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TVアニメレビュー「月とライカと吸血姫」

放送 2021秋 テレビ東京 全12話

あらすじ
世界大戦の終結後、世界を二分する超大国、東のツィルニトラ共和国連邦、西のアーナック連合王国は、その領土的野心を宇宙へと向けた。
両国は熾烈な開発競争を繰り広げ、そして今――
東歴1960年。共和国連邦最高指導者ゲルギエフは、成功すれば人類初の快挙となる有人宇宙飛行計画『ミェチタ(夢)計画』を発令する。そんな折、宇宙飛行士候補生の補欠、レフ・レプスは、ある極秘任務を命じられる。
『ノスフェラトゥ計画』――有人飛行に先立つ実験として吸血鬼を飛ばす計画――
その実験体、イリナ・ルミネスクを24時間監視し、訓練で鍛えろというのだ。
レフとイリナ、人間と吸血鬼、監視役と実験体――
種族の壁や国家のエゴに翻弄されながらも、宇宙への純粋な想いを共有し、2人は共に宇宙を目指すこととなる。(公式サイトより)

いやいや、久々にいいアニメに出会いましたよ~。
過剰なギャグもエロもグロもなく、淡々とニュートラルに作ってるのがいいです。
最近、こういうのなかなかないんですよね~。
世界観は冷戦時代の米ソの宇宙開発競争をそのまんま割と忠実にモチーフにしてる感じです。
アニメ的なのは吸血鬼の少女なんだけど、この吸血鬼、血も吸わないし、特殊な身体能力を持っているわけでもなく、太陽の光を浴びると死ぬわけでもない。ちょっと暑さに弱く寒さに強いというぐらい。吸血鬼の一般的イメージは人間が作った偏見で、耳がとんがってることと目が赤いという外見以外は人間とほとんど同じであるのに、忌み嫌われ、虐げられてきた種族。
と、どちらかというとあの時代のユダヤ人の立場を想起させる設定です。
実際の、ライカ犬からガガーリンの間に実験体にされた犬やサルの役どころを吸血鬼少女に変えてるわけです。
指導係に任命されたレフは実験体はN44と呼び、モノとして扱うようにと指示されます。
 失敗しても成功してもその存在は闇に葬られる運命にあるというということを知りながら・・・情を入れ込むなということです。

レフもまた、成績優秀ながら理不尽な上官に暴力ふるい、候補生からも外された身の上で・・。
虐げられている二人が、そんな状況下でも腐らず、真摯に訓練に取り組む姿が12話通して描かれていきます。
この「腐らず真摯に」訓練に取り組む姿が素晴らしいです。
そして賛否の分かれるところでもあるのでしょう。
こんなに差別され、さげすまれて、人を恨まず高潔にいられる人間はいない!こんなの感情移入できない!ファンタジーだ!という人もいるでしょうが、僕はあまり人を恨んだり、羨んだりすることなく生きてきたから、(結局は自己中で他人にあまり興味関心がないとも言える)あんまり大げさに反発しあったり、ギラギラ復讐心たぎらせたりする話のほうがファンタジックに思えちゃうんですよね。
そんなわけで、違和感なくすんなり見られたわけです。


周囲との軋轢がくどくど描かれることもなく、あまり余計な登場人物を増やさず、余計な伏線を張らず、レフとイリナ二人の絆が深まっていく過程と、気持ちの繊細な揺れがじっくり丁寧に描かれていきます。
結局は恋愛ものなんですが、ベタベタせず、恋敵が出てきて三角関係になって、くっついたり離れたりということもなく、じれったいぐらいに適度な距離感を保っていて、簡単にくっつけない切ない運命を背負っている状況でもあり・・・と。終始、やさしさと寂しい雰囲気につつまれていて。
なんかもう泣けてくるんですよ。
こういうの好きだな~。もちろん人それぞれの好みですがね。
類似作品だと「狼と香辛料」とか「とある飛空士の追憶」なんかを思い出します。あと古くは「タッチ」の上杉達也と浅倉南の関係性にも似てるんですよね。
お互いに想い合っていながら、ベタベタせず、ベタベタできない宿命的状況でもあり、依存しすぎず、途中離れな離れになりながらも、おのおの自分の人生(夢)と真摯に向き合い奮闘して、さて最後どうなるのか・・という話。
この作品の二人の真摯な努力も、報われない運命にありそうですが・・・
作品全体の雰囲気から奇跡を起こしてくれそうでもあり・・・
さてさて、どうなってしまうのか・・。
これ以上のネタバレはなしにしておきましょう。
僕は最高のラストだったと思います。もう絶対続編はいらない。
やめてくださいよ。と言いたくなる最終回12話。よくぞ上手くまとめました。あっぱれです。
ご興味わいた方はネット配信各種にあるようなので、ぜひご覧くだされ。




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