![見出し画像](https://assets.st-note.com/production/uploads/images/86078694/rectangle_large_type_2_66b5428927c12d502d8dad0243920be0.jpeg?width=800)
【読書感想文】『むき出し』兼近大樹
実はこの小説、出版されてわりとすぐに購入していました。
2度ほど途中で挫折して、でもしっかり最後まで読ませていただきました。
思ったことを、ただ書くだけ。感想文です。
小さい頃から、殴って、殴られるのが普通だった。
誰も本当のことを教えてくれなかった。なぜ自分だけが、こんな目にあうんだろうーー上京して芸人となった石山の前に現れる、過去のすべて。
ここにいるのは、出会いと決断があったから。
途中で挫折してしまった理由は2つ。
主人公の石山少年が、かつて私の大嫌いだった「あの子」そのものだったから。
学生時代の思い出って良くも悪くも色濃く残ってしまうものだと思うのですが、「あの子」は間違いなく私にとって嫌な思い出で、忘れられるものなら忘れてしまいたいものでした。
「あの子」のいる学校に行くのがとても怖かった。
うわ~、こいつあの子やん嫌い、、、とそっと本を閉じました。
それでもやっぱりせっかく購入したのだからと再挑戦。
…したものの、もう一度、本を閉じます。
過去にいろいろな経験をされてきたことは当時報道で多少は知っていたけど、ここまでむき出しちゃう?
もちろんあくまで小説、主人公は兼近ではなく石山だし、どこまでが本当なのか、あるいはすべてフィクションなのかわかりませんが、成長していくごとに鬱積していく石山が苦しくて苦しくて、あの兼近さんの明るく元気なイメージからかけ離れすぎていて、読み進めることができなくなってしまいました。特に、暴力的なシーンは少しショックでもありました。
だけど、そんな彼がどうしてお笑い芸人になろうと思えたのか?
どうやってこの悪循環を断ち切り、人生を変えることができたのか?
知りたくなって、見届けたくなって、深夜に手に取り、読み終えたのは朝方5時。いっきに読みました。
「石山。お前掛け算できないのか」
授業中、先生が驚いた顔で聞いてくる。
「あぁ、はい」
掛け算どころじゃない。漢字は何にも覚えちゃいなくて、勉強についていけてないけど、毎日、教室の窓に流れてくる雲を追ったり、時計の秒数を数えたりしながら給食の時間まで我慢して、野球の部活動が始まるのを待っていた。
間違いなく彼は周りの大人が手を差し伸べるべき存在で、救われるべき存在だったはず。
泣き虫な俺は、泣いても泣いても一人。
この空の下たった一人だった。
誰か…!助けてください…!石山少年を救ってくださぁぁい…!
その祈りも届かず彼の人生はどんどん良からぬ方向へ転がり続け、二十歳のときにとうとう逮捕され、留置場へ。(これはおそらく報道されたそのまま?)
生きてきた世界は全く違うのに、対面したら仲良く話せないのに、文字を読んでいる瞬間だけは同じ階を踏みしめてる気がして、一人じゃないんだと孤独感を消してくれた。
ここで又吉さんの本が登場するわけですが、このエピソードちょっと胸熱すぎて苦しいです。
1冊の本が、今まで読書をしたこともない、漢字も読めない1人の少年の人生を変えたなんてそんなおとぎ話みたいなことが本当にあるのだろうか。
しかもそれを差し入れたのが初恋の女の子なんて、、、素敵。
このあたりから石山の意識が変わっていきます。
逮捕されたことでもともといた環境から一旦距離を置くことができたのがいちばん大きな変化になったのではないのかな。と。
彼を否定する大人はたくさんいたけど、彼の改心を願う大人はどれだけそばにいたのだろうか。
石山の話を聞いて、できないことはサポートしていいところはたくさん褒めて…ができたら全く違う人生になっていたのだろうな。
本来、守られなければいけない立場の若者が、大人に利用され、人生をめちゃくちゃにされる。こんなことあっていいはずない。
全てを捨てる決意をし、上京してお笑いの学校へ。
普通の人は、どんなことで嫌な気持ちになるのか、どこで喜んでくれるのかわからなくて、どんな不良よりも怖い。会話をする度に緊張で汗ばむ。
「普通」ってなんだろ。
そう思えるのは私自身が普通の人間だからなのか。
彼にとって自分以外はみんな普通に見えて、怖い存在だったのか。
小説の中にでてくる「階層」「分断」という言葉。
当事者である著者だからこそ、紡げる思い。
最後まで読み終え、真っ先に浮かんだのは大嫌いだった「あの子」のことでした。
もしかしたら「あの子」もまた、言葉にできない生きづらさや苦しさを抱え、葛藤していたのかもしれない。
授業をめちゃくちゃにするくせに学校に来ていたのは、そこが唯一の社会とのつながりだったからかもしれない。寂しかったからかもしれない。
どういう家庭環境だったのか、何が好きだったのか、本当のところは何も知らない。背景なんて考えたこともない。
仕方ない。私も当時はか弱いただの子供だった。
私自身がそうだったように、「あの子」もきっと理不尽な思いをしながら、いろいろな物事を受け入れながら、精いっぱい大人になったはず。
そして今日もこの地球上のどこかで、悩みながらも必死に生きているはず。
そう思うと、あの嫌な思い出も、少し浄化されるような気がする。
石山がそうであったように、「あの子」にも優しい出会いがあって、救われていてほしい。
笑っていてほしいし、幸福であってほしい。
受けた傷は消えないけれど、それを癒やすだけの時間は私にもあったし、強くもなった。
この本を読んで、何より救われたのは私自身だったのかもしれない。
自分の心を「むき出し」にされる、ちょっと覚悟のいる小説です。
読んでよかったです。心からありがとう。
この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?