自作キーボード備忘録。番外編 キーボード作りのための電磁気学

番外編です。前回あたりから、電気の話が出てきました。僕はキーボードを作るにあたって改めて電気の勉強をしたということはないのですが、備忘録を読みやすくするためにも、電気のことについて少しまとめて置こうと思います。だって、もっと多くの人に自作キーボードをやってほしいもの。想定読者は電気が割と得意な小学生~それ以来電気について殆ど触れてない文系の人や、中学生などです。

そもそも自作キーボードで電気の知識が必要か

結論から言えば、小学生までの知識では少し足りないかもくらいであまりにも高度な知識は要求されません。ですが、例えばキーボードの基盤を設計するだけでも

・UnderGrowのためのLED

・ダイオードの役割

・プルアップ抵抗の正しい理解

などで最低限の電気の知識が必要だと思います。さらにポテンショメーターでボリュームなどを作るとしたら

・可変抵抗の値を読み取る方法

を理解した上で、ファームウェアを書く必要があるわけです。てなわけで、電気の知識をちょっとだけつけておきましょう。難しい数式は使いません。むしろ言葉が多くなって理系の人は鬱陶しいかも。(理系は読まないでね!)

電流

電流はその名の通り電気の流れです。実際にはマイナスの電気を持った、電子というやつがマイナスからプラスに流れています。そしてその結果として僕たちはプラスの電気がプラスからマイナスに流れているように見えています。ここはさほど重要でないので、ほーんと思っといてください。

電位

電位・電圧とは、電気の位置的なエネルギーです。よく家庭などでは、電圧のほうが使われると思いますが、電位は同じ意味です。そして圧という言葉の語感から、電気を押し出すような力を表しているのではないか、と思われがちですが、違います。電位・電圧は電気の"位置的なエネルギー"です。僕は電位のほうが、実態を表していると思うので、電位をよく使います。逆張りではないです。

さて、位置的なエネルギーとはどういうことかというと、要するに、こういうことです。

・基準が自由

・高いところから低いところに向かう性質がある

2個目はわかりますね。位置エネルギーって現実世界では高いところにあるものが、持っているエネルギーですから、当然こうなるでしょう。

1個目が意外と落とし穴です。電位だけをみるとき、基準は自由です。なぜか?それはこんな理由からです。

・電気の世界において重要なのは電位差である

つまりある地点とある地点の電位差があったとして、それさえわかれば、電位のそもそもの値はどうでも良いわけです。

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乾電池の電圧は1.5Vです(アルカリ乾電池単3とかのとき)。これは乾電池のプラス極がマイナス極に比べて、1.5V電位が高いことを意味しています。では、プラス極側を電位の基準=0V(通常、電位の基準はアースされます。)としたら、マイナス極の電位はどうなるでしょうか。-1.5Vです。でも、これ自体に何も問題はありません。結局乾電池が1.5Vの電位差を生み出していることには変わりないからです。

まだわからない人はこう考えてみてください。標高300mから標高0mにボールを落とすのと、同じボールを標高400mから標高100mに落とす時、どっちのボールが速いか。同じですよね。どっちも落差300mなので。これが重要なのが2点の位置エネルギーの差であり、その絶対値はどうでもいいということの身近な例だと思います。

抵抗

抵抗はその名の通り電気が流れるのを邪魔するやつです。電流は邪魔するのを押しのけて出ていこうとするので、エネルギーを消費します。どこから消費するかというと位置エネルギー、そう電位です。つまり抵抗では電流が流れる方向に電位が下がります。

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オームの法則

知っている人も多いでしょうが、改めてまとめておきます。電流をI(単位A アンペア)、電位降下をV(単位V ボルト)、抵抗をR(単位Ω オーム)とするとそれらはこんな関係で表されます。

V=IR

ここで、Vを"電位降下"と言われて混乱する人は抵抗の説明に戻ってみてください。抵抗では電位が下がるんでしたね。

ちょっと練習してみましょう。ProMicroでは、5Vの電位を作ることが出来ます。では、そこから10kΩの抵抗を通じて、GNDに戻るような回路を考える時、電流はどれくらい流れるでしょうか。

正解は0.5mA=0.0005Aです。

単位換算がしっかり出来ていれば良いんですが…。kは1000を表すので、10kΩというのは10000Ωのことです。ということはIは5/10000Aなわけです。ですが、これでは小さくて分かりづらいので1000倍することで、mAにしてあげましょう。なぜ1000倍か?それはmが1000分の1を表しているからです。つまり、1mAは1000分の1Aなので、逆にAからmAの変換をするときは1000倍してあげます。てなわけで、0.5mAが正解です。勘のいい人は5/10=0.5mAでいけたかもしれないですね。これが最速です。(なんでかわからない人は考えてみるといいかも。)

ちょっと余談ですが、Pro Microが完全にArduino互換であれば、INPUTに設定したときの内部抵抗は10MΩです。つまり、5Vでも0.0005 mA = 0.5 μAしか流れません。抵抗がバカでかいんで、電圧がかかっていない時はそこに導線がないのと同様の振る舞いをしてしまします。これをピンが浮いているというらしいです。確かに接地してないってことは浮いてますもんね。そして浮いている時、マイコンはGNDと電位を比較しているのに、基準とつながっていないので、値がぶれてしまいます。したがってプルダウン抵抗を使ってしっかり接地してやる必要があります。

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ダイオード

ダイオードの主な役割は電気を一方向にしか流さないということです。中身が気になる人は調べてみてください(電流が電子の流れであるというのをわかっていないと辛いかも)。電子工作においてはもっぱら電流が逆流してほしくない場所に使います。めっちゃ使ったら電流の制御を思い通りにできますが、はんだ付けが増えて大変なので必要以上には使わないようにしましょう。

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ダイオードの大事な点は別に順方向(アノードからカソードといいます。五十音順で僕は覚えました。)ならいつでも流すのではなく、両端にある程度の電位差が無いと流れないということです。正確には電流が流れるに従って電位差が生じます(抵抗みたいなもんです)。

例えば自作キーボードによく使われる「1N4148W」というダイオードを調べてみましょう。データシートはこちら

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Forward Voltageとは順方向電圧のことです。そして、Figure2が順方向電圧と順方向電流のグラフです。25℃のときだけ見ると、0.7Vくらいから徐々に電流が流れ出して、0.1mA流れるのは、0.8Vくらいとわかります。25℃は室温なので、上の表に詳しい数値が書かれていますね。50mA流そうとしたら1V電位降下が起こるみたいです。実際に使用する際には果たして両端にどれくらいの電位差が生じるのか、見ておく必要があるということです。じゃないと電流全く流れないですからね。

キルヒホッフの法則

ラストです。ここに来て知らない単語が来たという人もいるかもしれないですが大丈夫です。キルヒホッフの法則は、大学受験で初めて出てくるのですが、別に難しいもんでもないですし、合成抵抗とか覚えるくらいならこれだけ覚えた方がいいと思っています。キルヒホッフの法則は2つの法則からなります。

1. 回路を一周したら電位はもとに戻る

2. 回路のある地点に流れ込んでくる電流の合計とその地点から流れ出る電流の合計は等しい

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図めっちゃきたねえな。まあいいや。なんだそんなことか。そんなことです。でもこれさえわかってたら回路は余裕です。例えば下の回路を考えてみましょう。

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これで、回路に流れる電流いくらですか?って言われた時にどうしますか?合成抵抗の公式を使ってももちろん良いんですが、11分のいくらとか出てきて鬱陶しいと思います。僕ならこうします。

法則1から電源から100kΩ抵抗を通って帰ってくるループに流れる電流は5Vの電位降下を考えて0.05mA(オームの法則使いました。)

同様に電源から10kΩを通って帰ってくるループに流れる電流は0.5mA

よって法則2から、回路全体に流れる電流はその合計なので、0.55mA

こっちのほうがよっぽど簡単なんじゃないかなぁって思います。

じゃあ自作キーボードのこんな例を考えましょう。

ProMicroのあるピンをOUTPUTかつHIGH(5V)に設定します。これで、UnderGrowのLEDを光らせたいとします。LEDでは1.8Vの電位降下が起こることがデータシートよりわかっています。ですが、バッテリーを用いたキーボードを作りたいので、電流の値を抑えて低消費電力にしたいです。ここでは5mA程度に電流を抑えたいとします。さて、この時、LEDにいくらの抵抗をつければいいでしょうか。

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まず、法則1より、抵抗では3.2Vの電位降下が起こることがわかります。そして、この3.2Vの電位降下が起こる時に回路全体5mAしか流さないようにするには、V=IRを変形して、

R=3.2/(5×10^-3)=640

となって、640Ωの抵抗をつければいいみたいです。今回は回路が1つのループしか使わなかったので、法則2は使わなかったですね。では、法則2を使います。さっきと同じ条件でこんな回路の時はどうしましょうか。条件として、LEDは同じくらい光らせたいので、同程度の電流を流すこととします。

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まず右側のLEDのループと左側のLEDのループを考えると、どちらも抵抗での電位降下は3.2Vのようです。そして、今回は均等に電流を流したいらしいので、それぞれ2.5mA流すことにしましょう。ということは、さっきより抵抗が大きくなりそうですね。答えはさっきの2倍の1280Ωになります。

ということは、同じ電流しか流せないときは、LED1個あたりの明るさは当然小さくなるようです。このへんも考えないといけないですね…

お疲れ様でした

長い戦いでしたね。でも大体これでキーボード作る時に必要な知識は揃ったと思います。さらに深いことをしようとしても基本はこれですから、大丈夫なはず。キーボード作るだけでなく、大学受験の回路の問題くらいならさらっと解けるようになっているとおもいますよ!では引き続き、備忘録をお楽しみください。

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