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ショッピングモールの賃料(家賃)の仕組み

ニュースでショッピングモールが賃料減免を決めた、というのが報じられていますね。

新型コロナウイルスの感染拡大で、商業施設に入居する飲食店などテナントへの賃料減免が焦点になっている。イオンモールなどは4月分の賃料の減額を決めた。優良テナントを囲い込み、競争力を維持する狙いがある。対照的に中小企業や個人所有のビルは資金力が乏しく、賃料の減額をためらう傾向が目立つ。施設の運営会社やオーナーの減収を補う措置を求める声も出ている。
[「テナント料下げ、渋る中小不動産 資金力不足でコロナも打撃 大手は支払い猶予・減免」日本経済新聞 2020年4月10日]
https://www.nikkei.com/article/DGKKZO57890390Z00C20A4TJ2000/
セブン&アイ・ホールディングス傘下のイトーヨーカ堂は13日、運営店舗に入るテナントの3月の賃料を減免すると発表した。新型コロナウイルス感染拡大に伴い、営業時間の短縮や一部休業を実施している。テナントの売り上げも減少するなか、賃料減免で各店の経営を下支えする。4月分の賃料は売り上げ状況を分析しつつ、改めて対応を判断する。
[「イトーヨーカ堂、3月のテナント賃料減免 158店で」日本経済新聞 2020年4月13日]
https://www.nikkei.com/article/DGXMZO57976350T10C20A4HE6A00/

そんなニュースを見ていて思ったのが、いわゆるショッピングモールの賃料(家賃)がどういう構造になっているか、というのはあまり一般的な知識でないのではないか、ということです。
賃料水準といった話は各社の企業秘密ですから書けませんが、ショッピングモールにおけるテナント賃料の基本的な考え方と構造について、いい機会ですので整理してみたいと思います。

※以下では貸主をデベロッパー、借主をテナントとして記載します。
※以下で記載するショッピングモールは、大規模なショッピングモールを前提に記載しています。小規模なショッピングモールの場合は、一般的な不動産賃貸借と同様に設定している場合が多いです。

一般的に「賃料」「家賃」と言った場合、イメージしやすいのは、自宅が借家である場合の家賃だと思います。月々支払うものですね。
ショッピングモールにおいても、テナントがデベロッパーに賃料を支払います。ただ、その賃料の決め方と支払い方法はいくつかのパターンがあります。

1.賃料の決め方…「歩合賃料」と「固定賃料」

ショッピングモールにおける賃料は、大きく2種類の決め方があります。それが「歩合賃料」と「固定賃料」です。(会社、業界により色々な言い方があるので、私の言い慣れている言葉で以下書いていきます)

歩合賃料」とは、テナントの売上高に一定の割合を掛けた金額を賃料とする、という決め方です。例えば、歩合賃料で「10%」のテナントが月に「100万円」売上を立てたら、その月の賃料は「100万円*10%=10万円」になります。もし翌月そのテナントの売上が「50万円」ならば賃料は「5万円」です。

この歩合賃料をなぜ導入するのかというと、デベロッパーとテナントがともに「テナントの売上拡大」という目的を共有できるからです。歩合賃料を設定していれば、テナントの売上が拡大するとともに、その分デベロッパーにも多くの賃料が入ってきます。そのため、デベロッパーとテナントが協力して、テナントの売上を拡大するように動くインセンティブが生まれます。
こういった性質から、歩合賃料はショッピングモールの大半を締めている物販、飲食といったテナントに導入されています

歩合賃料を設定しているテナントの売上が0円だったらどうなるの?という疑問もあるかもしれません。そういった事態に対応する「(売上)最低保証」などと呼ばれる仕組みがあります。最低保証とは何かというと、月や年当たりの売上高が一定額より少なくなった場合は、その一定額の売上があったものとみなして賃料を計算する仕組みです。
先程と同じく、歩合賃料「10%」のテナントを例に挙げると、月の(売上)最低保証が「100万円」と設定されていれば、たとえ「50万円」しか売上がなくても賃料は「10万円」になります。
なぜ最低保証を設けるかというと、デベロッパーはまず何よりショッピングモールを建てるときの費用の回収が必要です。建てるときにローンを引いていることもあります。あるいは建物を別の会社に建ててもらい、デベロッパーも建物オーナーに賃料を払っている場合があります。それらの回収リスクをヘッジする、あるいは支払いを全うするために、最低保証を設定することで、最低限の家賃は確保しています。(もちろん、デベロッパーも事業体としての最低限の収入を確保しなければいけない、という事情もあります。)

※最初に引用したニュースで「賃料減免」と言われているものは、ほとんどがこの最低保証の撤廃、すなわち売上が低ければその分賃料を少なく取る、ということです。
「4月以降、イオンモールやルミネ(東京・渋谷)といった大手商業施設の運営会社で、賃料を減らす動きが目立つ。イオンモールは同社が運営する全国142施設を対象に、入居テナントが売上高にかかわらず支払う「最低保証分」の賃料を減らす。ルミネも3月分を半分にする。
[「テナント料下げ、渋る中小不動産 資金力不足でコロナも打撃 大手は支払い猶予・減免」日本経済新聞 2020年4月10日]
https://www.nikkei.com/article/DGKKZO57890390Z00C20A4TJ2000/

一方の「固定賃料」とは、歩合賃料と違って、売上などの要素に関係なく毎月変わらない賃料です。固定賃料10万円/月のテナントならば、100万円の売上でも、50万円での売上でも、支払う家賃は10万円/月です。
固定賃料は、売上額を高めることが目的でないテナントに導入されやすいです。例えば病院がそうです。病院が売上至上主義になったら嫌ですね。(なお、一部では、前述の最低保証の部分の賃料のことを固定賃料と呼ぶこともあります。)

歩合賃料を導入しているテナントと比べると、デベロッパーは固定賃料のテナントの売上に興味は薄れます。勿論、長く商売をしてもらうためには事業の成立が必要で、テナントの事業は売上が立って初めて成り立つ(そうでないテナントもありますが割愛)ので、まったく売上拡大に協力しないわけでありません。ただ、自分の実入りが増える歩合賃料のテナントの売上と比べると、どうしても優先順位が下がります。
ショッピングモールにおいて売上の拡大を求めないテナントは構成比が少ないですから、固定賃料を導入しているテナントは自ずから少数派となりますが、核店舗(キーテナント、アンカーテナント)と呼ばれる食品スーパー、General Merchandise Store(GMS…イオンやヨーカドーなどの総合スーパー)や百貨店などに用いられることがあります。この理由は最後に触れます。

2.賃料の支払い方法

賃料の支払い方法は、一般的な支払い方法(請求書払いなど…)と、テナントの売上をデベロッパーに預け、デベロッパーは賃料を含む諸経費を差し引き返還することにより支払いを精算する方法(「売上預かり」などと呼ばれます)の2種類があります。

前者の一般的な支払い方法についてはあまり説明のしようがないですが、敢えて言うなれば前払いを求めることが多いのが特徴かもしれません。なぜならば、後払いにしてしまうと、テナントが建物を使うだけ使って支払わないで逃げられてしまう可能性があるためです。
デベロッパーにとって建物というのは自らの売上の源泉ですから、それが機能しない(=収益を上げない)というのは死活問題であるためです。

後者の「売上預かり」の方法は具体的に以下のようなやり方です。

①テナントは、手に入れた売上金を、日々デベロッパーの銀行口座へ入金します。
②デベロッパーは一定期間のテナント売上金をまとめ、その期間の賃料や諸経費を計算して差し引くことで精算します。
③②で残った額をテナントの銀行口座に振り込んで返還します。

この方法ならば、家賃を払わずにテナントがデベロッパーから逃げることはほぼ不可能です。(家賃を支払うに足りない売上しか立てなければいいのですが、大体の場合そのような売上だとそもそもテナントの事業が成り立ちません。)
また、歩合賃料を導入している場合、売上金をすべてデベロッパーが預かる形にすれば、正確な売上を把握することができ、正しく賃料計算をすることができます。この点から、歩合賃料を導入しているテナントは基本的に売上金をデベロッパーに預けることが決まっています。

尤も、売上を預けなければいけないテナント側からすると、日々の資金のやりくりにはかなりの負担がかかります。特に個人事業主など小規模な事業体は、日々の現金をデベロッパーに握られ現金の回転が悪くなることから、売上を預けるのはかなり難しいものと考えられます。そのため、ショッピングモールに入店している地域の名店といった個人事業に近いテナントは、本店を別に持っていて、支店としてショッピングモールに出店する場合が多いようです。
もっとも、日々の売上金管理をデベロッパーにまかせてしまうことができるので、その点ではテナント運営が簡易になっているともいえます。

なお、1.の固定賃料で言及した核店舗が歩合賃料を導入せず固定賃料を導入していることが多い理由としては以下のものが考えられます。
①核店舗はその集客力や機能から、デベロッパーからお願いされて出店する場合が多い。日々の現金をデベロッパーに握られるという条件を飲んでまで出店するということがない。
②規模が大きいので自ら売上金管理ができる。
③核店舗はデベロッパーと協力せずとも自ら売上を拡大する能力がある(そのため固定賃料でよく、固定賃料ならば売上を預ける必要がない)。

長文になってしまいましたが、概観を掴んでいただけるような内容になっていますでしょうか。
またショッピングモールに関係して気になるトピックがあれば、自分の脳内の整理も兼ね、記事を書いてみたいと思います。

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