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音声ガイド付き映画「桜色の風が咲く」を見に行ってきた。

音声ガイド付き映画「桜色の風が咲く」を見に行ってきた。

日本初の盲ろうの大学教授福島智さんの半生を母親の視点から描いた作品である。

福島 令子『さとしわかるか』
http://www.arsvi.com/b2000/0905fr.htm


福島さんは私と同世代。私は中途障害なので高校は盲学校ではなかったが、筑波大学
付属盲学校の卒業生で福島さんのクラスメイトだった友達が何人かいるので福島さん
は友達の友達という事になるのかな。

今回もその友達の一人から勧められて見に行くことにした。

福島さんは今やアメリカの雑誌に取り上げられたり、雲上人感が半端ない存在だが、
クラスメイトだった彼女らが言うにはただの「面白い関西のおっさん」らしい。

そして映画を見てわかったこと。「面白いおっさん」の原点は落語だったのか!!

ご本人には一度だけお会いしたことがある。指点字で自己紹介したらわかっていただ
けてとてもうれしかった。小学校の点字教室で、子供たちが書いた点字を読み上げた
時、彼ら彼女らがめちゃくちゃ喜んでくれたのだけれど、きっとこんな気持ちだった
のだろう。
おお、リアル障碍者に通じた!!


福島さんは3人兄弟の末っ子で9歳まで目も見えていたという事を今回初めて知った。
盲学校に来るような子供たちは小さいころから目の病気を発症していて過酷な手術に
何度も耐えてきた子がたくさんいる。それでも視力は回復せず盲学校に進学してくる

福島さんもそんな子供の一人だった。

そして、家庭に一人病気の子がいると母親がそっちに全振りしてしまうのはお約束。
兄弟はその子にお母さんを独り占めされてしまい、特にまだ小さかった下のお兄ちゃ
んは不満をぶつける。でも私の親世代の昭和一桁お父さんが教員の仕事をしながらお
兄ちゃんたちの面倒を見たりご飯を作ったり。福島母のみならず福島父も素晴らしい
協力体制を見せていた。。
それでも「育メン」なんて言葉もない時代、子供の病気で父親が仕事に穴をあけるな
んて許されない。お父さんもいっぱいいっぱいになってくる。
病気は本人のみならず家族にもつらい思いを強いてくるのだ。

ところで、始めて行った大きい病院の胡散臭い先生をリリー・フランキーさんがとて
もいい感じに演じていたのが個人的にはツボでした(笑)


盲学校に入ってからも、福島少年はカフカを読んで思索したり落語を楽しんだり、ピ
アノを弾く女の子に恋したり、青春を謳歌する。一方、お母さんは点字タイプライタ
ーで参考書などをせっせと点訳して送っていた。

最近は「親ガチャ」なんて言葉を聞くけれど、優秀な本人とそれを支える優秀な家族
。その二つがそろわなければスーパー障碍者は生まれない。どちらが欠けてもダメで
ある。福島教授はやはり生まれるべくして生まれたのだ。

私の友達でも、盲学校出身の優秀な人の話を聞くと、お父さんが参考書を音読してカ
セットに録音したものを送ってくれたとか、小さいころお母さんが絵本をたくさん点
訳してくれたなどの話を聞く。高校から盲学校ではなく普通の学校に行った友達は、
点訳された教科書がなかったので、お母さんを中心に点訳ボランティアグループを組
織して全科目の点訳教科書を作ってもらったそうだ。

相手の指に自身の指を重ね、点字を打つコミュニケーション手段、指点字が爆誕した
のも、福島さんのお母さんが点字タイプライターを自在に扱えた前提があってこそで
ある。


目が見えなくなるだけでも自殺を考える人が結構多いと聞く。そのうえ聞こえなくな
る恐怖はいかばかりだと思う。「どこともわからない宇宙に投げ出される感
じ」というのは漠然とイメージしただけでも足がすくんでしまう恐怖だ。

「視力聴力を失っても、考えることはできる」というのは福島さんだからこそ説得力
のある言葉だと感じた。

映画を見た後福島さんのインタビューを読んだ。冷静で的確。きれいごとなしのリア
ルをニュートラルに話されている。。物事を俯瞰で見ているのがかっこいいと思った


日本語字幕や音声ガイドをつけた映画についても、情報障害がある人とない人では全
く同じものを共有できるわけではない。そのうえで何ができるか、別の形でどう鑑賞
するかを考えるのが大切だとおっしゃっていた。
私も同感です。

ところで今回映画を勧めてくれた友達、ピアニストではないけれど、どうやら福島さ
んの初恋の相手の女の子のモデルなんじゃないかという話。やはり盲人世界は閉じた
生態系のようだ(獏)

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