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人材の新陳代謝;世代交代を促すこと

少し前のネット記事に、有名コメンテーターが「高齢者は老害化する前に集団自決、集団切腹みたいなことをすればいい」などと発言し、炎上したというものがありました。

自決・切腹などといった表現は、あまりにも過激であり叩かれるのはやむを得ないことでしょう。ただし発言主旨が「古い考え方や固定観念に固執し、時代遅れの価値観を押し付けるような高齢者は、自らの意思判断で早期にリタイヤしてほしい」ということであれば、その意図には大いに同意するところです。

地方スポーツ団体において、高齢の方々の組織残留により世代交代が滞ることによる影響と、これからどう対処すべきかについて思うところを記します。

地域クラブでの経験

20年以上前のこと;競技関連の先輩から依頼を受け、当時、私が勤めていた地域の陸上クラブの事務局を4年間ほど務めたことがありました。現在に比べ、当時は人脈や地縁による結びつきが色濃く、断る理由もなく引き受けました。その陸上クラブは栃木陸協の加盟団体という位置づけであり、現在もその関係は続いています。

事業としては、競技会とロードレースを年1回ずつと、定期練習会などを行いました。開催に際しては、各学校に募集要項を配ったり、取りまとめてプログラムを作ったり、賞状や商品の手配をしたり…ロードレースでは警察に出向いて道路使用許可を取得したりと、さまざまな手続きや事務処理をこなしました。こうした活動を通じて、地域の陸上競技振興に貢献していることを実感でき、やりがいを持って意欲的に取り組んだものでした。

しかし当時、その陸上クラブの組織体制は脆弱でした。クラブの名簿には、50名先の人員が示されていましたが、多くの方が「幽霊会員」になっており、大会運営などに協力してくださる方は、限定的でした。

定例で行われる総会では、毎回失望させられ辟易したものでした。集まるのは高齢の方ばかりで、合計10名ほど。1980年「栃の葉国体」において、指導者・審判・大会役員等として活躍した方々でした。その地域クラブで会長・理事長・総務…などといった役職を持ち、その肩書きを生きがいにしている方々の集まりとなっていました。

率直に言えば、そうした方々の一部は明らかに老害化していました。総会では建設的な議論がなく「会費をいかに集めるか」などということと、身の上ばなしばかりでした。その場で私が事業内容の改善などについて、現場の声を伝えたり、さまざまなアイデアを提案しても、認められたものは一切ありませんでした。総会参加者にとって、そのような話題にはまったく関心がなく「次年度も前年度踏襲で、すべて従来どおり」に実施するよう指示を受けたものでした。

クラブの年会費が4,000円、そして総会・懇親会の会費が、その都度5,000円ほど。しかも事業運営や会費集金など、様々な業務を無償で行わなければならない。組織運営の改善案を出しても、総会で潰され前例踏襲を強いられる。その地域出身でもない私に、事務局役が回ってきた理由がよくわかりました。地域の方はこのクラブの事務局員となることを極力避けていたのです。地域の方の多くは、会員は続けても総会にも各事業にも顔を出さなくなっていました。

私は転勤となりその地域を離れるまで、そのクラブの事務局を4年間続けました。地域から離れるタイミングで他の方に事務局をお願いすることができ、クラブから離れることになりました。

高齢の方々で構成された機関で組織の意思決定が行われること

私はその後も長らく、複数のスポーツ関連団体の組織運営・経営に、裏方として携わってきました。延べ年数は30年近くになります。そのキャリアは「高齢者との関わり」と同義ともいえるかもしれません。

これまでにおける私の個人的な経験に基づいた、スポーツ団体に関わる高齢者の代表的特徴について、(あくまでも私の主観的な気づきとして)以下に記します。

  • 根拠や新たな知見よりも、習慣・風習・伝統・経験を優先する。

  • 長く続くもの、繰り返すことが好き。

  • 表彰や顕彰など「名誉」ものが好き。

  • 皆で、参集するのが好き。

  • 変化が苦手であり受け入れたくない。

  • 自分の代で過去の流れを変えたくない。

こうした志向性を持つ方々が集まって団体の意思決定を行う執行機関・グループが組織されると、その団体の将来の先細りは、目に見えて明らかです。現場の改善に向けて、様々な草の根の意見を取り上げようにも、実現が叶わない。誰も自ら辞めようとせず、組織の平均年齢は年を追うごとに上がっていく。組織風土の硬直化が進みます。

過去の方式と経験則に固執する高齢の方々は、自分たちが辿ってきた道を、次の世代も同じように歩むべきと考えがちです。一般のアマチュア・スポーツ団体でいえば、そのひとつは、自己犠牲精神のもと無償無休のボランティア・ベースで、スポーツ振興に貢献すること。その道を耐え抜いた人には、「表彰」「肩書き」などの名誉が待っています。

彼らにとって「現在の社会情勢に応じた適切な対応」などというフレーズは、馬耳東風なのかもしれません。あるいは、昭和30から40年代の高度経済成長期に形成された、日本スポーツの慣習が永遠に続くことを願い、信仰のごとく、その教えに従い続けようとしているのかもしれません。

現行の表彰制度が人材の停滞を促す

スポーツ界における世代交代を阻害する要因のひとつが、表彰制度だと思います。現行制度の中には、年齢順の受賞順番待ちとなっているなど、形骸化されつつあるものを含め、廃止や改編が必要なものが多い。その一例は、文部科学省による「生涯スポーツ功労者及び生涯スポーツ優良団体表彰」です。

(スポーツ功労者表彰式イメージ;記事に示す実際の表彰とは関係ありません)

国では、“地域又は職場におけるスポーツの健全な普及及び発展に貢献し,地域におけるスポーツの振興に顕著な成果を上げたスポーツ関係者及びスポーツ団体を、「生涯スポーツ功労者」及び「生涯スポーツ優良団体」として、文部科学大臣が表彰”しています。(令和4年度生涯スポーツ功労者及び生涯スポーツ優良団体表彰被表彰者を決定しました|スポーツ庁

「生涯スポーツ功労者」の場合、その表彰基準は「市町村などの地域又は職域において,引き続いて10年以上スポーツの普及奨励のための企画又は指導に特に尽力した者でおおむね40歳以上,現在もスポーツを熱心に指導している者であること。」とされています。

しかし(栃木県の場合)実際の被受賞者は、日本人の平均寿命に相当するようなご高齢の男性で、地域における競技団体や体育協会などの要職に就いている方ばかりです。(もちろん、こうした皆さま個人それぞれについてみれば、地域スポーツへの貢献は誠甚大であり、国の立場をもって表彰に値するものであることは、理解するところです。)

文部科学省表彰「生涯スポーツ功労者」
栃木県の被受賞者概要

そのようになってしまう理由は、対象を「各都道府県から若干名」と、対象者数を絞っているためです。市町から推薦された方々を、都道府県で選考(選別)すると、どうしたてもキャリアの長い方・年齢が上の方を選ばざるを得ないのです。

栃木県内某市町のスポーツ行政担当者によると「この制度があると、表彰ほしさに組織の役職(会長職など)を辞めない人が増えてしまい、それが地域のスポーツ振興の停滞につながっている」とのこと。そのため地域によっては「市町から県への推薦を今後は行わない」「定年制を設けて世代交代を進めている」としているところもあるとのことです。

裏を返せば、自治体によるそのような自主的な判断がある上、これだけ高齢男性ばかりが受賞対象となっていることをみても、健全なスポーツ振興の妨げになっていることは否めないと感じます。昭和33年度から続けられているこの表彰制度に関しては、国が主体的な(加えて必要に応じては自治体との対話的な)判断のもと「地方における健全なスポーツの振興」への適切な配慮として、廃止案を含めた抜本的な改編を行うことが望ましいと思います。

また、地方においても、同じように機能してしまっている独自の「功労者表彰」制度が散見されます。それらについては、例えば「人数枠などを撤廃した上で、ある年齢やキャリア年数を超えたら一律に表彰対象とする」など、基準を弾力的なものに変更するなどの対応を検討していくべきと考えます。

関係者全体の利益を考えたときに「昔からやっているから」「古い歴史があるから」止めない・変えないのではなく、発展的な未来の創造のために必要なスクラップアンドビルドとして、廃止等の判断をするのは非常に重要なことだと思います。

定年制を設けること

スポーツ団体の多くにおいては、年功序列型の組織体制と、上意下達の意思決定体制が特徴的です。そして現在、少子高齢化が進む中、組織では高齢者割合が年々、高くなっています。その一方で、若い世代は旧態依然とした体質を持つ組織から距離を置き、独自の組織を形成しようとしています。

スポーツ団体に関わる高齢の方々の多くにとって、役員業務に携わる中で思うことは、「自分にとって生きがいの舞台である」「自分が居なくなったら組織がダメになってしまう」ということであるようです。しかし、そこで自分の立場の維持を固持しようとすると、組織が退化・衰退してしまうことを強くご理解いただきたいのです。

ベテラン役員が抜けることで、一時的に組織の体力・能力が低下するとしても、一定の回復期間を経て、より充実した組織体制を構築することができるよう、予め時間をかけて後継者づくりに努めていくなどの準備工夫が必要であると思います。

そして世の中では、高齢者割合の増加に伴い、定年を廃止する流れが様々な場面において散見されます。しかし、ことスポーツ団体に関しては、役員に定年制を設けることを強く望みます

例えば;会長・副会長・専務理事は65歳以下、理事・委員長は50歳以下とする。その年齢を超える際には「功労者表彰」の被受賞者となり、役職を離職する。役職に応じて翌年度以降、顧問・参与などになるもののほかは、肩書きを持たない一般の審判員として、大会の運営協力を行う。

ただし、後継者が見つからない事態は当然起こり得ます。その際に例外=「やむを得ず継続すること」を認めることとし、その場合には、「功労者表彰」とあわせて、定年を過ぎても続ける方を「留任者一覧」として示し、その役員の「役職・氏名・年齢・役職暦年数」等をホームページで公表すると良いと思います。

これは、人材不足であることを対外的に示し、次の世代に向けてそのポストに「空き」ができている・人材を募集していることを広く周知しようとするものです。あわせて、情報公開の意味合いを持たせるとともに、新陳代謝を図ろうとする組織の意思表示にもなり、組織の健全性を示すことにもつながります。

規模の大きな組織であれば、組織のOB会をつくり、「メンバーの交流機会」「組織への貢献活動機会」などを設定するのも有効と思います。直接、組織の経営には関わらない条件下で、高齢の皆さまの生きがいを奪うこと無く、活動していただこうとするものです。そして組織の意思決定は若い世代で担っていく。そうした流れができることを望みます。

結びに

以上は「言うは易く行うは難し」です。それでも、従来の慣習・しきたりを次の世代にそのまま引き継ぎ、課題解決を先送りすることができるだけないように、現在の社会情勢に適した体制づくりに努めたいと強く願うところです。同時に、明日は我が身であることを心得、引き際の見極めを適切に判断したいと思います。

最後に、冒頭の言葉を言い換えて、地方スポーツ団体に関わる皆さまにお伝えいたします。

高齢になると、古い考え方や固定観念に固執し、時代遅れの価値観を押し付けるようななりやすいものです。そうならないよう、一定の年齢、一定の年数に達したら、自らの意思判断で早期に離職してください。そしてそれまでに、あなたが居なくても組織が回るよう、後継者を育ててください。もし、それができないとしても、あなたが居なくとも組織は回るものです。時期が来たら、静かに退いてください。