマホやスマートウォッチを使える職場なら、手軽な音声入力をおすすめします。これだけでも、安心して目の前の仕事に集中できるはずです。


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