マークアップ価格形成理論

PKの物価水準の決め方は特殊だ。費用とマークアップ(費用に上乗せした利潤)を合計すると一般物価水準が決まる。マークアップは様々な市場の条件(独占度)を反映して生産物や産業で異なるが長期的には多かれ少なかれ安定する傾向がある。PKにとって変動の主要な因果的連鎖は、主に慣性的な貨幣価格のもとでの生産量の変化から借入金の需要の変化へと向かう。すなわち、借入金の需要は在庫と資本投資が増加するとき、その資金を賄うために増加し、生産量が減るときに減少する。次に、資金の借り入れ需要の変化は、貨幣の供給量を変化させる。このとき物価の上昇が起きるだろう。

それは費用の上昇、とりわけ賃金費用が上昇することによって起こるだろう。

そして賃金費用の上昇は市場が逼迫し労働者が自らの相対的立場を改善するための一定の交渉力を享受しているときに起こるであろう。このような状況でその因果関係の連鎖は間接的に物価変動から借り入れ需要および貨幣需要の変化へと向かう。

マネタリストの交換方程式ではM貨幣供給量からP物価に向かうことになるが、PKではこの交換方程式にマークアップの関数が乗っかり、また内生的貨幣論からみて貨幣供給は実質産出量の変数に依存するため、実質生産量から貨幣供給量へと向かう。

PKは期待などを通じて機能し貨幣の増加率の縮小が直接にインフレの減速をもたらすような市場メカニズムは存在しないと主張する。

 

価格が賃金費用にマークアップを付加して設定されるならば労働市場における名目賃金の調整は実質賃金を減らす効果を持たず、失業の減少のための古典派的な状況を生み出さない。

マークアップ価格形成下にある場合、まさに見てきたように物価水準は生産システムの内部において賃金やその他の主要な費用に利潤マージンを付加するという過程によって決定される。このとき貨幣供給は創出された名目取引需要を満たすように調整される。

物価は賃金とともに上昇したり下落したりするが、貨幣供給の変化は主に実質産出量の変化と費用ベースのインフレ圧力の反映であって原因ではない。

物価は賃金とともに上昇したり下落したりするので名目賃金の変化は一般的に実質賃金の変化を引き起こさないであろう。

PKの見解によれば、貨幣賃金をより伸縮的にすることが実質賃金をより伸縮的にすることにはならないであろう。集計的な物価水準の決定要因(実質賃金の分母)を貨幣賃金の決定要因(実質賃金の分子)から切り離す実際的な方法はない。貨幣賃金の変化が実質賃金に影響を及ぼさないのであるから、貨幣賃金の変化は失業を減らすことができないのである。

 まとめ 


PKの価格理論はマークアップ価格形成に基づく慣性理論である。貨幣供給の管理が実際には貸付を抑制するので、貨幣供給の管理による物価コントロールの試みは成功しない。マークアップ価格形成の場合、賃金水準が価格水準に大きく影響する。名目賃金の低下が実質賃金の低下につながらない。したがって、名目賃金が低下しても失業は低下しない。


ジェームズ・K・ガルブレイスの「現代マクロ経済学」より抜粋。


 以下アイクナーのポストケインズ派経済学入門から抜粋 

 

PKは市場をカレツキ的に二つに分ける。

伸縮価格市場と固定価格市場である。

伸縮価格市場は主に原料および1次食料品の取引に関する市場である。

この市場は供給と需要の関係で価格が設定される。

伸縮価格市場においては価格が買い手の需要水準に依存しつつ調整されるが、固定化価格市場においては需要の変化は主として産出量の変化によって満たされ、価格は相対的に変化を受けずにいる傾向がある。

PKは現代資本主義経済の民間企業部門のはるかに重要な部分は第二の形態の市場であると主張する。

この部門内の諸産業は構造上ほぼ寡占的であり、その市場支配力とその製品の供給諸条件によって期待される売上高から、その計画される投資支出を賄うことができるほど十分な留保利潤を生成するように、価格を設定できると考える。

PKは寡占企業の価格設定行動は投資支出の目的のための内部的源泉から生じる資金に対する需要によって説明されうると主張する。

正常生産費用を超えて利潤マージンを設定し、望む投資支出のほとんどを賄えるキャッシュフロー(減価償却引当金+留保利益)を生成することができるようにする。

 

すなわち、価格の動きは内部的に生成される投資資金に対する企業の要求額および正常生産費用の動きに依存する。

 

マークアップは計画された投資支出を賄う必要性と直接に結び付けられている

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