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四半世紀恋愛珍道中③

大学生になり、入学式前日に罹った病気もめでたく治癒し、私はゲーセンでバイトを始めた。

そこで知り合った人に一目惚れし、割とがつがつとアタックして交際に持ち込み、さらっと処女を捨て、そして別れた。

どうしよう3行で終わってしまった。

3行で終わってしまったのは理由があって、とにかく相手のキャラが薄いというか何もかもが記憶に残っていないのだ。

やたらと日陰が似合うアンニュイな青年で、およそエネルギーというものが感じられなかった。
ただ、たまに気心が知れた人に見せる笑顔だとか寂しげな佇まいに惹かれた。
明らかに女性慣れしていないのは分かったのでこっちから猛アタックした。ガードの固い人だったので割と苦労した覚えがある。

付き合い始めの新鮮さを楽しめたのは僅かな期間で、だんだん相手のどうしようもない覇気のなさに物足りなさを感じて冷めてしまった。自分で選んでおいて本当に身勝手な女だと思う。

さらっと処女を捨てた時も、あまりにもさらっとしていたため何の感慨も湧かず、友達に「何が何やら分からなかった、何の感慨も湧かなかった」とメールしたのだが、送信ミスでまさかの彼本人に送ってしまい頭を抱えるという失礼すぎるミスをぶちかました(本当に申し訳ない)

彼と別れるのと同時にゲーセンのバイトも辞め、今度は居酒屋で働くことになった。
そこが血で血を洗う恋愛大魔境だったとも知らずに。

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恋愛大魔境編(前編)

総席数40ほどのこじんまりとした創作和食居酒屋のホールで、バイトをすることになった。

私はブスのコミュ障として18年間生きてきたが、散々痛い思いをする中で「愛想良くニコニコして社交的に振舞っていれば、それなりにうまく生活できる」ことを学び、アクセル全開でニコニコしていた。

自身の容貌については過剰なほど悲観的・自虐的で、こんなブスならいっそ死んでしまいたいと思っていた時期が長く、人の目を見て話せなかったり鏡を見ると泣きたくなる等の深刻な症状もあったが、そこら辺は気合いで克服した。気合いがあれば何でもできる。

人と関わるのは嫌いではなかったので、ホールの仕事は忙しくとも楽しかろうと思った。立ち仕事なのでカロリーも消費できるし賄いだって出る。ここでお給料を稼いでオタク活動に充てようと思っていた。

バイト先は若い従業員が多く、男女比は半々ぐらい。女子は気の強そうな体育会系からギャルモデルみたいな華やかな美女、会社勤めの後の副業OLと様々だった。
男子は大学生やフリーターが主で、正直あまり目に入ってなかった。すっかり恋愛がしんどくなって男性を避けていたからだ。

仲良くなると色んな話が耳に入ってくる。やれAとBが付き合ってるだの、ホテルに入るのを見ただの、尻軽のCちゃんがDさんをお持ち帰りしただの、大体こういうくだらない下半身系の話である。どうやらなかなかお盛んな職場のようだ。

私には関係ない話だな~と思っていた。私はとにかくここで金を稼ぎ、趣味の活動費に充てるのだ。気の置けない女友達なんかも出来たらまぁ楽しいかな、くらいに思いながらひたすらニコニコ笑顔を振りまいて働いていた。

ある日、漫画の話で少し盛り上がったことがあるMという男子に「漫画を貸したいから夜会えないか」と言われた。
いや、バイト先で渡せばええやんと思ったが、冊数が多いので家からバイクで私の家の近くまで持っていきたいらしい。なるほどそれなら仕方ない、と承諾する。

山盛りの漫画を読み終え、返そうとしたら今度は「外でお茶がしたいからバイトが休みの日に会えないか」などと言う。
当時鈍感だった私も流石に気付く。ははぁ…さては私に気があるな?

実はMのことは少し苦手だった。やたらリーダー風を吹かせるところとか、ぐいぐいこちらのパーソナルスペースに割り入ってくるところがちょっとしんどいのだ。

先手を打って、「今恋愛とかあまり興味が無いんだ」「学校忙しいからなぁ」などと遠回しに匂わせたが全く察して貰えず、どストレートに告白された。

めちゃくちゃオブラートに包んで普通に断った。
同じ空間で働き続けるのは気まずいが、仕方なかった。Mはキッチン担当なので顔を合わせる機会もそう多くない。

それと並行して、キッチンで料理を作っていたTさんと親しくなった。
Tさんは私より8つ上で、バンドマンをやっている。料理が好きで、バンドと料理人を兼業でやりたいと話していた。

私はその頃洋楽が好きで、パンクロックやラウドロックを聴いていたから話が合った。今度ライブやるけど来る?みたいな会話をして、「この人歳上だけど話しやすいなぁ、怖い人かと思っていたけど優しいなぁ」と思っていた。

何回か一緒に出かけて、気付いたら相手の家におり、気付いたらそういうことになっていた(察してください)

晴れて恋人同士になり、平和で楽しい日々が始まった。順序はまぁちょっと変だけども平成の世やしな、ええやろ。

彼はとにかく物凄く良い人だった。腕にはがっつりタトゥーが入っていて最初は驚いたし、何故か私のことを常に「ハニー」と呼ぶのはほんまに頼むからやめてくれよと思ったが、強面な外見とは裏腹にマメで気持ちの優しい人だった。

付き合っていることはバイト先には秘密にしていたが、どうやらどこかで目撃でもされていたのかバレていたらしく、ある日事件が起きた。

キッチンで乱闘騒ぎが起きたのだ。いや…なんでそんなことなるん?

話を聞くと、MがTさんに喧嘩を売ったらしい。「俺の告白を恋愛に興味がないからと断ったくせにTさんと付き合ってるなんて、あの女随分な尻軽なんすね~」みたいなことを言ったそうだ。
怒ったTさんがMを殴り、キッチンが修羅場になったらしい。私はその日休みだったので、人づてに話を聞いた時卒倒しそうになった。

そんなドラマみたいなことあります…?
もうどんな顔して出勤すれば良いか分からなかったし、みんな敢えて触れずにいてくれたけどそれが逆に腫れ物扱いされているようで非常に辛かった。

どっちが先か忘れてしまったが、TさんもMもバイト先を辞めてしまった。とりあえず今でもMのことは恨んでるし5発くらい殴ってマットに沈めたいと思っている。

トラブルを乗り越えて私はTさんとは交際を続け、20歳の誕生日に初めてロードゥイッセイのパルファンを買って貰ったりした。なんとまだ持ってます。

だんだんと家族のような関係性になり恋愛感情を保てなくなって別れたけれど、別れ際まで仲が良かったし交際中も喧嘩らしい喧嘩もしなかった。

彼には本当に感謝している。当時貰ったバンドTシャツは今も私の息子が着ております…!(何着せとんねん)

Tさんと別れた後も私はバイトを続けていた。
もうこの職場でいざこざが起きることは無いだろうな。

甘かった。新たな刺客が現れたのだ。しかも3人同時に。

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