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見えなくても知らない所で感謝されていた?!

今回は看板に偽りあり(?)心温まる盲人話を紹介します。

以前ランニングの仲間に誘われてボウリングに行った。
参加者は視覚障碍者とガイドヘルパーさんが数名ずつ。

ボウリングの後みんなで食事をする事になった。
初対面の人もいたので、私が「かわい いねこです」と自己紹介したら、1人の視覚
障碍者の男性が驚いて「あなたには感謝してもしきれない」と言われた。
彼とは初対面だったし何のこっちゃとこちらの方がびっくりだったが話を聞いてさら
にびっくり!!


私は鍼灸マッサージの免許を取った後、マッサージ師として企業に就職したが、すぐ
に腱鞘炎のひどいのになり、2年で会社を辞めた。その後他に何かできる事はないか
とリサーチはしていたものの、定職にはつかずほぼブラブラしていた。

見えなくてもマッサージはできるけれど、見えないからと言ってマッサージが得意な
わけではない。他に何か自分の適性に合った仕事を見つけたいと思っていた。
私が他人にマッサージハラスメントをするよりは、もっと向いている仕事をした方が
人に迷惑をかけないで済むと思ったのである。


ちょうどその頃はWindows95が出始めた頃で、見えない人たちの間ではこれは自分た
ちにも使えるものなのかどうかということが話題になった。

MSDOSではコマンドさえちゃんと入力すればPCは動いてくれる。でもマウスでアイコ
ンをクリックとなると、見えない人たちはいくら知識があってもニッチモサッチもい
かない。
見える人には便利になることが見えない人を締め出してしまうという結果になること
は今に始まった事ではない。セルフレジ、どうにかしてくれ!!

それでも何とか使っていかなければいけないということになり、視覚障害者用パソコ
ンソフトなどを売っている会社が有線ラジオで使い方の講習番組をやることになった

昔、優先ラジオには「盲人向け」というチャンネルがあったのだ。


先生はパソコンに詳しい全盲の男性。聞き手はパソコンはできないけれどしゃべれて
暇な人ということで、私に白羽の矢が立った。
お小遣いももらえるという事で、ほぼ無職だった私は1もにもなくOKした。


ラジオ番組内で先生が色々と教えてくれたけれど、結局私は何が何だかさっぱりわか
らず言われた通りにパソコンを操作していた。操作といってもキーボードに慣れてな
い上、見えないからとにかくひたすら時間がかかる。そのことにクレームも来たらし
いけれど、先生はほぼ初めてパソコンを触る視覚障害者がそんなにサクサク入力でき
るわけではない。逆に誰でも簡単にできると思ってもらった方が困ると回答していた

さすが先生!!


この番組は10回以上続いたのだけれど、後にカセットテープとしても売り出された。
ちなみにカセットも全部で10本くらいあった気がする。


前述の彼は、失明して間もない頃にこのラジオ番組を病院で聞いていたと言う。
目が見えなくなって絶望していたところに、見えなくてもパソコンが扱えるんだとい
う希望をこの番組から受け取ったとのことであった。


階層構造だのツリービューだのリストビューだの結局私は何が何だか理解できずに番
組は終了してしまったが、どうやら私は知らないうちに同じ視覚障害者仲間の希望の
光となっていたのだ
いやいや、偉いのは私ではなくパソコンの先生の方だ(獏)


彼は今バリバリにパソコンを使いこなし、第一線で仕事をしている。
私とは雲泥の差だ。


ちなみに地方に行った時も同じような話を聞いたことがある。
地方には視覚障害者のパソコン教室なんてないので、その人は私が出演していたラジ
オ番組のカセットを買ってパソコンを勉強し、不自由なく使えるようになったと言っ
ていた。
実は私は当時何にもわかっていなかったと話したら、逆にその方はびっくりしていた



悪意もなく、何の気なしに発した言葉が実は人を傷つけていたなんていう話はよく聞
くけれど、逆もまた真なり。
私のようなうすらトンカチが期せずしてどこかの知らない視覚障害者ビギナーを絶望
の淵から救いあげたのである。

そして何十年も経った後、その人に実際にお目にかかるなんていうのは普通だったら
ドラマみたいな奇跡。
しかしそんなことが普通に起こってしまうのが、「閉じた生態系」盲界あるあるなの
だ。


先日のランニング練習会で久しぶりに彼にお会いした。今でも彼は何もしていない私
に感謝してくれていてジュースを買ってくれた。うれしいけれど申し訳ない気持ちに
もなった。

くどいようだが私はお小遣いにつられてラジオ出演しただけ。偉いのはパソコンの先
生なのだから。

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