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黒人の子どもにオバマ大統領が必要だった理由~ヒューマン・バラク・オバマ第11回

■人間としてのバラク・オバマと、彼がアメリカに与えた影響を描く連載■


 オバマ大統領が無類の子ども好きなことはよく知られている。

 ホワイトハウスにはピート・ソウザという専属フォトグラファーがいて、ホワイトハウス内はもちろん、オバマ大統領が行くところどこでも同行し、大量の写真を撮ってはホワイトハウス公式ウエブサイトや公式インスタグラムにアップしている。各メディアもソウザ氏の写真を使うことが多い。政治的な緊張感が漂う写真も多いが、目を引くのは子どもとオバマ大統領の写真だ。


■オバマ大統領はホワイトハウス職員に子どもが生まれたと聞くや、「連れてきて」と頼むという。職員も激務のはずなのでそうそう簡単ではないと思えるのだが、それでも皆、連れてくる。赤ちゃんは大統領の執務室、オーバル・オフォスのカーペット敷きの床をハイハイし、オバマ大統領はスーツ姿のまま跪いて一緒に遊ぶ。時には床に寝転び、赤ちゃんを“高い高い”する。

●執務室の床で赤ちゃんと遊ぶ(写真)

●ホワイトハウス職員の赤ちゃんとご対面(写真

●「いないいないばあ」(写真)


■オバマ大統領が全米各地、世界各国に出掛けると、必ず市民が歓迎のために集まる。オバマ大統領は人々と握手し、中に赤ちゃんを連れた人がいると必ずといっていいほど赤ちゃんを抱き上げる。過去8年間でオバマ大統領は世界中のいったいどれほどの赤ちゃんを抱っこしたのだろうか。

●赤ちゃんを抱き上げる(写真)

●プラハの米国大使館で赤ちゃんを抱っこ(写真)


■ソウザ氏によると、幼児は当然カメラなど気にせず思うままに行動する。ゆえにとても面白い被写体となる。

●お医者さんごっこ(写真)

●幼稚園で園児と共に(写真)

●時にはなついてもらえないことも(写真)


■子どもは大人が本気で自分を気に掛けているかどうかを本能的に知る。子どもたちにとっては大統領と言えども、単に初めて会う“おじさん”に過ぎない。それでもオバマ大統領と共に撮影された子どもたちは全幅の信頼を寄せた表情で大統領に抱きついたり、大統領の目を見つめていたりする。

●男の子のまなざし(写真)

●リンカーンの肖像の前で(写真)

●ミネソタの学校にて、抱きつかれる(写真)


■もう少し年齢が上がり、大統領とはどういった立場の人かを理解している子どもになると、憧れと敬意の混じった眼差しでオバマ大統領を見つめている。

●オバマケアについての演説を聞く少年(写真)

●ホワウトハウス恒例の子ども科学フェアで大統領を撮影する少女(写真)

●サウスカロライナ州黒人教会乱射事件の犠牲者の娘たち(写真)


■オバマ大統領は人種もエスニックも関係なく、全ての子どもが好きだ。子どもたちも同じ。

●オバマ大統領のいちごパイをほうばる少年(写真)

●ローマ教皇に手紙を渡した不法移民の娘をホワイトハウスに招待(写真)

●マレーシアで難民の子どもたちと語る(写真)


■だが、奴隷制に基づく根強い黒人差別が今も残るアメリカゆえに、黒人の子どもにとって米国史上初の黒人大統領には格段の意味がある。それを象徴するのが、この写真だ。オバマ大統領が就任した2009年。ブッシュ政権に仕えていたホワイトハウス職員が「ホワイトハウスを去る前にぜひ大統領に謁見したい」と願い、実現した際のもの。

●オバマ大統領の髪をさわる5歳のジェイコブ(写真)

 以下は職員の息子で当時5歳のジェイコブとオバマ大統領の会話。

ジェイコブ「……ボクの髪が大統領の髪と同じか知りたいです」

大統領「自分で触ってみたら?」

ジェイコブ(ためらう)

大統領「触って、ほら!」(と頭を下げる)

ジェイコブ(触る)

大統領「どう?」

ジェイコブ「はい、同じです」

 黒人にとって肌の色だけでなく、髪の質も黒人であることの強い象徴であり、プライドとなることもあれば、白人優位の社会にあって大きなコンプレックスにもなる。オバマ大統領の存在は黒人の子どもに「自分と同じ外観の人が大統領なんだ!」という驚きと、「だったら自分も大統領になれるかもしれない」という希望(Hope)を与えた。歴史がもたらすダメージが今もあるからこそ、黒人の子どもには勇気付け、動機付けが必要となる。

 ホワイトハウスの壁に飾られているこの写真はワシントンD.C.のスミソニアン・アフリカン・アメリカン歴史文化博物館にも展示されることとなった。

 “大統領とファーストレディとして、バラクと私は同じ取り組み方をしています。なぜなら私たちの言葉と行動は私たちの娘だけでなく、アメリカ中の子どもにとって重要だからです。「テレビであなたたちを見ました。学校の作文であなたたちのことを書きました」という子どもたち。夫を尊敬の眼差しで見上げ、希望で大きく目を見開き、「僕の髪も大統領みたい?」と思うあの小さな黒人の男の子みたいな子どもたちにとって。”(ミシェル・オバマ)

●執務室で大統領とセルフィーを撮る黒人の兄弟(写真)

 大統領は政治的使命を果たせば子ども好きである必要はない。しかし、オバマ大統領の個人的な資質である子ども好きは、この国の多くの子どもに大きな夢と希望を与えた。子どもたちはやがて国の将来を担っていく。オバマ大統領8年間の最大の功績は、子どもという国の礎を培ったことかもしれない。


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ヒューマン・バラク・オバマ

第1回:父親としてのオバマ大統領~「私はフェミニスト」

第2回:バラク・オバマは「黒人」なのか~人種ミックスの孤独
第3回:マイ・ブラザーズ・キーパー~黒人少年の未来のために
第4回:二重国籍疑惑の大統領候補たち~「生まれつきのアメリカ人」とは?
第5回:ドナルド・トランプを大統領にしてはいけない理由
第6回:大統領はクリスチャン~米国大統領選と宗教
第7回:不法滞在者となってしまった子どもたち~合法化の道を開いたオバマ、閉ざそうとするトランプ
第8回:不当長期刑のドラッグディーラー1,300人を恩赦~法の不平等を正す
第9回:マイ・ブラザーズ・キーパー~黒人少年の未来のために(全文掲載)
第10回:ミシェル・オバマを「サル」〜メディアを見ない医師・教師・政治家

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