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初夏の夜空散歩とネオワイズ彗星

幼少期、宇宙図鑑に載っているヘールボップ彗星の写真を眺めながら「あとせめて10年早く生まれたかった」と1999年生まれの私は思っていた。その彗星が見えたのは1997年の話。それはそれは明るい彗星だったという。

さて、今年なんと彗星が地球から見られるという。

流石にヘールボップ彗星ほどは明るくならないようだが、それでも一応肉眼で見えるらしく、私は密かに心を踊らせていた。

しかし、その彗星が接近する7月はずっと雨続きだった。関東甲信は日照不足と騒がれたほど。もし去年だったなら、晴れ間を追って飛行機に乗りすらしたかもしれないが、今年は感染症でそういうわけにもいかない。

私の心は梅雨の空のように陰鬱になっていたが、先週の日曜日、なんと一日だけまるで奇跡かのように晴れたのである。

やれ晴れだ交通手段どうするかなどとTwitterで喚き散らかしていたら、友人がドライブついでに観測に付き合ってくれると言ってくれた。なんと心優しいことか。

と、いうわけで、山に登って彗星とか天の川とか見た初夏のお話です。(本論に入るまでの話が長い)


曇る夕方

東京の果ての地に向かった。八王子はかなり曇っており、半ば絶望していたが、Uターンもせず一直線に山へ向かった。街灯もない道をハイビームで照らしながら進む。

峠の駐車場に車を駐めて上を見ると、曇りかと思ったそこには群青色の空が広がっていた。

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どうやら峠道を登っているうちに雲を越えたらしい。道中で二回ほど霧がかかった気がしたが、あれは雲だったのかもしれない。

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悪路を進む。土はかなり湿り気を帯びていた。我々が到着した時は晴れていたが、その前に雨が降ったのかもしれない。

ろくな登山装備もなしにカメラを背負って山を登るのはなかなか大変だった。

山頂晴れて

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この写真には雲が多く写っているが、何しろこの日の天気は気まぐれで、雲は目を離した隙にどこかに行ってしまった。

目が慣れておらず彗星はまだ見えない。しかし、あまりもたもたしていてはまた曇ってしまうかもしれないから、とりあえず彗星のあるという北西にカメラを向けてシャッターを切ってみることにした。

暗闇の中せっせと機材をセットし、彗星がありそうだと勝手に思った場所を切り取って撮影した。

すると、見事にのびた尾と眩く光る彗星が確かに写り込んだのだった。

Comet NEOWISE (C/2020 F3)

接近している彗星の名前は「ネオワイズ彗星」である。彗星は発見者の名前が早いもの順でつくのだが、今回は人間でなく人工衛星が発見したものだ。つまり、NEOWISEは人名ではなく、人工衛星の名前というワケだ。

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これがそのネオワイズ彗星である。彗星は思っていたより大きく、適当にカメラを向けても写り込むくらいには撮影が容易かった。

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図鑑でしかみたことのない天体を私は確かにカメラで捉えたのだった。明るいダストの尾と、その僅か左側に淡くイオンの尾も見えている。

これほどまでに鮮明に写るとは思っていなかったので、写真を見て心が躍った。

しかし残念なことに、肉眼ではだいぶ淡くしか見えなかった。明るいとはいえ3等星。東京の光にやられてしまったか、薄い雲に邪魔されているのか…

目が慣れてやっと少し見えるかな…というくらい。7月上旬はもっと明るく見えたようだが、天気はどうにもできないので仕方ない。

ともあれ、綺麗に撮影できたのは大変良かった。カメラに写してみて初めて見えるのも、これはこれでなかなかワクワク感があって良い。

彗星の話

ここでオタク特有の早口説明を挟みたい。

先ほどの写真でわかる通り、彗星の尾は実は一本ではなく二本なのだった。というのも、彗星の核はガスの氷チリでできているからである。核はよく「汚れた雪だるま」と例えられる。

彗星のしくみ_アートボード 1

彗星は、簡単に言えば「太陽からのすげえ風で大気を吹き飛ばされまくっている汚れた雪だるま」みたいなものである。その汚れた雪だるまを構成しているガスとチリは、それぞれ吹っ飛ぶ先が少し異なるため、尾が二本できるわけである。

ガスが電離して吹き飛ばされたものが青白いイオンの尾、チリが吹き飛ばされたものが真っ白なダストの尾である。

大体彗星というのはダストの尾の方が明るい。つまり、核にチリが多くより汚れていた方が、彗星としては明るく見事に見えるわけだ。(これ、何かの比喩に使えないだろうか。)


ちなみに、吹き飛ばされたチリは、もちろん誰かが回収するわけでもないから、そのままその場所に残る。

時折その「彗星が通ってチリを撒き散らした場所」に地球が突入することがある。すると、地球では流星群が起こるのである。

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ネオワイズ彗星もまさに今、宇宙にチリを撒き散らしながら移動しているわけだ。

雲海

峠を登っている最中に雲を越えたと言ったが、それなら我々は今雲より高い場所にいることになる。ともすれば、雲海が見えるわけである。

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彗星に気を取られてあまり見ていなかったが、結構しっかり雲海だったので驚いた。都市は雲で埋まっていた。

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この夜は低い雲が多かったようだ。

私がいたのは標高1000mに満たない低山だが、雲はそれよりも低い。雲はだいぶ遠くまで広がっていたから、もし山に登らなかったなら、彗星は見ることができなかったかもしれない。都合よく山頂から見られたのは運が良かった。

天の川

加えてこの日は月齢が27と新月に近かった。月のない日は天の川を撮影することができる。

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縦位置で天の川を切り取った。10枚の写真を1枚に合成している。

都市の光で地上近くは黄色くなってしまっているが、その上には確かに天の川があった。

天の川は内側から見た銀河系の姿である。地球も銀河という巨大な円盤の中にある。

特に明るい場所があるが、そこは星がソーシャルディスタンスを守っていない銀河系の中心部である。

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星座を線で結んでみた。実際に空を見上げている時は、さそり座が一番分かりやすかった気がする。(他の星座に関して知識がなかっただけかも)

特に星座を気にして撮ったわけではないから、いて座もオブジェに隠れてしまっているし、さそり座とわし座は画角に収まっていないという…

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大胆な自撮りを行うのも星景撮影の醍醐味(?)。露光している間は静止していないといけないので、実は結構体幹力?が必要だったりする。

先ほどと違い1枚しか撮っていないため、ノイズが多く天の川も薄い。

終わりに

彗星、雲海、天の川と、一晩で3つも撮影できたのはかなり運が良かったと思う。

ネオワイズ彗星は太陽から離れ、暗くなっている最中。来月には見えなくなってしまうだろう。これからこの彗星は太陽系の果てを旅し、数千年後にまた太陽へ接近する。

人間の寿命からすれば途方もない時間だが、宇宙的な視点で見ればむしろ短いとすら言えるかもしれない。空を見上げれば、何百、何千年も前の光で満ちているし、宇宙が生まれたのなんか137億年も前の話である。

とはいえ、彗星はもちろんこの他にもたくさんあるので、また突然現れるかもしれない。彗星は周期性はあるものの、新しいものも多数発見される。性質上見つかるのは地球にある程度近付いてからであり、その予測は難しい。今回のネオワイズ彗星も発見されたのは今年の3月の話である。突然現れて消えていくのもまた、彗星の面白さと言えよう。

夜空にはまだまだ我々の知らないものがたくさんある。そう思って見上げてみれば、あの小さな星々がいつもと少し違う風に見えるかもしれない。

……見上げたいのではよ梅雨明けて

以上!

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