【私的まとめ】欧州グリーンディールとは?
以前ブログで書いた記事を転載します。
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先日、欧州グリーンディール投資計画(The European Green Deal Investment Plan)について、自分で調べるまでもないけど知りたいという方はいますか?と質問させていただきました。
思いの外、反応を多くいただいたこともあり、どうせ調べるならみんなで共有しよう!の精神で書きます。欧州グリーンディール(A European Green Deal)について。
なお、内容はほとんど事実ベースのことであり、私の解釈は少なめとしています。私の知識不足・経験不足により、欧州グリーンディールが具体的な投資銘柄に対してどう影響するか?などの見解にまでは至っていません。
それでは、始めます。
欧州グリーンディールとは?
■主体となるのは欧州委員会(EC)
欧州グリーンディールの主体は、欧州委員会(EC=European Commission)です。ECは、欧州連合(EU=European Union)の主要機関の一つ。
EU自体は、2020年1月31日に正式に実現したブレグジット(英国のEU脱退)が記憶に新しいですね。
*EUの概要についてはこちらの資料で概要は掴めます。
外務省|欧州連合概況
EUは、27もの加盟国を抱えています。
もちろん過去に戦火を交えた国もあるため、絶妙なバランスの上に、独特な経済的・政治的協力関係を保っています。EUはその運営にあたって、欧州議会、欧州理事会、EU理事会、欧州委員会といった主要機関をはじめ、複数の機関を有しています。
http://eumag.jp/questions/f0516/
※なお、ECは多数の部局に分かれており、エネルギー総局という部署もあります。
では、ECはその中でどんな役割をもつのでしょうか?
ECはEUの行政執行機関にあたります。具体的には以下のような役割を担っているようです。
法案の提出
政策の遂行・運営
EU法遵守を監視
予算の割り当て
国際舞台でのEUの代表
2019年12月1日には、EU史上初の女性委員長となるウルズラ・フォン・デア・ライエン氏が、欧州委員会を率いることとなりました。
*なお、歴代欧州委員会の中で女性の人数が最多となったそうです。総勢27人のうち女性が12人、男性が15人。
■ECの6つの優先課題
そして、そこから2024年10月31日までの約5年間における、「6つの優先課題」(6 Commission priorities for 2019-24)をECは掲げています。
1. 欧州グリーンディール A European Green Deal
2. 人々のための経済 An economy that works for people
3. デジタル時代にふさわしい欧州 A Europe fit for the digital age
4. 欧州的生き方を推進する Promoting our European way of life
5. 国際社会でより強い欧州となる A stronger Europe in the world
6. 欧州の民主主義をさらに推進する A new push for European democracy
要は、環境と共存し、経済的にも繁栄し、デジタル分野でも先導する欧州にな8. り、法のもと治安をよくして、世界のリーダーとなり、より民主的な体制を目指していこうぜ!という、幕の内弁当的な内容です 笑。
結果的にどれが優先課題なのか?と揶揄されそうでもありますが、EUが27カ国・約5億人を擁する巨大なコミュニティであることを考えると、課題の絞り込みは容易ではないと想像できます。
*私は、SDGs(特に7.〜12.)に共通点を感じました。参考にしているのかも(想像です)。
■そして、欧州グリーンディールとは?
ここまでで、欧州グリーンディールが、EU(欧州連合)の主要機関であるEC(欧州委員会)が掲げる、「6つの優先課題(2019-24年)」の一つであることがわかりました。
・目的
まず、2019年12月11日に出されているECのプレスリリースの表題を見てみましょう。
The European Green Deal sets out how to make Europe the first climate-neutral continent by 2050, boosting the economy, improving people's health and quality of life, caring for nature, and leaving no one behind
欧州グリーンディールは、どのようにして2050年までに欧州を気候ニュートラルな初の大陸とし、経済を活性化し、人々の健康と生活の質を向上させ、自然を大切にし、誰も取り残さないようにするかを提示しています。
「気候ニュートラルな初の大陸」という大きな言葉が出てきます。
地球環境と経済の両立において、「リーダーシップをとるのは欧州である」といった宣言のように私には聞こえます。
*気候ニュートラル(クライメイトニュートラル)とカーボンニュートラルの違い:CO2排出に焦点を当てるカーボンニュートラルと比べ、気候ニュートラルはCO2排出のみに焦点を当てずに人為的な温室効果ガスすべてにおいて排出ゼロを指す。
さらに、ECのウルズラ・フォン・デア・ライエン委員長は、このように語っているようです。
「経済や生産・消費活動を地球と調和させ、人々のために機能させることで、温室効果ガス排出量の削減に努める一方、雇用創出とイノベーション促進する」
上記二つの情報から察するに、欧州グリーンディールの目的は、
1. 資本主義・市場経済と地球環境の両立
2. その分野で欧州がリーダーシップを取ること
であると言えそうです。
もちろんすべての情報は追えていませんが、目的の一部であることは間違いないでしょう。
重要な点がもう一つ。
欧州グリーンディールの公式ページのトップに、コンセプトムービーがアップされています。
A European Green Deal
この動画の冒頭で、ウルズラ・フォン・デア・ライエン委員長が欧州グリーンディールのことを明確に”New Growth Strategy”(新たな成長戦略)と定義しているのです。
このことからも、あくまでも”攻め”の計画であることがうかがえます。
また、これは「莫大な費用がかかるけど、それはみなさんの生活を豊かにするんですよ」という、EU市民に理解を求めるためのメッセージとも言えるのではないでしょうか。
・背景
先ほど書いた目的の背景にあるのは「気候変動や環境悪化が脅威である」という課題の認識です。
これまでは、他国や他企業が競争相手であり脅威でした。そこに、気候変動という大きな脅威が現れます。
その課題を克服するために、EU域内の経済を後退させることなく、より効率的に、そして他国に負けないように共同体を変身させていくという決意があることでしょう。
・課題
欧州グリーンディールの計画実施における課題は、こちらの記事に譲ります。
とても参考になりました。
この記事からピックアップして書くと、
再生可能エネルギーなどのインフラ整備に膨大な費用がかかる
EU加盟国ごとに産業の構造が異なるため一枚岩になりづらい (注:EUの永遠の課題ですね…)
2050年までの気候ニュートラル化に反対しているポーランドとの話がまとまるか
といった課題があると思われます。
EUは、取締役が27人いる巨大コングロマリット企業のようなもので、全員ぴったりと合意というのは至難の業。いかに方針と費用面での合意を取り付けられるか、ウルズラ・フォン・デア・ライエン委員長の手腕が問われそうです。
・具体的な行動計画
こちらのECのページを見ると、行動計画が記されています。
少し長いですが、一部引用します。
EUは2050年に気候ニュートラルを目指している。我々は、この政治的コミットメントを法的義務に変えるために、欧州気候法を提案した。この目標を達成するためには、以下を含む経済のすべての部門による行動が必要である。
・環境配慮型技術への投資
・革新に導くための産業のサポート
・よりクリーンで、安価で、健全な民間交通機関の展開
・エネルギー分野の脱炭素化
・エネルギー効率の向上
・グローバル視点での環境基準改善のため、国際的なパートナーとの協力
EUはまた、グリーン経済への移行によって大きな影響を受ける人々を支援するために、財政面・技術面での支援を提供する。これは「The Just Transition Mechanism(公正な移行メカニズム)」と呼ばれています。これにより、最も影響を受ける地域に、2021年から2027年の間に少なくとも1,000億ユーロの資金を動員することが可能。
(DeepL翻訳を調整)
私のような、米国株投資のテーマの一つとしてクリーンエネルギーを持っている者として、関連があるかもしれないと思うところを太字にしたところ、全部太字になりました汗。
太陽光パネル、インバータ、水素、その他諸々… 資金が巡ってきそうな。
予想通りといえばそれまでなのですが、欧州グリーンディールは、やはりクリーンエネルギー 投資にとっては追い風と言えそう、と私は考えます。
では、具体的に、米国株のどの銘柄にどう影響しそうか?については、ちょっと今回の記事では触れられそうにありません(力尽きて&知識不足)。
・1兆ユーロの投資計画
さて、では欧州グリーンディールにおいて、EUはどの程度の予算を見込むのでしょうか?
「課題」でも書いたように、経済を維持しつつ気候ニュートラルを実現するためには、大規模な投資が必要です。
そこで、2020年1月14日に、ECは「欧州グリーンディール投資計画(The European Green Deal Investment Plan)」を発表しました。
*「持続可能な欧州投資計画(Sustainable Europe Investment Plan)」とも言うそうです。
今後10年間で、欧州投資銀行を主軸として官民合わせて少なくとも1兆ユーロの投資の動員を目指すそうです。
トランプ氏と米大統領選を争う民主党のバイデン氏が公約として掲げる2兆ドルの投資には及ばないものの、大きな金額には違いありません。
無事調達できるのか?欧州市民の理解が得られ得るのか?今後の動きにも注目していきます。
欧州グリーンディールに対する世の中の反応(調査中)
まだ調査中ではありますが、欧州グリーンディールについて書かれた外部の記事を貼っておきます。何かの参考になれば。
・大風呂敷を広げすぎて、1兆ユーロの投資には至らないだろうと言う見解(国際環境経済研究所のHP/読売編集委員の方のコラム)
・コロナ危機を、再生可能エネルギーへの移行を加速させるチャンスでは、と言う意見も(ユーラシア研究所のHP/青山学院大学法学部教授レンツK・F氏のコラム)
・ポーランドをはじめとした東欧諸国の合意が苦労してそうとの話。原発との兼ね合いの話も。後日再読したい。(BBC News)
まとめ
■ここまでのまとめ
私が米国株投資家の目線も踏まえて、注目している点をまとめておきます。
・欧州グリーンディールは、EUの掲げる新たな成長戦略(攻めの戦略)である
・経済と地球環境の両立においてEUはリーダーシップを目指す(=各国の競争を煽ることでクリーンエネルギー市場の発展スピードが加速?)
・欧州グリーンディールは、2050年までを見据えた計画である(=あと30年は投資が続くトレンドになりうる)
・行動計画には、「環境配慮型技術への投資」「よりクリーンで安価な民間交通機関の展開」「エネルギー分野の脱炭素化」「エネルギー効率の向上」「グローバル視点での環境基準改善のため、国際的なパートナーとの協力」といった記述がある(=投資額が実現するならクリーンエネルギー関連企業への追い風?)
・1兆ドルの投資計画が組まれている(=米国バイデン氏公約の2兆ドルに迫る勢い)
・EU加盟国一枚岩になれるか、ポーランドをはじめとした東欧諸国との話がうまくまとまるか、を注視
あとは、以下の資料にあるように、温室効果ガス外出をゼロにするためにはエネルギーの脱炭素化がマストなので(当たり前ですが)、1兆ユーロのうち、クリーンエネルギーへの投資比率は小さくはない、と予測できます。
http://eumag.jp/wp-content/uploads/2020/02/green_deal.pdf
■クリーンエネルギー の成長ポテンシャル
もう一つ、ポテンシャルについて。2017年時点での、EUでの全エネルギー消費のうち、再生可能エネルギーの割合は18%だったそうです(以下資料)。ポテンシャルの塊です。単純計算で恐縮ですが、5倍の成長余地があると考えられます。
さて、欧州グリーンディールについて、書いてきました。
ECの公式ページ以外にも、色々な記事を参考にさせていただき、自分なりに学んだことをまとめています。
特定の銘柄への予測までは、私の力では及びませんが、また自分なりの見解がまとまれば記事にするかもしれません。
今後の欧州の動き、楽しみですね。またアップデートします。
<参考資料>
EU MAG|初の女性委員長が率いるフォン・デア・ライエン新欧州委員会
EC|European Green Deal Roadmap - Key actions
IDEAS FOR GOOD|欧州グリーンディールとは・意味
FBC|「欧州グリーンディール」の投資計画発表、脱炭素化へ10年で1兆ユーロ
EU MAG|脱炭素と経済成長の両立を図る「欧州グリーンディール」
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