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読書感想文

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#読書

読書感想「海峡」伊集院静

───少年にとって、父はそびえる山だった。母は豊かな海だった。 土木工事や飲食店、旅館などで働く50人余りの人々が大家族のように寄り添って暮らす「高木の家」。その家長の長男として生まれた英雄は、かけがえのない人との出会いと別れを通して、幼い心に生きる喜びと悲しみを刻んでゆく。瀬戸内海の小さな港町で過ごした著者の懐かしい幼少時代を抒情豊かに描いた自伝的長編小説。 「海峡」「春雷」「岬へ」と続く3部作の第1部─── 大人になるにつれて、時間がたつのが早く感じるという話をよく聞き

読書レビュー「赤い靴が悲しい」片岡義男 

初版 平成元年10月 祥伝社文庫 高校生の頃、みんなが赤川次郎をまわし読みしたりしてた時、 僕は一人で片岡義男を読んでいた。 まあ、どちらも今思えばラノベ的で、(いい意味で)軽薄で、 おおよそ文学賞とは無縁な、心の闇とかドロドロした人の業 などほとんど描かれない。 あの時代、80年代バブルのちょっと浮かれていて、湿り気の無い、カラッと爽やかな世情が色濃く表現されていたり。 たいした中身は無いんだけど・・・。 大人になってからも5年周期ぐらいで、無性に読みたくなるのですよ。

読書レビュー「哀しみの女」五木寛之

初版 1989年8月 新潮文庫 あらすじ 年下の画家・章司と暮らす和実は、たまたま見かけた異端の天才画家エゴン・シーレの作品「哀しみの女」に、自分の未来の姿を予感する。そして、彼女は、モデルであり画家の愛人でもあった女の薄幸な人生に、自分の運命を重ね合わせていた…。ウィーン世紀末の画家とモデルとの退廃的な関係を現代に重ねて、男の野心と女の愛を描く大人のための恋愛小説。 (アマゾン商品紹介より) この作品で、エゴン・シーレという画家も「哀しみの女」という絵も初めて知りました

読書レビュー「晴天の迷いクジラ」窪 美澄

初版 2014年7月 新潮文庫 あらすじ デザイン会社に勤める由人は、失恋と激務でうつを発症した。社長の野乃花は、潰れゆく会社とともに人生を終わらせる決意をした。死を選ぶ前にと、湾に迷い込んだクジラを見に南の半島へ向かった二人は、道中、女子高生の正子を拾う。母との関係で心を壊した彼女もまた、生きることを止めようとしていた――。どれほどもがいても好転しない人生に絶望し、死を願う三人がたどり着いた風景は──。命のありようを迫力の筆致で描き出す長編小説。 (新潮社HPより) 物

読書レビュー「銀の森へ」沢木耕太郎

初版 2018年 3月 朝日文庫 朝日新聞で15年続いた、沢木さんによる映画エッセイを「銀の森へ」「銀の街から」の二冊に書籍にまとめたうちの一冊です。 本作「銀の森へ」は1999~2007年までに執筆された「ローマの休日」「シックスセンス」「ミリオンダラーベイビー」「ロストイン・トランスレーション」「メゾン・ド・ヒミコ」などなどについての映画評、90篇を収載したものです。 1作品について約3ページ程度の、映画評としては短めの中文程度にすっきりまとめ、映画評論家の書く映画評と

読書レビュー「風神雷神Juppiter,Aeolus上・下」 原田マハ

初版 2022年11月 PHP文芸文庫 マハさん得意のアートフィクションです。 今回は架空の人物は登場しません。 登場するのはすべて歴史上、実在したとされる登場人物です。 主人公は俵屋宗達。その実像は謎に包まれているそうです。 マハさんはあえてそこに着目したんじゃないかな・・。 同時代に生きていた歴史上の人物、しかし、実際の関りは確認されていない人物たちを 縦横無尽に絡ませていきます。 狩野永徳。織田信長。天正遣欧使節。カラバッジョ。などなど。 いやはや、壮大な歴史ロマン、

読書レビュー「テロルの決算」 沢木耕太郎

初版 1982年9月 文春文庫 あらすじ 山口二矢は日比谷公会堂の舞台に駆け上がり、社会党委員長浅沼稲次郎の躰に向かって一直線に突進した・・・。右翼の黒幕に使嗾されたというのではない自立した17歳のテロリストと、ただ善良だったというだけではない人生の苦悩を背負った61歳の野党政治家が激しく交錯する一瞬を描き切る。大宅ノンフィクション賞受賞作。 本作は 昭和35年10月12日、日比谷公会堂で行われた立会演説会で、社会党委員長浅沼稲次郎が17歳の少年山口二矢が握りしめた一本の

「流星ひとつ」沢木耕太郎

初版 2016年7月 新潮文庫 あらすじ 何もなかった、あたしの頂上には何もなかった―。1979年、28歳で芸能界を去る決意をした歌姫・藤圭子に、沢木耕太郎がインタヴューを試みた。なぜ歌を捨てるのか。歌をやめて、どこへ向かおうというのか。近づいては離れ、離れては近づく二つの肉声。火の酒のように澄み、烈しく美しい魂は何を語ったのか。聞き手と語り手の「会話」だけで紡がれた、異形のノンフィクション。(アマゾン商品紹介より) また長くなって、言いたいことぼやけるかもしれないからは

「デス・ゾーン  栗城史多のエベレスト劇場」  河野啓

初版 2020年11月 集英社 両手の指9本を失いながら“七大陸最高峰単独無酸素”登頂を目指した登山家・栗城史多(くりき のぶかず)氏。エベレスト登頂をインターネットで生中継することを掲げ、SNS時代の寵児と称賛を受けた。しかし、8度目の挑戦となった2018年5月21日、滑落死。35歳だった。 彼はなぜ凍傷で指を失ったあともエベレストに挑み続けたのか? 最後の挑戦に、登れるはずのない最難関のルートを選んだ理由は何だったのか? 滑落死は本当に事故だったのか? そして、彼は何

あちらにいる鬼 井上荒野

初版 2021年11月 朝日文庫 あらすじ 人気作家の長内みはるは、講演旅行をきっかけに戦後派を代表する作家・白木篤郎と男女の関係になる。 一方、白木の妻である笙子は、夫の手あたり次第とも言える女性との淫行を黙認、夫婦として平穏な生活を保っていた。 だが、みはるにとって白木は肉体の関係だけに終わらず、〈書くこと〉による繋がりを深めることで、かけがえのない存在となっていく。 二人のあいだを行き来する白木だが、度を越した女性との交わりは止まることがない。 白木=鬼を通じて響き合

「余白の愛」小川洋子

初版 2004年6月 中公文庫 あらすじ 耳を病んだわたしの前にある日現れた速記者Y。その特別な指に惹かれたわたしが彼に求めたものは…。記憶の世界と現実の危ういはざまを行き来する。幻想的でロマンティックな長篇。瑞々しさと完成された美をあわせ持つ初期の傑作。(Bookデータベースより) 小川さんの本4冊目。 こうして読んできて一貫しているのは、隔たった一つことに無心に取り組む登場人物たち。その文章は穏やかで美しく、一見ささいで退屈な日常を幻想的にロマンチックに切り取る。 反

小川洋子「博士の愛した数式」

初版 2005年11月 新潮文庫 あらすじ 「ぼくの記憶は80分しかもたない」博士の背広の袖には、そう書かれた古びたメモが留められていた―記憶力を失った博士にとって、私は常に“新しい”家政婦。博士は“初対面”の私に、靴のサイズや誕生日を尋ねた。数字が博士の言葉だった。やがて私の10歳の息子が加わり、ぎこちない日々は驚きと歓びに満ちたものに変わった。あまりに悲しく暖かい、奇跡の愛の物語。第1回本屋大賞受賞。 (アマゾン商品紹介より) 私は学生時代、数学が大の苦手だった。 結

小川洋子「人質の朗読会」

初版 2014年2月 中公文庫 あらすじ 遠く隔絶された場所から、彼らの声は届いた―慎み深い拍手で始まる朗読会。祈りにも似たその行為に耳を澄ませるのは、人質たちと見張り役の犯人、そして…。人生のささやかな一場面が鮮やかに甦る。それは絶望ではなく、今日を生きるための物語。しみじみと深く胸を打つ、小川洋子ならではの小説世界。(アマゾン商品紹介より) ・・・ネタバレあり・・・ 始めは何か観念的な世界観の話かと思ったけど リアルに南米のテロリストに拉致されて人質となった日本人8

米澤穂信「黒牢城」読書感想

初版 2021年 6月 KADOKAWA あらすじ 本能寺の変より四年前、天正六年の冬。織田信長に叛旗を翻して有岡城に立て籠った荒木村重は、城内で起きる難事件に翻弄される。動揺する人心を落ち着かせるため、村重は、土牢の囚人にして織田方の智将・黒田官兵衛に謎を解くよう求めた。事件の裏には何が潜むのか。戦と推理の果てに村重は、官兵衛は何を企む。デビュー20周年の集大成。『満願』『王とサーカス』の著者が辿り着いた、ミステリの精髄と歴史小説の王道。 (KADOKAWAウ