瞬間小説(特別編)『ナツメロトラベラー第2話 <レクイエム>』
第1話→ 瞬間小説『ナツメロトラベラー』
俺はナツメロトラベラー・・・。
ナツメロを聴くとその曲が流行った時代にタイムトリップする能力だ。
こんな能力のせいで、俺は今、東京大空襲で出来た焼け野原を彷徨っている。
未来に戻れないという、この能力の落とし穴に気づくのが遅かった俺がバカだったのだ・・・。唯一未来に戻れる可能性があるとしたら、最新の音楽をつめこんだスマホだけだったが、とっくにバッテリーが切れている。
自転車を改造して発電機を作るか?
ダメだ、そんな知識も技術も俺は持っていない。
どこかのタイムトラベル映画みたいに、雷の電流を利用するか?
いや、雷なんていつどこに落ちるか分からないし、だいたいジゴワットなんて単位じゃスマホが爆発して終わりだろう。
そうなると、電気の通っている民家から分けてもらうしかないな。
いやいや、そもそも充電ケーブルが無いじゃないか・・・。
いやいやいや、未来に帰る以前に、このままじゃ飢え死にだ。
まずは、食料をなんとかしなければなるまい・・・。
俺は、食料を分けてもらおうと、いくつかの避難所で助けを求めてみたが、その度に竹ヤリで追い払われ、体中に傷が増えていくだけだった。
それも当然と言えば当然だ。
先週染めたばかりのバリバリの金髪と、このサイケデリックなエセミュージシャン風ファッションは、どう見ても敵国のイカれた人間兵器といったところだろう。
少なくても、この時代で俺は非国民であることは確かだ・・・。
焼け跡をさまよっている途中、いくつかの死体が放置されたままになっていたが、それを哀れんでいられる立場ではなかった。
俺ももうすぐ、彼らの仲間入りをすることになるだろう。
まあ、どうせ俺が死んだって悲しむ恋人も友人もいない。
来週〆切の原稿が1つ落ちるだけだ。
正確には、70年後の来週だが・・・。
そう、俺は某メジャー音楽雑誌のライターだ。いや、だったというべきか。
自分の、このタイムトラベル能力に気づいた時、俺は有頂天になった。
来月号から連載される、まるでその時代を見てきたかのような完璧な「ナツメロ特集」で、俺は一躍売れっ子ライターとなり、モテモテでウハウハなバラ色人生に突入するはずだったのだ。
それが、あろうことか、はるか昔の東京大空襲に巻き込まれ、のたれ死にする事になろうとは・・・。まさに、晴天の霹靂。天国から地獄とはこの事だった。
竹やりで刺された傷の出血もひどくなり、飲まず食わずで数日間歩き続けた俺は、ついに立っていることすら出来なくなり、郊外の雑木林の中で顔から地面に倒れこんだ。
鼻血が出ていることは分かったが、もはやそれを拭う力も起き上がる力も残ってはいなかった。
「俺・・・終了のお知らせってか・・・。」
遠くで再び空襲警報が鳴り響く中、
俺の頭の中では鎮魂歌が鳴り響き、グラグラと視界は暗くなっていった。
※この回は、土田じゃこさんのnoteラジオ『ノートノオト』vol.30で、ラジオドラマとしてオンエアされています。(’~‘)b
☆表紙絵 by さとねこと さん → https://note.mu/satonekoto
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