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映画みたいなドラマチックさはないけれど、小さいアクションが地球を守る

天王洲のマーケットでたまたま見かけた動物がプリントされたTシャツ。可愛さのあまり、店主に声をかけてみると、予想外の想いに触れ、思わず「お話きかせください」と申し込んでしまった。

何か物を新しくつくることは、少なからず廃棄物を生み出すことにもなる。それでも「子供達に意識を向けて欲しい事柄がある」と思い立ち、映画業界からアパレル業界へ足を踏み入れた村山いずみさん。できるだけ環境負荷がかからない方法で服をつくる子供服ブランドZoologia(ズーロジア)の立ち上げに至った経緯やブランドに込められた想いをお伺いしました。

▼プロフィール
村山いずみ/Zoologia 代表
映画配給会社で洋画のPRに従事していたが、出産がきっかけで働き方を見直す。子供が9歳になるタイミングで子供といる時間を増やしたいと思い退職し、Zoologiaを立ち上げる。小さい頃から気になっていた地球の環境問題を自分なりの形で世の中に提案している。


リサイクル少女誕生!

「地球って、危ないんだ……」

小さい頃から読書好きだった村山さん。たまたま手に取った黄色い表紙に地球が描かれた本。その本がその後の人生に大きく影響することに……。

小学校の卒業文集に書いた将来の夢は「環境庁ではたらくこと」。絶対に紙は捨てずリサイクルし、瓶・缶の仕分けにうるさい子供だった。

ブラジルで開催された「地球サミット」がニュースで流れる頃、中学2年生になる村山さんは環境に関する本についていた葉っぱ型の葉書に、習いたての英語で自分ができるアクションを書いて送った。「これ絶対やる!」という強い気持ちが、少女のペンを走らせていた。

小さい頃の思い込みは純粋で強い。「これで地球が変わるんだ!」と信じ、家でも学校でもリサイクルをはじめとした、身近にできる環境保護活動を熱心に行なっていた村山さん。それは大学まで続いた。

「よく友達に『リサイクル、リサイクル言ってたよねっ』て言われます。多分、今でも言われると思います。笑」

映画が世界の価値観を教えてくれた

そんなリサイクル少女のもう1つの興味は、映画の世界に向いていた。

「特に洋画が大好きで、そこに描かれているさまざまな価値観や国の状況とか。見たことがないものを見せてくれる映画の世界が、たまらなく好きでした」

お小遣いをはたいては海外雑誌を買い、読みあさり、洋画に没頭する日々を過ごしていた学生時代。日本とは全然違うカルチャーへの憧れが彼女の心をワクワクさせた。言語の壁も苦にならない程に。

「朝4時ぐらいにパッと目が覚めて、辞書片手に雑誌のテキストとかを訳していました。『は〜こういうことか〜』って意味がわかるのが快感でした」

そんな少女も大人になるにつれ、何かを選択する時がやってきた。

「国際機関の方にいくか、映画業界へ行くかの2択は、ずっと頭の中にありました」

結果、映画関係で働きたい思いが強くなり、映画配給会社へ就職。

今しかない子供との時間を大事にしたい

1日中映画に浸っていられる映画配給会社での仕事は、村山さんにとっては夢のような仕事だった。大変だけど貴重な経験を幾つも体験し、幸せな日々を送っていた。ところが、結婚し子供が産まれ、考え方が次第に変わっていった。

「『お母さんいるの?』って言われるぐらい学校行事に参加していない状態でした。私は仕事で楽しくても、子供にとってはどうだろう?と思い始め、私自身も娘と一緒に歩んでいきたい気持ちが強くなり、会社を辞めました」

多くのお母さんは子供が小学3、4年生になる頃には仕事復帰することが多いが、村山さんの場合は逆だった。生まれてすぐから9歳ぐらいまでの間を仕事に専念させてもらった分、これから先は子供との時間を優先するスタイルを選択した。

心に余裕が生まれると、眠っていた思いが芽を出した

スケジュールの調整が自由になり、真っ先に頭に浮かんだのは、環境に対するアクションを起こすことだった。

「とりあえずやってみるか!って。目的が海の向こうなのに、とりあえず自転車で出かけちゃったみたいな感覚でスタートしちゃいました。笑」

「赤ちゃんの服は環境に配慮したオーガニックコットンの服とか、沢山選択肢があるけど、大きくなるとファストファッション寄りの服が多くなります。980円で買ったこの服は、どこかの国で誰かが一生懸命ミシン踏んで作ってるんだろうなって想像してしまい、それにすごい疑問を感じていました」

子供服は自分自身も困っていた部分でニーズは感じていた。圧倒的にヨーロッパではエシカルファッションが根付いているが、日本ではまだまだ選択肢は少ない。

「日本でも環境負荷に配慮した洋服が増えたら、もっと日常的に地球環境への意識が高まるのに」

環境への思いが子供服と繋がった瞬間だ。

ゴミは出したくないけど、知って欲しいことがある。不安と葛藤が入り混じる日々

実は映画の仕事をしているときも、常に環境問題に対する思いは忘れたことはなかった。

 「どれだけ経っても環境問題に対する認識が世の中に浸透しないことや、どんどん悪化していく状況……。いろんな技術は開発されているけれども、人の気持ちがそこに向かないことはずっと気になっていました。」

「モヤモヤ感をぬぐい去れなくて、自分なりにアクションを起こしてみたのが『Zoologia』です」

元々好きだったヴィンテージの博物画を使用した子供服で、無理のない方法で子供たちに日常的に絶滅危惧種の動物たちへの認識を深めてもらい、地球環境について思いを馳せてもらいたい。こうして 「Zoologia」が始まった。

ロゴには絶滅危惧種の抽象的な存在の虎が描かれている。虎は子供たちにも人気の動物でもあるが実は世界に数千頭しか残っていない。


突然子供服ブランドを始めたように見えるかもしれないが、村山さんの中では必然だったかもしれない。 だが、環境のことを考えると服を作ることには葛藤はあった。

「事業を存続させるには大量生産してセールを行い、シーズン毎に新作を出して、服をどんどんつくって回していくのが常かもしれない。けど、大手ブランドと同じ所を目指してしまっては、自分も環境破壊に負担してしまう事になる」

「できるだけ作った服は1枚も捨てず、極力セールもせず、常に何かが在庫切れの状態だとしても、それでもいいかなって」

端切れでつくったシュシュ。余った布は全て引き取り極力ゴミを出さない。

断られても、断られても、諦めない

服作りは全く初めて。ハードルはもちろんたくさんあった。

「問い合わせしても返事がなかったり、『そんなのできるわけない』って断られるのは日常茶飯事でした。でも、その躊躇感でやめちゃうのは勿体ないなって」

断られるのはこれまでの仕事で慣れっこだった。そんなことで放り出すような浅い思いではない。

「そんな中でも、今の縫製会社さんや生地会社さんが手を差し伸べてくださり、すごく良くしていただいて。こんな小さな存在の無名の私に手を貸してくれたんです。本当にありがたい」

一番初めに出来上がったのは、キリンとワオギツネザルがプリントされたTシャツとサンゴのスカート、フラミンゴのジャンプスーツだった。

「もう、本当に最悪駄目だったら全部フリマで売ろうと思っていました」

何かを作って世に出すということは、自分の価値観をお披露目することともいえる。もし受け入れられなかったら……想像するだけでも心が痛い。幸いにもインスタから購入してくれる方が現れ、徐々に売れていくようになった。

続けることが一番大変

今後はプロのデザイナーさんに服のデザインをお願いし、クオリティー面もさらに良くしていきたいと話す。すでに冬には、シロクマをイメージした服に挑戦しており、シロクマコートが出来上がる予定だ。

「ちゃんと収益を上げて、寄付金をしっかり賄って、ちょっとした保護動物の保護区エリアを日本のどこかにつくるのが究極の夢です」


海の向こうに行くつもりで自転車で駆け出してしまった旅だが、ゆっくりながらも海を越える準備をしている。2020年の11月末から活動を始め、これから3年目に突入する。

「意外と何かを始めるのは、無謀にやろうと思えばできちゃいますけど。続けることって本当に大変」

不安なことばかりだけど、小さい頃に抱いた思いを、大人になって自分なりの形でアクションできるようになった村山さん。これまでの全ての経験が今に繋がっているように感じる。

最後に、環境問題は人の関わりから変えられることがあるとも教えてくれた。

「“優しさ”っていうシンプルなものが一番大きい武器だと思うんです。みんなの中に、優しさがあれば環境問題への意識も然り、戦争とか犯罪も起きないのにって」

「一人ができることは限られているけど、みんながちょっとずつ何かをすれば、すごく大きな変化に繋がるんじゃないかって信じています」



大きすぎて忘れてしまいがちな地球のこと。少しだけ気にすることができたら数十年後、数百年後の地球がちょっと良くなっているかもしれない……


村山いずみ / Zoologia代表

普段着を通じて、地球上に生きる動物たちへの興味と理解を深めることを目指す、子供服ブランド「Zoologia(ズーロジア)」。環境負荷の少ない素材と服づくりを行い、売上の5%を野生動物/環境保護団体へ寄付を行う。

WEB https://zoologia.theshop.jp/
Instagram @zoologiaworld


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