自分の旗を立てられる社会へ


 こんにちは、タカハシジュリです。
今回も、前回に引き続きCL特論レポートシリーズです。

第2回 CL特論の登壇者は iclub代表 小川悠さん。

 iclubは地域を舞台高校生のイノベーション教育を促進する会社です。
代表である小川さんは"誰もが自分の旗を立てられる社会"というビジョンを掲げ、活動に取り組まれています。



"誰もが自分の旗をたてられる社会"とは


 小川さんは「誰もが自分の旗を立てられる社会」についてこう仰っていました。

  ●これからの時代に必要な力は、”好きなことで生きていく力”である。
  ●「好きなことで生きていく」ためには、”自分の旗を立てられる力”が必要。
  ●「自分の旗を立てられる力」には2つの要素がある。
   1)自分の旗を持つ力
   2)誰も旗を立てていないところに旗を立てる力
   =”自身でイノベーションを創造できる力”
 (※イノベーションについては、小川さんは「人々の価値観・行動・習慣が変化するアイデアを出し、普及させ、未来をつくること」と定義されています。)

 つまり、イノベーション教育の目的は”自身でイノベーションを創造できる力を持った人材を育てる”というところにあるのです。

 しかし、小川さんが接してきた高校生の多くは、「好きなことで生きていきたい」という漠然とした希望は持っていても、「自身がイノベーションを創造できるか」という問いに対しては自信のなさを示したそうです。
小川さんはその原因を以下の二つとしていました。
  ①イノベーションの作法を学んだことがない
  ②イノベーションに挑む機会、場がない

つまり目指すところは社会に生きる個人の「自己理解」であり、その上での「自己変容」です。
 では、小川さんはどのようなプロセスでそれを実現していったのでしょう?



ビジョンへの起点は”価値創造”


 目標である「自己変容」の前段階である「自己理解」。その機会を直接的に与えるというのは、とても難しいように思われました。
小川さんは、「自分の旗を持つ」ことを「自分の『好き』から生まれる問いを立てられること」と仰っていました。しかし、「そもそも『好き』という気持ちがよく分からない」「自分の『好き』なことって何だろう」、そんな風に思っている若者が大変多いのが現状だったのです。

 そんな現状に対して小川さんが着目したのは、『他者理解』が『自己理解』に繋がるということでした。
いきなり自己理解をするのは難しくても、他者や自分の外の環境に興味を持ち、他への理解を深めていく中で自然と「自分はどうだろう?」と内省することができるようになる。つまり小川さんが提供する機会は「他者理解」のための機会であり、その機会というのがiclubが提案してきた「地域を舞台にイノベーションに挑む」プログラムでした。

すると、ビジョンの実現のためのプロセスは以下のようになりました。

  (1)価値創造
(プログラムによるイノベーション体験)
      ↓
  (2)他者理解
      ↓
  (3)自己理解
      ↓
  (4)自己変容


 私は、このプロセスのお話が今回の講義の中で一番印象的でした。私自身、元々イノベーション教育にとても興味があり、講義を通して小川さんのお話には共感が絶えなかったのですが、私がこの講義を聞くまで一番悶々としていたのがこのプロセスについてだったのです。
私は「自己理解」「自己変容」に意識が向かいすぎて(3)→(4)→(1)→(2)という風に考えてしまっていました。しかし躓くのは「内省に慣れていない人たちに対していきなり内省を促すなんて実現できるのだろうか」「そもそもその人たちが内省したいと思っているのだろうか、その必要性を感じるのだろうか」、そんな不安でした。今までは、柔軟な発想には自己理解の度合いがとても重要で、自己理解ができている人ではないとイノベーションなんて起こせないのではないかと思っていたのです。だからこそ自己理解の機会を提案していきたいという気持ちが強かったのですが、思いが強すぎて何をやっても私の理想や価値観を押し付けるような形になってしまいそうだと感じでいました。

 しかし小川さんは、「自己変容」を最終的な目標に置き、まず若者が成長できる機会をセッティングし、若者たちがその経験を通して自ずから自己変容まで到達できる、そんなモデルを作ったのでした。
iclubのプログラムでたくさんの事柄を吸収し、参加者たちは他者への理解が深まり、それを通して対照的な「自分」という存在に自然に向き合えるようになり、「自己変容」が起きる。そしてプログラムで身につけることができるのはイノベーションの「作法」「経験」、そしてその実体験からなる「自信」です。
自分にも「自分の旗を立てられる力がある」「好きなことで生きていける力がある」社会に本格的に飛び出していく前の世代がこのような感覚を身につけられることは本当に素晴らしいことですし、イノベーション教育に対する理解はまだまだマイノリティーだと小川さんは仰っていましたが、イノベーション教育はもっともっと普及されるべきものだと強く感じました。
自分がどう社会と関わっていくかというのを考えた時、「自分こそ適任だ!」「私はこんな未来を描きたい!」そんな気持ちを強く抱ける人が一人でも多くなればいいと思います。自分の仕事やすることがどんな未来に繋がるのかを描けることは、やりがいに繋がり、その人の心の豊かさにも繋がるでしょう。そして何よりその意志は社会のより良いかたちに繋がっているでしょう。



イノベーターの心得


 私は小川さんの「熱い思いや強いビジョンを抱きつつも、それを押し付けるのではなく、対象者に対して謙虚に、親身に、丁寧に寄り添うような姿勢」が素晴らしいなと思いました。若者が持っている力をリスペクトして信じているんだなと思いました。だからこそチグハグな結果にならない。
これは、前回の授業で講義してくださった三澤さんにも同じように感じたことです。
対象者との距離感というのはイノベーションにおける大きな鍵だと思いました。関係は一方的で無遠慮なものではなく相互的であり、明るい未来を提示するよりも「共に」明るい未来を描く、そんな人間関係における基本的なキャッチボールの感覚が、本当に対象者の心を動かす鍵なのだと。



最後に


 今回はiclubの具体的な活動についてあえて細かくは触れませんが(記事が長くなりすぎてもアレなので!)、実際に行われてきたiclubのプロジェクトも本当に素晴らしいと感じました。

 私が感じた素晴らしさというのは、これらのプログラムが個人の自己変容を超えて、地元との繋がりの意識を芽生えさせているという点です。「自己変容」という個人の課題と「地域創生」という社会の課題を結びつけているのです。

 地域創生というのは、緊急性のある非常に深刻な課題だと思います。「若者が都会に進出してしまって地元に帰ってこない。」これは、言わずもがな国家存続のための重要課題であると同時に、この国に生きる人々の「心の豊かさ」に繋がる問題だと思っています。
 私は、地元を愛せる人だけが知っている心の豊かさがあると思うのです。土地でも物でも人でも何でも、自分の人生に登場してきたものをたちに、どれだけ愛着が持てるか、感謝の気持ちを抱けるか、どういった感覚は一生その人の心を温め続けるのだろうと思います。自分の人生に登場してきたものたちの中でも、「家族」や「自分の容姿」、「地元」など、その人生のデフォルト設定のように与えられたものへの愛は、特にその人の人生を温めてくれると思います。

 iclubが提案するプログラムは、高校生たちが自分の故郷を知る機会でもあり、魅力を発見する機会になっているのです。そしてその魅力というのは、みんなで共有できるものかもしれないし、自分だけが発見して大切にできるものかもしれない。何れにせよ、これからの未来をつくっていく世代に魅力を発見されること、され続けることは、その地域が生き続ける、地域創生の重要なポイントであるはずです。





開講日:2020年5月25日
武蔵野美術大学 大学院造形構想研究科 クリエイティブリーダシップコース
クリエイティブリーダシップ特論 第2回 小川悠さん(iclub)

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