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NVICアナリストのつぶやき 第3回 「日本人の活字離れは本当か?」


皆さん、こんにちは。NVIC note編集チームです。

本日はアナリストコラムの第3回をお送りします。

NVICでは、普段新聞などを読む際に、データの裏を取ること、複数のデータを組み合わせて考えること、そのために日ごろから身の回りの事柄についておおざっぱなデータを頭に入れておくこと、を励行しています。

数字を使って分析することを仕事にしている以上、当たり前のことではありますが、日々の頭の体操の積み重ねが、企業を分析し自分なりの仮説を構築する上で大いに役立っています。

今回は、アナリストの岩本が、「活字離れ」していると言われる日本の現況を、データを基に冷静に分析しています。

日本人の活字離れは本当か? ~“出版不況”と読書習慣~ 

皆さん、こんにちは。NVICの岩本です。

筆者は最近、今更ながらタブレット端末を初購入し、電子書籍で読書をする機会が多くなりました。紙の本に対して手触り感や没入感ではやや劣るものの、端末一台で何冊も本を持ち歩ける手軽さで非常に重宝しており、読書量自体も幾許か増えたように思います。

タブレット端末の普及とあい前後して、「日本人の活字離れ」が叫ばれるようになって久しくなりました。

芸能人が執筆した本がヒットすると「“不況が続く”出版業界で“異例の”大ヒット!」などと報道されるように、何かにつけてネガティブな枕詞が付されるのがここ10年以上の出版業界です。

では、日本人は本当に本を読まなくなったのでしょうか。今回は、出版業界や日本人の読書習慣について目を向けてみたいと思います。

下図は、出版不況が語られるときによく提示されるデータです。確かに、書店数や書籍市場の推移を見てみると、報道等にあるとおり減少が続いています(図1、図2)。特に雑誌は、市場が急激に縮小しており、非常に厳しい状況下にあるようです(図3)。

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(※)コミックス単行本を含み、雑誌、コミック誌を含まない。一部推計。
【出所】アルメディア、全国出版協会

しかし、筆者も活用中の電子書籍を加えた「総合書籍市場(=紙書籍+電子書籍)」を見てみると、意外にも、市場規模は概ね横ばいにて推移しています(図4)。

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(※)コミックス単行本を含み、雑誌、コミック誌を含まない。一部推計。
【出所】紙書籍:全国出版協会、電子書籍:インプレス調査

また、人が本を入手する方法は、購入以外にもあります。
その代表例である図書館について調べてみると、図書館数は一貫して増加、貸出数も増加~横ばいにて推移しています(図5、図6)。

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【出所】日本図書館協会

以上のデータをもとに、購入もしくは図書館貸出によって1年間に読まれている書籍数、および日本人一人が1年間に読む書籍数を試算したものが下図です(図7、図8)。

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【出所】図書館貸出:日本図書館協会、紙書籍:全国出版協会、電子書籍:単価を紙書籍と同じと仮定して推計、人口:World Bank

上図を見ると、日本人は、平均して一人当たり月1冊程度の本を入手して読んでおり、その水準は長期的には漸増傾向にあります。電子書籍業界での「読み放題サービス」の浸透等を考慮すると、読書量自体は上図以上に増加している可能性もあります。

ちなみに、電子書籍の8割強をコミックスが占めます。雑誌市場の急激な縮小と併せて考えると、従来暇つぶしの手段として購入されていた紙書籍(雑誌、コミックス)が、スマホや電子書籍といったより手軽な手段に代替されているというのが実態かもしれません。

「日本人の活字離れ」が取り沙汰される昨今ですが、以上の結果を踏まえると、個人の読書量自体は、減少しているどころかむしろ増加傾向にあるようです。

今回の「縮小する書籍市場」の例のように、その事実自体は正しくても、それが発信者の言いたいことを表現するための「抽出された事実」であることは多々あるように感じます。

新聞を読む際や企業分析等の日常業務においても、物事に対して少し引いた視点から俯瞰して考えるようにすると、その本質をより捉えやすくなるのではないでしょうか。

(担当:岩本)