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GPT-4と労働市場の未来:採用ニーズの変化と新しい仕事の創出

現状考えていることとしては、GPT-4登場後の採用市場の未来についてです。人材業界で働いているということもあり、このトピックについては常に考えています。

結論としては、GPT-4によるタスク自律型システムが登場することで、デジタル上のタスクがシステムによって自律的に実行されるようになり、これまでデジタル領域で働いていたホワイトカラーの採用ニーズがかなり減少していくのではないかと考えています。これについて解像度を高めるべく、思考を整理していきます。

GPT-4がもたらす変化:タスク自律型システムへの進化

まず思考の根幹にある技術革新について触れていきます。それは大規模言語モデルを活用したタスク自律型システムの存在です。ここでのタスク自律型システムとは、以下を満たすものとして考えています。

  • ゴールが与えられた時に、それをもとに作業ステップを分解できる

  • その作業ステップを、人間の手を介さず完結することができる

一例を挙げると、「このコンセプトで記事を書いてほしい」と指示を受けた場合、そのコンセプトに関する情報収集から、情報整理、何を伝えるべきかのコンセプトの再定義、それをもとにした記事のプロットを作成、各セクションの文章を記載、その記事をCMS上にアップロード、完了報告までの流れを人間の手を介さずに行うことができるシステムを指しています。

これは夢物語ではなく、技術としては、もうほぼすぐそこまできているかと思っています。


1.1 司令塔としての役割

大規模言語モデル(以下、LLM)を活用した、全体のタスクの洗い出しや、何を実行するかなどの司令塔を行う仕組みが出てきています。

ReAct(Reason+Action)と呼ばれるプロンプトを使って、LLMに司令塔的な役割を担ってもらう。これはユーザー入力に対して思考をしてもらい、それを踏まえて何のアクションを取るべきかを定義(文章生成)してもらい、それを検知してプログラムを走らせて特定の処理を実行すると言う感じのもの。

大抵の大規模言語モデルを活用した応用的なアプリケーションでは、このエージェントの役割を担うLLMが存在している気がしています。


1.2 様々なAPIを扱う実行能力を有する

LangChainは上記のReActを用いたエージェントのような使い方をサポートしています。このLangChainとiPaaSであるZapierが連携しました。

これにより、LLMエージェント自身で判断し、そのアクションを実行するために、サービスなどを跨いで行えるようになりました。例えばSlackで指示したらメールを送信するみたいなサービス間の連携とかですね。


1.3 PCを操作して実行能力を有する

少し前に話題となったのはAdept ACT-1と呼ばれる自然言語によるPC自動操作ツール。リンク先は英語ですが、デモ動画もあるので直感的にわかりやすくなっています。ぜひ見てみてください!

また最近はブラウザの拡張機能として、TaxyAIと呼ばれるOSSも公開されていました。


もちろんこれらのタスク実行精度にはまだ懸念が残っていそうですが、ここについてはGPT-4のマルチモーダル化によって、画面イメージを取り込むことで、何の処理をすべきかといった操作性の精度が上がってくるのではないかと考えています。

ここら辺はGPT-4のAPIがマルチモーダル対応してからが、勢いを増してくる領域だと思っています。


1.4 タスク駆動型自律エージェント

上記の技術などを踏まえて、具体的な設計の構想も出てきています。下記は、すでに実現されているものです。

  1. ユーザーからの入力文をもとに、必要に応じてタスクをQueue(タスクリスト)に追加する

  2. そのタスクを実行するように指示を出す

  3. タスクを実行する際に、必要に応じてコンテキスト(文脈情報)を引き出して、タスクを実行する

  4. 実行結果を判断し、再度タスクが必要であれば、タスクをQueueに追加する(例えばプログラムを生成してエラーが出た場合など)

  5. Queueに溜まったタスクを整理する(実行完了となったものを削除したり優先度を再設定するなど)

上記をオープンソース化するのは危険ということもあり、タスク実行能力を持たない形でのリポジトリは公開されているようです。


ここまでが自分の根幹として存在している影響として大きな技術革新です。つまりタスクを自律的におこなってしまうシステムができれば、デジタル領域で完結するかなりのタスクを技術的には代替可能ということになってきそうです。

もちろん、以下のような議論・疑問もあると思います。

  • とはいえ、結局期待するアウトプットと異なることが多い

    • ここはコンテキスト(文脈)の情報が不足していることが考えられます。

    • 例えばZoom会議で話し合われた内容であったり、社内のこれまでの意思決定の判断軸であったりなど。

    • モデルに指示した情報の背景にある情報をいかに共有できるかは、どこまでデジタル化できるか、情報の取り扱いの懸念払拭が鍵だと考えています。

  • AIが実行ミスする場合どうするのか

    • おそらくAIとはいえ、実行ミスは生じるものだと思います。

    • ただここは人間よりもミスが少ないという指標が出てくれば「どちらもミスは生じる可能性があるけど、AIの方がそのリスクは低いか」という判断になってくるのかなと思っています

  • そんなに早く技術は導入されない

    • ここは私も同じように考えています。

    • なのでここは、変化の早い企業は劇的に変わっていき、変化の遅い企業はゆっくり外部市場からの圧力を受けて、変わらざるを得ないという形で、社会は変化していくのかなと考えています。

    • AIを活用している企業は、かなり人件費当たりの生産性が高くなると想定されます。そのため市場のメカニズムのような外的な影響を大きく受けてきそうです。


技術革新が与える労働市場への影響

上記の技術革新によって労働市場にも大きな変化が生じます。具体的には、既存の職種や雇用ニーズの減少と、新しい仕事の創出が考えられます。それぞれについて整理していきます。

2.1 既存の職種や雇用ニーズの減少

特にデジタル領域で完結するようなタスクがAIによって実行可能になるため、それによって必要な人数が減少します。無くなる職種もあるかもしれませんが、それ以上に既存の職種に必要な人員がかなり少なくなるといった現象の方が社会に対する影響が大きそうだなと捉えています。

例えばライティングでは、アイデア出しから構成・執筆までの作業が大部分AIによって代替される可能性があります。しかし、全ての作業がなくなるわけではなく、職種はライターのまま存在し、おそらく必要な人数が減るという現象が起こります。この時代のライターに求められるのは、AIを使いこなし、記事を書くスキルセットです。

同様のことは、ありとあらゆる他のデジタル領域に通ずる職種でも言えそうです。


2.2 新しい仕事の創出

新しい仕事が増えることも予想されます。例えば、LLMを活用したアプリケーションを構築できるエンジニアや、モデルをチューニングするプロンプトエンジニア。またAI Botが配信をする際に、AIの管理やチューニングをする人が必要とされるでしょう。また、AI活用のコンサルティングや、AIを使いこなせない人を繋ぐサポート的な業務なども一時的に増えてくるかもしれません。

しかし、新しい仕事が増えたとしても、労働集約的な職種は少なく、既存の雇用総数に対してはかなり小さい規模の話なのではないかと考えています。

理由としては、これまでの技術革新では、新しい仕事をある程度一般化して、それを実行する人を増やすことで生産性を高められる類の変化が多かったように感じます。ただし今回は、一般化してもそれを複製可能・並列処理が可能なAIが担ってもらえる箇所が多いので、人手を増やして労働集約的に雇用ニーズが生まれてくるという職種は少ないのではないかなと思っています。

ここまでの考えをまとめると、既存の職種や必要な人員が減る一方で、新しい仕事も生まれてきそうだが、社会全体の総和としては雇用ニーズは減少しそうだなと考えています。


時系列で見た採用市場の変動

労働市場に与える影響が次々と表れるにつれ、採用市場も大きく変化するでしょう。時系列で見た採用市場の変動を以下にまとめます。

3.1 採用ニーズの減少

まず最初に、企業が採用したいと思わなくなることで、採用市場が冷え込むと予想されます。この不確実な状況の中で人数を増やすということがリスクになり、企業は既存の社内人材を活用し、AI技術を導入する方向にシフトしていきそうな気がします。

新しい職種も登場しますが、それは限られた優秀層の人材が求められ、大勢の雇用を受け止めるような受け皿には至りません。

3.2 企業の倒産

次に、デジタル領域のツールを提供する企業は、競合他社が低コストで高精度なツール、サービス価値を提供する世界になると、経営が厳しくなり、倒産が増えてきそうな気がします。タスク自律型システムの導入により、人件費が削減され、ツールの提供競争が激化します。

3.3 失業者の増加と政府の介入

企業の倒産やリストラによって失業者が増え、一方で採用市場が冷え込んでいるため、求職に苦労する人が増えることが予想されます。ここで、政府が介入し、失業者への補助や雇用創出の施策が求められるでしょう。

個人的には生活保護受給者が増加し、実質的なベーシックインカムとしての役割を担ってくるのかなとかは思っていますが、経済には疎いのでそんな単純でもなさそうだなとは思っています。


結論:採用市場と企業の適応

今回の技術革新によって、おそらく採用市場は冷え込み、またAI活用による市場メカニズムによる外的な圧力を企業は受けていくことになると思われます。

これを乗り越えていくためにも、AIを活用した生産性の向上は必要だと思われます。ここでの活用は、自動的に色々なタスクを実行・支援してくれる仕組みを作ることを意味します。これを実現するためには、個人的にはLLMなどの技術に関する最新トレンドのキャッチアップと、社内での情報の取り扱いの仕組みを整えていくことが重要だと考えています。


かなり悲観的な見方をしてきましたが、自分の中ではどう楽観的にみても起こりそうという結論に至りました。

なので一旦この結論を受け入れて、その上で自分はどのように動いていくべきかについて思考を巡らせていこうと思います。


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