見えなくても勉強1

私は大学卒業後、急激に視力が落ち、いよいよ文字処理ができなくなったので盲学校
に入ってはり灸マッサージ、いわゆる三療の勉強を始めた。

内容は生物、化学と東洋医学なので文系出身の身にはなじみがない上ほとんど目は使
えないという縛りがあったのでかなり苦戦した。

点字は読む方はあまり得意ではなかったが、書くことはできたので、点字で取ったノ
ートを自分で録音して音声ノートを作っていた。

しかし見えない弊害は他にもあった。

どこにどんな筋肉や血管があって・・などを学ぶ解剖学やどこにどんなツボがあるの
かを学ぶ経穴の教科書には言葉の説明だけで一切図がない。

見えないのが前提の盲学校の教科書なんだから当然なのだが地図や表や図など視覚的
なツールを使って勉強してきた私にはそこもハードルだった。

文章を読んでも理解力が足りないのでどこに何がどんな風についているのか全然思い
描けないのである。

特に人体は3次元なので、表層と深層とがどのような構造をなしているのか理解でき
なかった。

解剖学も経穴も、結局試験前の詰込み暗記でクリアしたので全然身についていない。


所で最近、英単語を覚えるための参考書に絵と単語をセットにして頭に入れるという
ような物があると聞いたことがある。

やはり覚えたり理解したりするために、映像は大きな助けになるという事である。

名前を忘れてしまったけど顔は覚えているなんていう話もよく聞く。

顔が見えない私は名前を忘れたらその人は私の記憶からなくなるのである。

声という話もあるが、よっぼど印象的な声の人でなければ記憶には残らない。

私が中途障害で、見えないという縛りの中で勉強する習慣がなかったという事を差し
引いても目で見て勉強できる人に比べると見えない人は文字以外にもかなり高いハー
ドルがある事に愕然とした。

文字と言えば東洋医学は中国由来なので漢字の文化である。

漢字は表意文字なのでこれも見てなんぼの世界である。

私はなるべく漢字を聞いたりしていたが、百聞は一見に如かず、聞いてもなかなか頭
に入らない。

結局呪文のように覚えてとりあえずクリアした。

国家試験は大学受験の点取りスキルを発動し、とにかくわからない科目は山を張りま
くり、暗記物で点を稼いで合格ラインに乗っけたのであった。

そして今は晴れてはり灸マッサージの国家資格保持者になったのである。

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