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12元気な人は必ずといっていいほど散歩を続けている

厚生労働省の『健康日本21』によると、運動をしている人は、高血圧、糖尿病、骨粗鬆症、結腸がんなどになる確率が低くなるそうです。そして「運動の強さ✗運動した時間」が大きければ大きいほど、病気を予防する効果が強くなり、こころの健康が保たれ生活の質も上がります。

また、体を動かす習慣がある人には不眠が少ないことが分かっています。「習慣」と書いたように一回かぎりではなく続けることが大切です。これだけで寝付きがよくなったり、より深く眠れるようになったりします。

入院中も例外ではありません。医療者と相談しながら、ぜひ運動を続けて下さい。手術のあとは、傷が治るまでベッドから出ずにしっかりと休むほうがいいと感じるかもしれません。ところが、もし動けるなら、手術の翌日からでも、ベッドから起き上がって歩き始めるほうが、早く退院できることがわかっています。

私が看護師として働く中で、元気な患者さんに話を聞くと、みな口をそろえて、

「散歩をしています」
「畑をやっています」

と言います。そして、運動を習慣にしている人の多くは、高齢であっても若い人と同じくらい手術から早く回復して、退院していくのです。

入院中こそ散歩は続けましょう

そうはいっても、入院中にいつ、どれだけ運動していいか自分では判断できないこともあるでしょう。まず、リハビリの予定が入っている場合は、担当の理学療法士や作業療法士に相談してみましょう。リハビリの予定が入っていなければ、医師にリハビリをしたいと頼むか、看護師に運動の方法を相談するのがいいでしょう。

私はやはり、もっとも手軽にできる散歩をおすすめします。病棟内をぐるぐると歩くだけで十分な運動量になります。医師や看護師の許可が得られれば、思い切って病棟の外に出て、売店へ行ったり、お気に入りのコースをみつけたりするのもいいでしょう。

私が入院しているときは、毎食後に病棟を10周ほど散歩していました。これでも、1日に3キロメートルの距離を5000歩歩いたことになります。

もし、スマートフォンをもっていたら、ポケットに入れておくだけで歩数を計ってくれるアプリを活用してください。最近では、わかりやすいグラフでどれだけ歩いたかを表示してくれるものもあります。どんどん溜まっていく歩数や、一日の運動量を眺めているだけで「明日も歩こう!」という気にさせてくれるはずです。

最近の病衣は財布や小銭の入れっぱなしを防ぐために、ポケットがついていないものがあります。病衣をレンタルする予定なら、散歩に便利な肩から下げる小さなバッグも用意しておきましょう。

退院後は、ポケモンGOやドラクエウォークなどの、遊びながら自然に歩いてしまうスマートフォンのアプリを利用するのもいいでしょう。どちらも中高年にも根強い人気があり、散歩を習慣にするのにも役立ちます。私の父も今年で70歳になりますが、ポケモンを集めるために、近所をぐるぐると歩きまわっています。ゲームに熱中していると、毎日同じコースでも飽きないそうです。

また、歩数に応じてポイントがもらえたり、お店に行くだけで来店ポイントがもらえたりするアプリもあります。「今日も運動しなければ」と自分に厳しくしすぎると、次第にやる気を失っていきます。ゲームの楽しさや得するうれしさを組み合わせて、自然に体を動かしたくなる気分を作ってください。

歩く量については、厚生労働省の『健康日本21』によると、毎週60分、息が弾み汗をかく程度の運動を行ことが推奨されています。

私が患者さんに聞くかぎりでは、むしろ1週間に60分くらいの運動にとどまっている人は少なく、毎日1時間くらい散歩している人のほうが多い印象です。やはり、運動を義務のように捉え、その都度、やるかやらないかで迷う人よりも、外に出て歩くことが楽しい日課に感じている人のほうがうまくいっているようです。

痩せている人は運動よりも、まずは食べることを考える

ここまで、入院中の心得として運動を推奨する話を書いてきましたが、もし「自分は標準よりもやせているんじゃないか?」と思ったら、注意してほしいことがあります。もともと、体の細い人はエネルギーを蓄えておく脂肪の量が少ないからです。程度によっては、せっかく運動しても筋肉をエネルギー源として使ってしまい、かえって筋力が弱くなることがあります。その結果、転びやすくなったり、動くのが億劫になったりする人もいます。

そうならないように、まずはしっかりと食事を摂りましょう。あまり食欲がないときは、薬局で手に入る栄養補助食品を利用するのもおすすめです。たとえば、ヤクルト2本分の量で、牛乳の約2.5倍の200キロカロリーを摂れます。ただし、食欲のない状態が何日も続くときは、他に原因があるのかもしれません。かならず医師に相談しましょう。

本当は痩せているのに、あまり自覚のない人や、痩せていることが気にならない人もいます。そこで、ふくらはぎの筋力を調べるために「指輪っかテスト」をやってみましょう。左右の親指と人差し指をくっつけて輪を作ってみてください。この輪の中にふくらはぎの一番太いところが入ってしまうと痩せすぎです。

高齢になると、どうしても体重が減っていく傾向にあります。中年太りしていた人でも、年齢とともにお腹の脂肪は少なくなります。そうして、スリムになったのを喜んでいるのもつかの間、筋肉まで少なくなり、やがて歩くことさえ大変と感じるようになります。このような状態は「ロコモティブシンドローム」(ロコモ)と呼ばれ、2009年の東京大学22世紀医療センターの調査によると、その予備軍は4700万人とも言われています。

「ロコモ」は放置すると「フレイル」という要介護の手前の状態になります。以前はこれを「老衰」や「虚弱」と呼んでいました。こうして体が弱ってしまうと、かならずこころにも影響がではじめます。さらには、家に閉じこもりがちになったり、うつになったり、軽い認知症の症状が出たりすることもあります。

こうなってしまうと、運動をする気になれず、食事もなかなか進みません。入れ歯を直すよう手配したり、メニューを好みのものに工夫したり、栄養補助食品のドリンクをあれこれ勧めてみたり、一緒に散歩してもらえるよう誘ってみたりと、医療者もあの手この手で元気になってもらおうとしますが、本人にその意志がなければ、なかなかうまくいきません。

自分の生きたいように生きる

「孫の結婚式には出たい」「北海道に旅行したい」など、人それぞれの望みがかなえられるよう、私たちもできるかぎりのお手伝いはします。しかし、入院期間だけで「フレイル」を防いだり乗り越えたりすることは簡単ではありません。本人と家族と医療者のみんなで協力して無理せずに対策を施していきましょう。

医療の進歩とともに、病気の治療法も日々新しくなっています。これ対して、適度な運動や必要な栄養を摂ることは、太古の昔から変わらない人間の自然な営みです。そのあたりまえのことが病気を防ぎ、健やかな暮らしにつながります。

病院は、治療をしてくれたり、健康上の注意点を教えてくれたりしますが、完全に元気な状態まで戻してくれる場所ではありません。あとは、どこまで回復したいかや、どう生きたいかを考えて、自分で運動や食事を工夫してみみましょう。

面倒に感じても、まったく心配はいりません。やり始めが一番つらいんです。もし、最初の一歩が踏み出せなければ、5分だけ歩くことにしてもかまいません。一回目より二回目のほうがきっと楽に感じるはずです。

その後も続けていくためには、ぜひ散歩の中に楽しみを見つけてみてください。「近所の犬は元気かな」「昨日のつぼみは開いているかな」など、なんでもいいのです。

そして「階段の上り降りが少し楽になった」「出かけるのが楽しくなった」というように、効果が感じられればしめたものです。いつのまにか、体だけでなく気持ちも整っていることでしょう。

健康管理を医療者に任せっきりにせず、再び元気になるための幸せな取り組みだと思って、自分から積極的に工夫して楽しんでみて下さい!

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