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ショッピングモールと芸術

ショッピングモールというと、現代の消費社会の権化というか、商業そのものという風に見られることが多いと思います。
しかし、消費社会の真逆とも言える芸術の世界とも、ショッピングモールは関わりを持つようになっています。
そんな事例を備忘として残していければと思います。取り上げている事例の他にも多くの事例があると思いますので、読まれた方で事例をお持ちの方はぜひコメント欄に記載ください。

1.ショッピングモール「で」扱われる芸術

ショッピングモールそのものの機能の中心である消費の場としては、衣料品、雑貨、食品、飲食、といった種類のものが代表的ですが、芸術作品がショッピングモールで売買されるという事例も出てきています。
芸術を扱うテナントやイベントという視点で、事例を記録してみようと思います。

(1)YellowCorner

https://www.yellowkorner.jp/

アートフォトと呼ばれる芸術写真の販売店です。本記事執筆現在、東京ミッドタウン日比谷とニュウマン横浜に実店舗があります。(個人的に東京ミッドタウン日比谷の店を数度利用しました)
東京ミッドタウン日比谷は都市型かつ高感度の小規模なショッピングモールであり、ニュウマン横浜は規模こそ大きいですがルミネ横浜との棲み分けの視点からも高感度なテナントMDとなっており、つまりどちらの店舗も高感度なモールへの出店です。

数々のアーティストが撮影した写真や写真をもとにしたコラージュ作品が展示されており、店舗の規模は小さいですが直接写真を手にとって見られるような陳列(レコードショップの陳列をイメージされるとわかりやすいです)なので、商品の在庫数は結構なものがあります。
これはショッピングモールで機動的な出店ができる業態ではないかと注目しているのですが、扱う商材の性質からか、多店舗展開を積極的に進めている様子はないです。


(2)正光画廊

正光画廊は、関東から東北にかけて10店舗を路面店・ショッピングモール内店舗として展開している画廊です。一部店舗は無人画廊形式で営業しており、ある意味気軽に絵画に触れることができるタッチポイントとしての機能を果たしています。

(3)芸術祭(書道コンテストとか)

ショッピングモールは各地域において地域のコミュニティの中心を担っている事例も多く、そういった施設では芸術祭の会場としてショッピングモールを活用している事例も聞きます。
先日香川へ旅行した際は、有名な瀬戸内国際芸術祭の一部展示がイオンモール高松でも行われていました。
また、全国チェーンのショッピングモールを活用して全国大会を開催しているという事例もあります。

イオンモールでは、全国高校書道パフォーマンスグランプリ、というものを開催していたようです。

(4)仮囲い壁

ショッピングモールの空き店舗(空床)は仮囲いと呼ばれる一時的な壁で隠されることが多いですが、その壁を活用して、美術系の学生やアーティストへ発表の場として提供しているという事例も見聞きします。
仮囲い壁という性質上、一時的な設置になってしまうのと、仮囲いというものに対するデベロッパー側のアレルギー(空き店舗を示すことになるから)からか、聞いた覚えはありつつも事例が調べても出てきにくいですね。。


2.ショッピングモール「を」扱った芸術

ショッピングモールという場や、ショッピングモールのブランド、あるいは生活の場としてイメージされるショッピングモールの概念事態を、芸術で取り扱う事例も出てきました。
百貨店とくらべ、より庶民的な存在であるショッピングモールは、もしかすると大衆芸術とは繋がりやすいのかもしれません。

(1)短歌

このような記事をいつか書きたいと思わされたきっかけが、短歌研究社「短歌研究」2019年10月号で掲載された、現代短歌評論賞を受賞した土井礼一郎氏の「なぜイオンモールを詠むのか――岡野大嗣『サイレンと犀』にみる人間性護持の闘い」です。
この評論は短歌に含まれる「イオンモール」という語の扱われ方を、岡野大嗣という歌人の言葉の遣い方を通じて検証したものですが、商号としてのイオンモールというよりは、各個人の心の中にあるショッピングモール(それは同じようであって、実際はそうでない)が描かれているということであるようです。
この評論を読むと、現代の生活にショッピングモールが物質的な意味だけでなく精神的な意味でも溶け込んでいるということを、短歌を通じて感じることができます。


(2)舞台劇

先日まで神奈川芸術劇場で上演されていた『ライカムで待っとく』という舞台は、イオンモール沖縄ライカムという、米軍基地(正しくは米軍用のゴルフ場)跡地にできたショッピングモールを象徴とし、沖縄と本土との関係性をショッピングモールの売り場とバックヤードとの対比になぞらえたストーリーとしているそうです。(見に行くべきだった…。もし見られた方居たら、是非感想をお聞かせください

(3)アニメ

いわゆる「聖地巡礼」の対象になるような意味でショッピングモールが舞台になる事例は多くあるのですが(すなわち背景としてショッピングモールが登場する)、主な舞台としての登場というのは珍しいのではないかと思います。
この劇場アニメ『サイダーのように言葉が湧き上がる』は、イオンモール高崎が舞台になっています。
どのような経緯で舞台が選ばれたのかまではわかりませんが、地方で暮らす若者を描くのにショッピングモールが必須となった、というふうにも見えます。

(4)漫画

『生き残った6人によると』は、ゾンビものの映画あるあるのショッピングモールで籠城するという話を、日本において、かつ、ラブストーリー?と絡めて描いている作品です。漫画版でモデルになっているのはイオンモール幕張新都心のようです。(テナントの配置などは編集されている様子)また本作は実写ドラマ化されていますが、モザイクモール港北がロケ地となり、ショッピングモールでサバイバルをする、という原作の設定が現実に再現されていました。連載継続中。

『われわれは地球人だ!』は、「腰ヶ谷駅」直結のショッピングモール「パンゲア」に迷い込んだ女子高生3人が、何故かそのショッピングモールが宇宙船となり飛び立ってしまうところから始まる冒険漫画です(なのでしょうか。というか腰ヶ谷て。)。
なんでもあるショッピングモールというところから宇宙生活は楽しく進むわけですが、宇宙船はいろいろな星に降り立っていきます。連載継続中。

(5)モールの写真集

ショッピングモールの内外観を記録する試みは、商業施設めぐりという領域(主眼は施設を周ることであったり、その施設の運営者であったり売り場であったりという範囲)で先行していたように感じますが、小野啓氏は外観を写真芸術として収める取り組みをし、写真集まで出版しています。
(デベロッパーの立場からすると、屋内の撮影はちょっと受けがたいのですが、そのあたりどうなっているのか気になります。)

※今回のまとめとは少しずれますが、日本橋高島屋で行われている展示「百貨店展」では、百貨店の外装を建築の視点から評価しており、そこではどちらかというと質素な外観であるショッピングモールとの対比も行われています。それは徒歩と車という来館手段の違いにより、外観をどれだけ重視するのかの差がある、ということが理由として挙げられていました。私はその考えは否定しないものの、より顧客が商品重視(それは質というより価格)、体験重視(映画館や遊び場など)になった結果なのではないか…と考えています。2023年2月12日まで開催しているので、興味のある方はぜひ。

3.まとめ

ショッピングモールはインフラのようなものだと思っていますが、それが生活に根付いていくと、このように色々な知的活動とも関わってくるのだなという面白さがあります。
ショッピングモールはそれそのものが装置として芸術の題材になり得るとともに、芸術を振興する場としても機能するはずですから、いわゆる商業的な側面(商品の販売、飲食・サービスの提供)にとどまらないショッピングモールの運営が期待されます。




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