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ルービックキューブ等立体パズル自作の指南書

ルービックキューブとものづくりとプログラミングが大好きなにゃにゃんです。

誰もが一度はルービックキューブを作ってみたいと思ったことが…ないかもしれませんが興味はありますよね……?

現在、特に競技用のルービックキューブ(*1)は主に中国の企業で開発・生産されています。そしてその設計や製作に関する情報はもちろん企業秘密なことが多いです(*2)。

ところで私はオープンソースが大好きな人間です。生涯をかけてものづくりを民主化したいです。なにか「これを作りたい」と思った時はスムーズにそれを作る行動へと繋げられる社会を作りたいのです。

ということで、今回は私の持っている自作立体パズル(*3)に関するノウハウを言語化します。

ここから少し前置きを書きますが、「前置きはいいから早く本編が読みたい!」という方は下の目次の「ここから本編です」に飛んでください。

これまでに作った立体パズル

これまでに私は4種類、計15個くらいの立体パズルを作ってきました。

iOS の画像(30)

2x2x2ルービックキューブ、3x3x3ルービックキューブ(中に電子回路を組み込んで回すと音が鳴るようになっています)、そしてFace Turn Octahedronという種類のパズルです。

上の写真よりも5世代前ですが、2x2x2ルービックキューブ「巧克5M」は製作の様子をnote記事にしてこの記事の執筆時点で125スキをいただきました!

中に電子回路を仕込んだ3x3x3ルービックキューブの動画です。


この記事が参考になるであろう事例

この記事は単に立体パズルを作るだけでなく、回しやすい立体パズルを作ることに焦点を当てています。

もちろん単に立体パズルを作るのにも参考になるとは思いますが、回しやすいパズルを作るとさらに幸せになれると思います。


ここから本編です

目次から簡単に飛べるようにしただけです。


前提 1. 競技用立体パズルの回しやすさ

競技用立体パズルを触ったことがない方は驚愕するようなスピードで回ります。世界レベルで見たら全然速くないですが、私が競技用ルービックキューブを解く動画を貼っておきます。


前提 2. 立体パズルの仕組み

立体パズルは全てパーツ同士の組み合わせでその形状を維持しています。

例えば私が作った2x2x2ルービックキューブの内部はこのようになっています。

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正方形の角を丸くしたような形をしているパーツ(センターパーツ)にネジを入れてパズルの中心にくるパーツ(コアパーツ)と固定します。それ以外のパーツは固定されておらず、噛み合わせによって形状を維持しつつ回転させることができるようになっています。

立体パズルを設計する時間の多くはこの噛み合わせ方を考える時間になります。また、立体パズルの回しやすさはこの噛み合わせに強く依存します。


前提 3. 競技用立体パズルに共通する回しやすさの真髄

競技用立体パズル(信じられないほど回しやすい)には、共通した回しやすさの真髄があります。それは、曲線的なデザインバネによる柔軟磁石によるアシストです。

実際に記事執筆時点で世界最高の性能を持つと言われる市販の競技用ルービックキューブの内部を見てみましょう。

iOS の画像(31)

パーツが曲線的なことがわかると思います。

そして、パズルの真ん中のパーツ(センターパーツ)の中にはバネが入っていて、バネの力でパーツ同士を押し付けています。

さらに、写真の右から2つ目のパーツ(コーナーパーツ)には丸い銀色の物体がついていますね。これは磁石です。この他の位置にも見えにくいですが磁石が入っています。

では実際にこれら3つの特徴がそれぞれどんな役割を担っているのか解説します。

曲線的なデザインは、パズルの引っかかりを軽減します。上で話した「噛み合わせに回しやすさが依存する」という話もここに含まれていて、多少無理な回し方をしてもパーツが干渉せず、回ってくれるようになります。

バネによる柔軟は立体パズルの柔軟性を高めつつパズルが崩壊するのを防ぎます。もし曲線的なデザインをしていても、ギチギチにネジが締まっていてはそのデザインを活かせません。また、ネジを緩めるだけではパーツ同士の噛み合わせが浅くなり、パズルがすぐ崩壊してしまいます(*4)。

磁石によるアシストは競技用立体パズル設計で一番新しい発想で、2018年くらいに出てきたものです(*5)。立体パズルは基本的に決まった角度(ルービックキューブなら90度)ずつ回しますが、その角度を回すたびに磁石でクリック感を出すようにすると格段に「安定感」が増します


前提 4. この記事で想定される加工方法

この記事では3Dプリンタ(*6)を使って立体パズルを作ることを前提にします。

個人で立体パズルを作る人の多くが3Dプリンタを使うと思うことと、そもそも私が3Dプリンタで立体パズルを作っているからこのような前提になっています。

量産したりするとなるとまた別の成型方法になると思います(*7)が、そうすると少し設計方法が変わるので適宜読み替えてください。


設計 1. パーツの種類を決定する

立体パズルは複数のパーツによって構成されているので、まず構成するパーツの種類を決定します。立体パズルはパーツ同士の複雑な噛み合わせによって成り立っているので、自力でゼロから考えるのは結構大変です。

完全に新たな種類のパズルを作るにしても、既存にある種類のパズルを作るにしても、既存の立体パズルをたくさん分解する(*8)と、基本的なパズルの仕組みがわかり、それを流用するなり応用するなりできると思います。

このパートばかりはどんな立体パズルを作るかによって話が大きく変わってくるのでここでは詳しく触れませんが、とにかく先人に学ぶのが手っ取り早いです。私に相談してくださっても結構です。連絡先は以下にまとめました。TwitterのDMが一番素早く反応できます。

https://nyanyan.github.io/ja/#contact


設計 2. パーツの形状を考える

このパートが最も大事で、最もうまくいきません。製作まで一通りやったらぜひ課題を見つけてまたここに帰ってきてください。ここからはじまるループを何回か回すと(*9)良いパズルが出来上がると思います。

このパートも先人に学ぶのが手っ取り早いですが、ただただコピーするだけではコピー品ができるだけですし、それでは新たな種類の立体パズルを作ることはできません。どのような噛み合いがどのような効果を持っているのかを理解するのが大事です。

また、特に回しやすくするための曲線的なデザインについては深い理解がないとその形状の意味がわからないことがあります。その場合はとりあえずその形状を省いて設計してみて製作まで一通りやってみると、その形状の意味がわかったり、逆に「この形状意味ないじゃん!」とわかったりします。

とりあえず最初は洗練された必要最低限のシンプルな形状を意識すると良いと思います。それで一通り作ってみてから「ここをこうした方が良いな」というアイデアを付け加えていくのをおすすめします。

設計の際には下に書く汎用的なTIPSが参考になると思います。


設計TIPS 1. 内部は少し小さく設計する

立体パズルを設計しているとなんとなく中心を共有する複数の球体を基調とした設計になると思います。画像のような感じです。

画像4

その際、中心に近い部位の同じ球面上にあるパーツ同士の接地は少し(最大でも0.4から0.5mmくらい)遊びを持たせて設計すると実際に製作したときに全体がうまく引き締まります。この定数については目安として、実際に作りながら試行錯誤してみてください。

なお、違う球面上にあるパーツ同士の接地は常に0.2mmくらい遊びをもたせると良いです。


設計TIPS 2. 接地面を少なくする

基本的に立体パズルはパーツ同士の接地面が大きければ大きいほど回転が重くなってしまう(回転がもっさりするというか、動摩擦を強く感じるようになる)傾向があります。

パーツ同士の接地面は、噛み合わせが安定する範囲で小さくするように設計すると良いと思います。

既存製品でも、パーツの接地面にハニカム状の凹凸をつけたり、そもそも内部パーツの接地面で力が集中しない部分は線で接地するようにしたりしています。


製作 1. 材質

材質はABS一択だと思います。市販の立体パズルもABS製ですし、硬さ、摩擦の大きさなどなど特性が立体パズルに向いています。


製作 2. 部品出力の設定

3Dプリンタ、特にこの記事で前提としている熱融解積層方式の3Dプリンタでは、部品を出力する向きや温度、造形速度、造形ピッチなどによって部品の強度や造形の精度が変わります。ある程度は以下のTIPSにまとめますが、これも試行錯誤が必要です。


製作TIPS 1. 出力の向きに対称性を意識しすぎない

3Dプリンタでは部品の向きによって強度の高い向き、低い向きができます。そして立体パズルのパーツには線対称や点対称など、対称性を持ったパーツが多いです。

この対称性にこだわりすぎて向きを考えると、どうしても造形が難しくなってしまい、造形精度が下がることがあります。そのような場合はあまり対称性を意識せずに、造形しやすい向きに部品を置いてみると良いです。


製作TIPS 2. 強度を高める

ヘッド速度は遅めに、ヘッド温度は高めに設定すると造形物の強度を高められることが多いです。やりすぎは危険ですが、検索すると色々記事が出てくるので、時間の制約などで妥協もしつつなるべく強度が高くなるように設定を模索すると良いです。


製作TIPS 3. 造形ピッチはある程度小さければそれで良い

造形したものを後処理なしでそのまま使用することは絶対になくて、後でやすりがけをして表面をなめらかにするので、造形ピッチを必要以上に細かくする必要は全くありません。具体的には0.16から0.2mmくらいあれば十分だと思います。


製作 3. やすりがけ

造形物はそのままではガタガタしているので、やすりがけをして表面をなめらかにします。この工程を怠るとどう頑張っても回しやすい立体パズルは完成しません。ただ、設計に問題がないか、具体的には干渉なく回るかを確かめるくらいであればこの工程はスキップしても良いと思います。

私の場合は80番くらい、200番くらい、400番くらい、800番くらい、1500番くらい、2000番くらい、の順番でやすっています。

やすりがけに関するTIPSを以下にまとめます。


製作TIPS 4. 平面のやすりがけは注意

曲面のやすりがけはリューターなどでやると良いと思いますが、平面は紙やすりがメインになると思います。

大きく分けると、机に紙やすりを敷いて手にパーツを持ってやする方法と、机にパーツを固定して手で紙やすりを持ってやする方法があると思います。

前者は平面がきれいに出ますが、力を均等に加えないと平面の角度がずれてしまうことがあります。

後者は平面の角度に気を使ってやすりがけができますが、平面が少し丸くなってしまうことが多いです。丸くなるとそれはそれでパーツ同士の接地面が減って良い場合もありますが、多くの場合は接地が不安定になってしまいます。

2つの方法を交互に使うなりしてうまくデメリットを消す必要があります。


製作TIPS 5. やすりがけは均等に

「最初のパーツはやる気もあって一所懸命やすりがけしたけどだんだん面倒になって最後の方は少ししかやすっていない」なんてことが起きる人もいるでしょう。何を隠そう私もその一人です。これではパーツごとの大きさに微妙なばらつきが出てよくありません。

やすりの番目はパーツ全部をやすりがけしたら変えるようにしたり、全部とりあえず手を抜いてやする、など工夫してこの現象を回避しましょう。


製作 4. 組み立て・潤滑

ここまで来たらあとは組み立てるだけです。ワクワクする感情を抑えて丁寧に組み立てましょう。

組み立てたらとりあえず回してみて、自作立体パズルの特性を知りましょう。動摩擦が大きいのか、小さいのか。ネジの締め具合はどうか。柔軟性はどうか。

とりあえず回した感覚によって適当な潤滑剤を入れましょう。できれば立体パズル専用潤滑剤(以下のようなもの)が良いですが、シリコンスプレーでもまあ良いと思います。溶剤の入っているものは絶対だめです。

https://store.tribox.com/products/list.php?category_id=404


製作 5. ステッカーを貼る

多くの既存パズルについてステッカーは以下のオンラインストアで買えます。

https://store.tribox.com/user_data/sticker.php

ここで合うものが見つからない場合は…、やったことがないのでわからないですが、自分でどうにか頑張って作るかTwitterでつぶやくと解決策が見つかるかもしれません。


注釈

*1「ルービックキューブ」という名前は商標関係で使えないので本当は別の名前ですが実態はルービックキューブと同じ種類のパズルです

*2 中国の競技用ルービックキューブを作っている会社にメールしたとき、開発手法について尋ねた瞬間に返信が途絶えるという事件がありました。「それは企業秘密なんだ」くらい言ってくれてもいいのに…

*3 今回はルービックキューブ(3x3x3のオーソドックスなパズル)に限らず色々な立体パズルに応用できるノウハウを書き連ねたいので「立体パズル」と表記します。

*4 スピードキューブ(言ってしまえば競技ルービックキューブ)の世界では「POPする」と言います。

*5 個人レベルでは2016年あたりにはすでに既存の立体パズルに磁石を搭載させる試みはありました。

*6 具体的には熱融解積層(FDM)方式、一般的に「3Dプリンタ」と言われて多くの人が想像するものを前提にします。ちなみに光造形(SLA)式だと精度が出て良いかなと思って光造形式で作ったこともありますが、摩擦の少ない良い素材が見つからず良いパズルはできませんでした。

*7 多分射出成形(市販の立体パズルはほぼ確実に射出成形だと思います)や真空注型を使うだろうと思います。このように型を作って成型するとなると3Dプリンタでは部品をやすりがけして成型品を小さくするのに対して、型をやすりがけして成型品を大きくすることになるので、細かい寸法が変わると思います。また、型を使った成型では中空構造が不可能なので、パーツを適当に分けて設計し、後で組み立てる必要が出てきたりすると思います。

*8 競技用立体パズルは分解しようと思えば(ネジを緩めたりすれば)簡単に分解できます。

*9 当然と言えば当然ですが、一発で出来の良い立体パズルを作るなんてほぼ不可能です。私は満足いく2x2x2を作るのに10ループ、それなりの完成度のFace turn Octahedronを作るのに4ループくらい回しました。


最後に

わからないことがありましたら気軽に質問してください!ここのコメントでも、その他のSNSでも何でも良いです!

https://nyanyan.github.io/ja/#contact

では良い立体パズル自作ライフを!!!!!応援しています!!

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