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切ない夏のライト文芸かと思ったら「シン・ウルトラマン」が始まる『サマータイム・アイスバーグ』を読んだ

 暑い夏も終了して秋が近づくこの頃ですが、ガガガ文庫ライト文芸枠の新作『サマータイム・アイスバーグ』を読みました。

 ガガガ大賞を同じライト文芸枠の『わたしはあなたの涙になりたい』と競った本作は、「近未来の日本に突如出現した氷山から現れた少女と、幼馴染を失いどこかぎくしゃくした関係性になっている高校生男女グループのひと夏の交流を描く」という「サマーウォーズ」や「あの花」のようなひと夏の青春ライトSF……だと思うじゃないですか。

 しかし、最初に言ってしまうとこれは有川ひろの自衛隊三部作や「シン・ウルトラマン」に近い「日本に突如巨大な異物が出現したら国家はどう動くか」を描いたハードSFです。

 本当なんだって! 信じてください! 

 だって巨大氷山を巡って自衛隊や官僚があれやこれやするパートがあるし、異端の科学者が氷山の謎を様々な理論付けで考察していくのはそれこそ庵野秀明のシン・シリーズじゃないですか!

 メフィラス星人みてーなやつも出てくるし!

 官僚の言ってることがてんでバラバラでまるで足並みが揃ってないところとか氷山を巡って「かの国」が圧力をかけてくるところとか、こういうライト文芸があえて書かない部分をみっちり書き込むのがしびれました。

 それにつけても高校生の青春パートと平行して巨大氷山に対応する官僚パートが入っているのは本当にSFとしてワクワクするし、事象に対するスケール感の違いが互いを引き立てていて良いと思います。

 これはやはりSFに本気なガガガ文庫ならではの作品といえるでしょう。

 青春パートも青春パートで、ほのぼのとした高校生と少女の交流が描かれていくと思いきや、それぞれの爛れた家庭事情が明らかになり、ドロドロとした巨大感情が渦巻きだす中盤以降の加速感はとても素晴らしいですね。

 中でも、伏線回収した先に出てくるとある人物の重すぎる出生の謎は思わず言葉を失うくらいの本作のハイライトといっていいでしょう。

 しかし、新人賞受賞作だけあって粗も目立ち、コロナ禍やトランスジェンダーといった時勢を取り入れたものの全く持て余している部分や文章技法的に拙い部分などもあり、特に前者は「やるならしっかりやらんかい!」と思うほどかなり勿体ないポイントです。

 とはいえ、夏ものライト文芸のフォーマットでハードSFを描く、という気概をひしひしと感じられて楽しかったですし、特に後半のとある壮大な仕掛けが明かされてからのスピード感はびっくりさせられたので、夏ものライト文芸の読者のみならず、「シン・ゴジラ」「シン・ウルトラマン」を観た特オタや『空の中』『サマー/タイム/トラベラー』『時砂の王』が好きなSFマニアにも是非おすすめしたいライト文芸です。

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