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祝祭が、はじまる――男男巨大感情村ホラー『呪の血脈』

 みなさんこんにちは!あるいはこんばんは!
 みなさんは村ホラー、好きですか?
 村ホラーというのは、因習が残る封鎖的な山奥の村で祟りが起きたり妖怪が暴れたりするホラーのことです。『八つ墓村』『屍鬼』『SIREN』『ひぐらしのなく頃に』や、最近だと清水祟の村シリーズや『ミッドサマー』も村ホラーでしょうか。
 すっかりホラーの定番ジャンルとなっている村ホラーですが、今日はそんな村ホラーを思う存分堪能できる小説をご紹介します!
 加門七海『呪の血脈』です!
 作者の加門七海といえば、あの全国のいたいけな子供達に一生もののトラウマを植え付けた『ちょうつがいきいきい』の著者であり、そして『八甲田山』と並ぶ現代実話怪談の名作『三角の家』の関係者としても知られています。
 そんな加門先生が書いた村ホラーたる『呪の血脈』がどんな話かというと――

 秘祭が残る山村でうっかり封印を解いちゃった大学生と、村の神主の血を引くサラリーマンの同性どうしの巨大感情ものです。

 いや、本当にそうなんですよ!信じてください!
 ちゃんと「山奥の秘祭」「裏で蠢く超常的存在」といったホラーの勘所は押さえているしバイオレンス風味も強いから正当なホラー小説なんですけど、読んだ後だと「同性どうしの巨大感情もの」としか言えねえ!
 人ならざる存在に蹂躙され、生死を懸けた極限状況に追い込まれる中で、互いに「キモい」「怖い」と反発しあっていた二人が奇妙な絆で結ばれていくんですよ?
 それでもって、リーマンと大学生のどっちもろくでもない人間であるところが本当にいいんですよ。
 リーマンの方はいきなりパソコンを粉砕したり人間を殴ったりする暴力の権化みたいな存在で、もう片方の大学生からも「こいつヤバいやつやん……」って思われているんですけど、その大学生も事件に巻き込まれたり担当教授に論文をパクられたりするなかで凶暴性を発揮していく鎌をメインウエポンにして教授とリアルファイトする!
 互いに互いを「ヤバいやつ」と思いながらも、「でも、それでも一緒に居たい」という感情に持っていくところが、ホラーでありながら異様なハイテンションさをもって語られており圧巻だった。
 いうなれば白石晃士の映画でよくある「無放埓な暴力の塊と出逢ったカメラマン(演:白石監督)が次第に感化されていき、内なる獣性を解き放っていく」アレに近しい。
 そうでなくとも、複数の人間を通して忍び寄っていく怪異、様々な考証を重ねて進んでいく構成、突然降りかかる暴力の嵐、そしてやたら壮大なオチなど白石作品に通じるところが多く、特に「バチアタリ暴力人間」「カルト」「ノロイ」あたりの作品群が好きだと絶対気に入ると思われます。
 真面目な話をすると、古い作品だけあって全体的にミソジニーが凄かったりPC周りの描写に時代を感じたりといった違和感のある部分が散見されるのですが、ミレニアムを迎え祝祭じみた雰囲気の一方で一種の閉そく感と諦念めいたものが漂っていたゼロ年代初頭の空気を感じる作品として楽しんでいただきたいです。
 特に、法律や常識から逸脱したしきたりが残りつつも外圧がちらつくとすぐにそれを破壊することを厭わない村と、一見理詰めでありながら既得権益を奪い合うクソ学会や非常識的な迷信が蠢く都会の厭な対比、そしてそれが大きく崩される終盤も見どころです。
 『呪の血脈』は角川春樹事務所から出た単行本版、今は亡きあの伝説の富士見ミステリー文庫から出た文庫版、アドレナライズから出ている電子版の3バージョンがあります。今から読むなら電子版になると思いますが、個人的には万難を排して富士ミス版を手に取っていただきたいです。
 なぜなら、CLAMPの挿絵がいっぱいあってお得だからです。
 そうです。富士ミス版はCLAMPがイラストを描きおろしているんですよ……!
 読む前は「なんでこんな正統派ホラーにCLAMPの絵がついてるんだ……?」と思ったが、読み終わった後だと「この内容でCLAMP挿絵じゃないのは絶対にあり得ない」となるので……。


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