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茄子の季節には

ナスは、まあ一年中八百屋さんにはあるけれど、本当は夏野菜。地方によって、色々な品種があるから、面白いと思います。

郷里の名物の仙台長茄子漬は、ちっとも長くなくて、10cmくらいの茄子なのをずっと不思議に思っていました。なんと、これは仙台長(せんだいちょう)という品種のなすだったのです。長さではなくて、名前だったのです。文字にしてしまうと、長ーいナスを連想してしまい、運んでくる間に、どこかでナガナスズケなんて名前になってしまったのでしょうか。本当はセンダイチョウナスズケだったのに。

上京してからだいすきになったのは、米ナス。切って油で揚げて、田楽にしたのが大好き。自分で作ると揚げ油の問題で、輪切りにしてしまうのですが、どうも半分に切って揚げたものの方が美味しいな、と感じていました。

これは、気分の問題ではなくて、茄子には、しいたけの旨味成分でもあるグアニル酸と言うのが含まれているのですが、丸ごと、あるいは丸に近い形で揚げたり、蒸したりしたほうが、この旨味成分が多くなるのです。韓国料理で、茄子を全形で蒸した後、切り口を作って、そこにコチュジャンなどで味付けしたひき肉を入れ、更に加熱するという料理があります。生のままだと、切り口から割れてしまうから、こういう作り方をするのかと思っていましたが、旨味成分を引き出す点からみても、優れものの料理法だったのですね。

もう一つ大好きなのが、泉州水ナス。もう、生で齧ってもおいしい。あくがとても少なくて、水水しいナスで、浅づけなどにすると最高です。美味しいものは、好きな人に食べて欲しいので、お中元に姉に送ったら、義兄がすっかりはまってしまったとか。うん、美味しいでしょう、とちょっと自慢気。

ただ、他の土地で作ると、あの形や風味が段々違ってくるようで、泉州の風土が育てている茄子とも言えますね。

加茂ナス、茶筅ナスなど、色々なナスが日本にはあります。外国にも、色々なナスがあります。タイ料理の中には、緑色で500円だま位の小さいナスを使っているものもあります。マクアポー・ピンポンといいます。元々ナスはインドが原産で、そこから欧州、中国、日本と伝播してきた植物です。

英語でエッグプラントと言うのは、真っ白い丸いナスがあるので、この名称がついたのです。もう一つの英名のオーバージーンというのですが、これはカタルニア語のオルバージネラ、アラビア語のアルバデンジャン、ペルシア語のバデンジャン、サンスクリット語のヴァデインガナハと名前の由来をたどれるのだそうです。もともとのサンスクリット語だと、防風野菜、つまり風よけの野菜であったことを示す名称なのです。熱帯の野菜ですから、風の激しい季節を耐えるものだったのでしょうね。

茄子は、色々な国の料理に欠かせない存在です。ラタトゥイユ、カポナータ、麻婆茄子など、茄子の料理が次々に思い浮かびます。

そしてもう一つ、日本の一部の地方で、茄子は食べ物としてではない、大切な役目を担っています。精霊馬と言うのを、聞いたことがありますか?葬式と祖霊を祭る行事と言うのは、一番時代で変化しないものですから、地方によってこういう風習があるところがあるのです。

お盆に祖先がきゅうりで作った馬に乗って、少しでも早く帰ってくるように、なすで作った牛に乗って、少しでもあちらに帰るのが遅くなるように、という願いを込めた、乗り物なのです。何故か、牛に見立てた茄子も、馬に見立てた胡瓜も、どちらも精霊馬と言う名称なのです。

精霊馬(しょうりょううま)

お役目を終わった精霊馬は、食べずに海や川に流すというのが本来の形の様ですが、最近は塩で清めてからかたずけるようです。

子供の頃から、この精霊馬を見てきたせいでしょうか、夏の茄子はなんだかとても神聖なもののように思えてしまいます。大事な先祖、ひょっとしたら、大好きだった祖父母や、若くして亡くなった兄弟かもしれません、この人達を少しでも長く引き止めたいという、切ない想いを感じるからでしょうか。


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